第49話
神という言葉は、啓一にとっては切っても切れない重要な単語だった。
それは異世界での体験にも関係していた。
「神か。テメェら神はロクでもねぇ奴らばかりだな」
「あー怖い。だけど、いくら人間がすごもうが、私にはそよ風のようにしか感じない」
「だったテメェを吹き飛ばす嵐にしてやらぁ!」
啓一の攻撃は強力ではあるが、神の前では脅威ではなかった。
斬撃をよけるそぶりも見せずに、ただ啓一だけを見つめるアサティアは余裕の顔を崩さない。
何故なら蘇生の祝福を持っているからだ。
これにより、神は例外なく限りなく不死に近い状態になっている。
「蘇生できなくなるまで、殺し続けてやるよ」
「それは面倒だ。我々神も不死と言うわけじゃない」
蘇生の祝福は一日の回数制限が存在する。
その回数に到達すれば当然神であろうと死に至る。
そして啓一は死を覆すことができないことは身をもって理解していた。
「どの神と対峙した?どうみても神との戦闘が初見には見えない」
「知るかよ!ダインスレイヴ、もっと持ってけ」
『危険と判断したら、供給は止める。それでもいいなら』
「早くしろ!」
ダインスレイヴは内心で啓一にため息を付きながら、啓一から魔力を吸引始めた。
身体の魔力が減ると同時に、渇きが喉を埋め尽くした。
そして湧き上がる力の数々。
啓一自身、今の肉体強化は身体への負担が大きすぎると感じていたが、それでもいいと感じるくらいの湧き上がるエネルギーに、高揚する啓一だったがすぐに気を引き締める。
「人間とはとても思えない感情の抑制力。これほどの人間には出会ったことがない」
「千葉!さっきのあれーーー」
「言われんでも溜めとったで!下がれ」
「仲間の死で放心してっかと思ったわ」
湊の攻撃は、蘇生の回数を度外視で倒すことができた。
それはつまり、持久戦を前提とした祝福持ちに対しての伝家の宝刀の様に扱われるようなもの。
つまり、計画に入らないイレギュラーとも言えた。
「ベル、いやアサティア。これで終わりや!」
「あー、それねぇ。もう飽きたよ」
そういうと、湊の斬撃をあっさりと消し去ってしまった。
虚無魔法とは、空間を捻じ曲げる転移ゲートのようなもの。
しかし転移とは違い、虚無魔法は握り空間を捻じ曲げて握り潰すようものである。
そしてこの魔法の特徴は空間属性ではなく祝福であり、他の属性の魔法も問題なく使えることだった。
「なにっ!?」
「あーっと・・・確か、ファイアストーム」
湊が簡単に握りつぶしたあと、間髪を入れることなく恵の強力な魔法のひとつであるファイアストームを展開され、啓一は湊を蹴飛ばして難を逃れた。
「高須の魔法・・・」
「もう会話も怠くなってきたからさ。やっぱり怠惰は重たい」
七つの大罪の一つ、怠惰はアサティアにとってはかなり負担のある欲求だった。
戦闘中に怠くなるのだ、それは当然優勢じゃない時でも起こる。
「神なのに大罪を背負う苦しみをわかってくれ」
「神も悪魔も大して変わんねぇよ。信仰で神は人を救ってはくれねぇんだよ!」
「あー、それはそうだな。タダでそんな都合がいいこと送るわけない。子供でも知ってるだろ?」
それは当然の話だが、啓一にとってはそれすらも腹が立つ。
ならばこちらに干渉をしてくるなと、心の中で吐き捨てるほどに。
「私は帰るとするよ。実験データもとれたし、傲慢も回収できた」
「逃がすと思ってんのか?」
「逃げるよ。だって君はこれから放心状態に入ると思うから」
「なんだと?」
ニコリと笑って、まるで何かをここに呼ぶかのように指を弾いた。
そして現れたのは、啓一がよく知っている人物だった。
銀色の髪に褐色の肌で、深紅の瞳を持つ少女のような姿をした女性。
「嘘だろ・・・ハル」
啓一が、異世界に行ってから何年も苦楽を共にし、そして自分の手で殺した最愛の親友だった。
啓一はアサティアの言う通りその場から動くことができなかった。
「何してんや啓一!」
「ハル」
湊は放心状態の啓一をやするが、啓一はそれどころではない。
頭ぐちゃぐちゃでわかんなくなってしまったのだ。
手を伸ばして縋っても、その答えは見つからない。
気がつけば魔王2人はその場からいなくなった。
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