第2話

 体の痛みで目が覚めると、目の前には心配そうに見つめてくる女の子の顔があった。どうやらあの後、気を失っていたらしい。

「ここは……?」

「良かった気がついたのね。まだ森の中よ」

「そうか……。とりあえず助けてくれてありがとう」

「助けられたのはあんたが諦めなかったからよ。結構ギリギリだったもの」

「そう……だったのか」

 無駄じゃなかったんだ、諦めなかったのは。

 そういえば後頭部に何か柔らかい物が当たっている気がする。

(ん、待てよ……この頭の感触と言い、この子の顔がこの向きと言うことは……膝枕されて!!)

「?……どうかした?」

 気付いて慌てて飛び起きる。

「うわぁああ、ごめん!……その膝枕されてるとは思わなくて」

「別に気にしなくて良かったのに、それに急に飛び起きたら危ないでしょ!」

「ごめん……」

「まぁいいわ、起き上がれるくらいには回復したってことでもあるし。それじゃあ動けそうなら街に戻りましょうか、ちゃんと手当てもしないとだし」



 街に戻るその道中で、

「そういえばどうして助けに来れたんだ?」

「あー、それはねギルドからあんたたちの後をつけていたのよ。あいつら新人冒険者を勧誘してはクエストに行き、何故か新人だけ帰って来ないことが多かったのよ」

「それって……新人狩りってことか?でも何のために……」

「それがわからないのよねー、だからあんたの見聞きしたことが重要になるのよ。それにあんたが無事で帰ってくればあいつらがやったことを証言して処罰出来るしね」

 俺が見聞きしたことって言ってもそれほど多くない。ただあの時、

「そういえば、あの場所に着いたときゴッツは誰かを探していたみたいだった。その後ホブゴブリンに襲われたけどゴッツたちも知らなかったらしい」

「誰かを……ね、考えられるとしたら人身売買かしら」

「俺をか!?」

 俺のことをまじまじと見ながら、笑いながらそれはないかーと言ってくる。

「俺の顔を見て笑うことないだろ!」

「ごめんごめん。まぁその辺は直接聞いてみるしかないわね」



「ここまでくれば一安心ね」

 そんなこんなで森を脱出して街まで帰ってきた俺たち、道中何度かモンスターに襲われたが彼女があっさりと倒していく。

 しかし、これだけ強いのに何で一人で俺なんかを助けに来たんだろう。他のパーティからも引っ張りだこだろうに。

「ん、どうかした?あたしの顔に何かついてる?」

「いや、なんでもない。無事生きて帰って来れたんだと思って、ボーッとしちゃって」

「まぁ無理もないわね、あんなことがあった訳だし」

 本当に安心したのか痛みが戻りはじめてきた。だけど、もう少しだけ我慢しなければ……。

「あんた辛そうね、早くギルドに行きましょうか」



 ギルドに入るとそこには見覚えのある三人が泣きながら何かを言っていた。

「信じてくれよ、ホブに囲まれた時にアイツは新人の癖にオレたちを庇って一人残ってよぉ……」

「かっこよかったなぁ、当たりそうになった攻撃から突き飛ばして守ってくれるとは……」

「漢の中の漢だったぜ……」

 言いたい放題だった。

「よくもまあそうでたらめを思い付くものね」

「なんだとてめぇ……ってオマエ生きて……」

 俺に気付いて言葉を詰まらせる。

「さっきぶりだな、俺を投げ飛ばして逃げたゴッツさん」

 俺が生きていたことに焦っていたゴッツだったが次第に落ち着きを取り戻していき、

「生きて……そう、生きていて良かったぜホントによぉ。置いて行っちまって心配してたんだよぉ」

「白々しいわね、あんた言ってやりなさい、こいつらがしたことを」

「あぁ、実は――」


 森でゴッツたちがしたことを話す。

 話し終わる頃にはゴッツたちも観念したのか、俯きながら聞いていた。

 そして、少しずつ語り始める。

「あぁ……オレたちがこいつを囮にして見捨てた……でも仕方なかったんだ!あんな所にホブの群れが出てくるなんて知らなかったんだから!」

「そもそも何でこんなことをしたのよ?」

「それは……力が欲しかった。冒険者を連れてくればそれと引き換えに力をくれるって言ってたんだ……!」

 冒険者と引き換えに力を得る……?つまり生け贄にされそうだったのか!

