剣と魔術と七人の魔王幹部

@john-purin

第1話

 雪が積もる山の中、目の前には遺跡が見える。その前で俺と赤い髪の女の子が対峙している。

 お互い言葉を交わすことなく剣を構える。

 そして、

「お前を――」

「あんたを――」

「「倒す!!」」

 同時にお互いの間合いまで一気に距離を詰め――

 ガキィィィン!



 そこで目が覚める。目の前にはもういつもの宿の天井しかない。

 夢にしては妙にリアルだった。

(それにしても綺麗な赤い髪の子だったなぁ……)

 そんなことより今日で十六歳、やっと冒険者になれる!

 支度をして部屋の扉を開け一階に下りると、

「おはよう、それと誕生日おめでとさん」

 そう挨拶してくれるのはここの宿屋でお世話になっているおばさんだ。

「おはようございます、これでやっと冒険者になれる」

「あんた……やっぱりお父さんを?」

「あぁ、冒険者になって、病気だった母さんを置いて出ていった、父さんを探しに行く」

「それじゃあ朝ごはんをちゃんと食べないとね。用意してあるからたーんとお食べ!」

「ありがとう、頂きます」

 そう言い食堂に向かった。



 食事を終え冒険者ギルドに向かう。

 この街『レピダス』は真ん中にギルドが建っており、そこから東西南北の四方向に大きな通りがあるのが特徴の街だ。

 俺がお世話になっている宿はギルドから南の通りにある。北に向かいギルドの扉を開けると、

「うわぁ、すげー!これ全員冒険者なのか」

 そこには人、人、人!たくさんの人で溢れていた。

 聞こえてくる会話も、

「クエストどれやる?」

「パーティ組みませんか?」

「最近モンスター強くね?」

 など冒険者らしいものになっている。

 冒険者になるために受付に行き、受付のお姉さんに話し掛ける。

「すみません冒険者になりたいんですが」

「新規登録者さんですね!ではこちらに名前等、必要事項を記入してください」

 そう言いながら書類を渡される。

 名前や年齢等を記入していく――。

「これで大丈夫ですか?」

「ふむふむ……名前は……カイトさんですね!それではこれで登録しますね!」

「あれ……?試験とか無いんですか?」

「ちょっと前まではあったんですが、最近モンスターが活発になってきていて人手が必要なんですよ。それで今は書類だけになったんですよ」

「そうだったのか」

 少し拍子抜けだったがこれで冒険者になれたんだ!