「そんなこといったい何処で誰に言われたの!?」

「全身黒のローブで仮面を着けていた男……だったと思う、最初に会ったのはこの街の路地裏だった。それ以外のことはわからねぇ」

「いったい何が目的でそんな取り引きを……」

 そこでギルドからの連絡で騎士団の兵士たちが駆けつけてきた。

「この三人か連絡にあったのは」

「はい、そうです」

 ギルドの受付のお姉さんが説明する――


「――大体の事情はわかった。後はこちらにお任せください」

 連れていけ、と部下たちに指示を飛ばす。

「何かわかったらギルドの方にも伝えます。では、我々この辺で」

 そう言って敬礼し兵士はゴッツたちを連れてギルドから出ていった。


「さて、ようやく休めるわね。あんたも、もう限界でしょ、ここまで付き合わせて悪かったわね」

「忘れてた……思い出したら痛みが……」

 痛みで体を支えられなくなり倒れそうになる。

「おっとと、大丈夫……じゃないわね。今ヒーラーさんいるかしら……」

 倒れそうになった俺を支えながらヒーラーを探す彼女の元に、

「あ、あの!わ、私で良ければ手当てしましゅ!」

(噛んだ)

(噛んだわね)

「(うぅー……噛んじゃった……)」

「と、とにかく助かるわ。こいつを休ませられる場所に行きましょうか」



 ギルドの休憩室に来た俺たち。そこで寝かせられた俺は回復魔術受けていた。

「あなた回復魔術が使えるなんて凄いわね」

「まだ基礎の『ヒール』しか使えないんですけどね」

「それでも凄いわよ。回復魔術を使うのって半分才能みたいなもんだし」

 疑問に思った俺は質問する。

「結構珍しいもんなのか回復魔術って」

「誰でも使える攻撃魔術と違って、回復魔術は適性が必要なのよ」

「そう言うもんなのか」

「し、知らなかった……」

「あんたたちねぇ……」

 だいぶ痛みも引いてきたから体を起こす。

「もう大丈夫だ、回復ありがとう」

「ふぅ……お役に立てて良かったぁ……」

「ほんとありがとね。ただあなたはもう少し自信持った方がいいと思うわよ」

「が、頑張ります……。……で、では私はこの辺で帰りますね」

 それじゃあ、と別れの挨拶をして休憩室から出て行くのを見送る。

「それにしてもあんた災難だったわね、下手したら死んじゃってたかもしれないんだから」

「まったくだよ。まさか冒険者になって一日目でこんな目に遭うとは思ってなかったよ」

「一日目!?本当になったばかりじゃない!アイツらこんな新人まで利用して力を得ようとするなんて許せないわね……」

「実際力を得るってどういう事なんだろうな」

「さぁね、力を得たやつか、力を与えたやつに直接聞くしかないんじゃない?」

「問題はどうやって会うかか……」

「まぁあんたはそこまで気にしなくていいわよ。事件の被害者だけど、あんたは新人なんだからさ、無理に関わらなくていいのよ」

 まぁ見つけたらギルドに報告して欲しいけどね、と苦笑いしながら付け加える。

「それじゃあたしも帰るわね」

「ちょまっ……」

 立ち上がり手を伸ばすも言葉が咄嗟に出てこない。

「ん?まだなんかある?」

 このまま見送っても良いのだろうか、今別れたら何故か二度と会えない気がする。

 引き止める方法は……。

 あるじゃないか一つとっておきのが。

「お、俺とパーティ組んでくれないか!」

「……!」

「駄目、か……?」

「いえ、少し驚いただけ。パーティに誘われるなんて久しぶりだから。でもどうしてあたしと組みたいの?」

「それは……。つ、強くなりたいんだ、強くなって父さんを探すために」

 嘘ではない。実際に強くなりたいし。

「ふーん、それってあたしじゃなくてもいいんじゃない?もっと強い人とかいっぱいいるんだし」

 確かにそうかもしれない。でも……。

「それでも君とパーティを組みたい」

「そっか……、わかったわパーティ組んであげる。あんなことがあった後であたしを信用しての事だもんね」

「それじゃあ……!」

「ええ、これからよろしくね」

「よろしくな、えーと……」

「あぁ……そう言えば名乗って無かったわね。あたしはリナあらためてよろしくね」

「俺はカイトよろしくな」

 今度は伸ばした手で握手をした。



 兵士に連行されているゴッツたち。腕には魔力の使用を制限する手枷が嵌められている。

 牢屋に向かう道中、人通りの少ない路を進んでいる時に突然、


 ヒュン!


 と言う風切り音。その直後にバタリと誰かが倒れる音。

 それを聞いた前にいた兵士が後ろを振り返り、

「おい、いったい何があった!」

「わかりません!急に倒れて!」

「おい!ノッポ大丈夫か……って何だこれは……短剣か……?」

 ノッポの心臓に刺さっていたのは黒い短剣だった。 

「周囲警戒!」

 兵士たちが周りを注意を向けている最中に、再びの風切り音。内側にいたゴッツ、ヒョロにも心臓に黒い短剣が刺さっていた。

 バタバタと倒れる音に気付き振り返るもそこにはゴッツたちしかいなかった。

「本当にいったい何が起きているんだ……」

「う、うわぁぁぁあああ!」

 恐怖に耐えかねた兵士の一人が逃げ出す。

「おい!待て!」

 逃げ出した兵士に注意を向けた瞬間、隊長から血飛沫が舞う。

「隊長ぉおお!」

 隊長の後ろに一瞬人影を見た兵士だったが、次の瞬間には自分の体を見上げていた。

 ――そして最後に、逃げ出した一人も倒される。


 その後兵士に連絡した人が言うには、血の跡は沢山あったが死体はひとつも無かったと言う。

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