 それからと受付のお姉さんが、

「冒険者にはブロンズ、シルバー、ゴールドなどのランクがあるのですが、当然ですが新人冒険者さんはブロンズからになります」

「ランクを上げるにはどうすればいいんですか?」

「基本的にはクエストをこなしてギルドに実績を認められることでランクアップ出来ますよ」

 ただし、と前置きをしながら人差し指をたてビシッと注意するようにお姉さんは言う。

「新人さんは無理せず実力に見合ったクエストをパーティを組んでやるんですよ!」

「は、はい……わかりました」

「こちらが冒険者ライセンスです。それでは気をつけて頑張ってくださいね」 

「はい!」

 笑顔の受付のお姉さんからブロンズランクの冒険者ライセンスを受け取り、こうして俺の冒険者としての人生が始まった。



 さっそくどのクエストを受けようかとクエストボードを見ていると、ゴツい男をリーダーとした三人パーティに声をかけられた。

「おい兄ちゃんオマエ新人冒険者だろ、良かったらオレたちと組まないか?先輩として色々教えてやるよ」

「本当か!さっき冒険者になったばっかりだから正直助かるよ」

 柄の悪そうな連中だったが冒険者だしこんなものなんだろう……たぶん。

 それに右も左もわからなかったから向こうから誘ってくれるのは有り難かった。

「それじゃあ決まりだな!オレはゴッツこっちの細いのがヒョロで、そっちのデカイのがノッポだ」

 それぞれに挨拶したところでゴッツが持ってきたクエストの内容を確認する。


【ホブゴブリン及びゴブリンの討伐】

 東の森に棲息する[ホブゴブリン]及び[ゴブリン]の討伐。

 [ホブゴブリン]一体につき銀貨一枚

 [ゴブリン]一体につき銅貨二十枚


「これがシンプルな討伐依頼だな。倒せば倒すほど儲かるぜ」

 とゴッツが説明する。 

「何体くらいが目標なんだ?」

「ん、あぁ……そうだな……ホブは見つけにくいから二、三体でチビは十体程度倒せればいいんじゃねぇか」

「そんなもんで良いのか?」

「初めてなんだしこんなもんだろ。よし、目標も決まったことだし出発するか!」

 そうゴッツが締めそれに続けて、

「「おー!」」

 と全員で掛け声をあげた。

(これが初めてのクエスト、絶対に成功してみせる!)



 目的地である東の森にたどり着いた俺たちは、ゴブリンを倒しながら奥へと進んでいく。

 しばらく進んでいくと少し開けた場所に着き、先頭を歩いていたゴッツが立ち止まり言った。

「この辺か……。おい!居るんだろ連れてきたぞ!」

「ゴッツ……?あんた何を言って――」

 すると突然獣の雄叫びが周囲から聞こえてきて複数の足音がこちらに向かってくる。

「オイオイオイオイ聞いてねえぞ!」

 慌てふためくゴッツにヒョロが後ろを見ながら言った。

「ヤベェっすよゴッツさん完全に囲まれてるっすよ」

「しかもホブの群れだと!?」

 とノッポが続けて叫ぶ。

 するとゴッツが俺に指を差して、

「こいつを囮にして後ろのを倒して突破するぞ!」

「「へい!」」

「ちょ、お前ら何を言って」

「悪いなオレらのために犠牲になってくれ」

 そう言うと俺の胸ぐらを掴みホブゴブリンの方に投げ飛ばした。

「うわぁああ!」

 ホブゴブリンの目の前に放り出された俺に、容赦なくホブゴブリンの棍棒が振り下ろされる。それを横に転がるように何とか避ける。

 しかし、避けた先にも別のホブゴブリン。起き上がろうとしたところに蹴りが飛んできた。

「ぐはっ!」

 今度は避けられずに地面を転がされてしまう。

 後ろではゴッツたちが二体いる片方を倒して逃げていったのが見えた。それを追うように俺を攻撃してきた二体とはさらに別の方向にいた一体と後ろの一体が追いかけていったようだ。

 それでも目の前には二体のホブゴブリン。俺一人では敵うわけもなく、逃げようにも痛みと恐怖で動けない。

「ハハッ……俺の冒険者人生もここで終わりか……」

 ゆっくりと近づいてくる足音が止まり、振り上げられる棍棒。

 (これで終わりか……もう諦め……諦められるわけねぇだろ!)

 だってまだ何もしてない!

 一分一秒でも逃げ続けて、生き残る可能性を掴んでやる!

 そして、振り下ろされる棍棒を後ろに跳んで回避する。しかし、またしてももう一体のホブゴブリンが着地を狙って蹴りを入れてくる。それを腕を使って胴体を防御するが大きく吹っ飛ばされる。

「がはっ!」

 地面に叩きつけられて肺から空気が押し出される。

 なんとか息を整え起き上がるも既にかなり近くまで来ているホブゴブリンたち。さらに、後ろで倒されたと思っていた一体が起き上がりそのまま脇腹目掛けて棍棒が振り払われる。

「しまっt」

 今度は横に吹っ飛ばされ木にぶつかるまで転がされた。起き上がろうにも力が入らなかった。

(ここまでか……)

 迫る足音、もう駄目かと本当に諦めかけた時、


「『ファイヤーボール』!」


 そう聞こえた方を見ると女の子と火の玉が三つ。火の玉がそれぞれホブゴブリンに飛んでいき命中する。

「「グォオオオ」」

 火の粉を払うように暴れるホブゴブリンたち。その隙を逃さず一体また一体と斬り伏せていく。

 そして、最後の一体の振り下ろしを体を右にずらして避け、そのまま横を斬り抜ける。


 ドスン!


 最後の一体を倒しこっちに駆け寄ってきて、

「あんた大丈夫!?」

 三体のホブゴブリンを一人で倒し、そう声をかけてくるのは、綺麗な赤い髪の女の子だった。

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