第48話

 啓一の凄まじい攻勢は、魔王二人して防御に徹しないとすぐにでも命を削られるほど血気迫る物があった。

 

「くそがっ!一瞬だけ全力で動く所為でまるで消えたかのように現れやがる!」


「これはめんどいよ。もう15回も殺された」


「こっちも12回目だ。それにしても集中力が全く乱れねぇし、どうなってやがる」


 啓一は息こそ荒くはなっているものの、まだまだ余裕というところ。

 更に湊のように欲望をコントロールしたにしては、あまりにも繊細な動きをしていることで、二人は懐疑的になっている。

 しかしそれを考えているほど、時間に余裕がなかった。

 後方で居合の構えをしている湊があまりにも驚異的だからだ。

 

「あいつの居合は概念ごと斬り捨てる。恐らく俺達も真っ二つでそのまま黄泉に逆戻りだ。正直再生できる攻撃をするコイツよりも、アイツのが厄介だ」


 啓一も居合にそこまでの効力があるのは知らなかった。

 しかし、湊が考えなしに攻勢を仕掛けるほど阿呆にも見えなかったのだ。

 それ故の先ほどのやりとり。


「へぇ、そんなことできんのか!」


「お前も知らないで協力していたのか?強化の魔剣持ちであることと良い、貧乏くじを引かされたぜ」


 湊の居合は祝福によるもので、相手の祝福を確認できると同時に、祝福自体を操作することができた。

 しかしそれほどの能力行使は魔力をかなり練らなければ実行には移すことができない。

 だからこその時間稼ぎでもある。


「そう連れないこと言うな。俺は楽しいぜ、お前らとの血に血を洗う抗争は!」


 啓一は高笑いしながらぎらついた目で魔王を見据え、今にも首を刈り取ろうとしている。

 実際には何度も刈り取られているが、二人の魔王はそのことに気づいてすらいない。


「てかそろそろガス欠してもおかしくねぇだろ。なげぇよ!」


「言っただろ?それはかつての話だと」


 啓一は確かに異世界でダインスレイヴを使用するとき、一分も戦闘を継続すれば代償の血の渇きが侵食してとても闘える状態じゃなくなった。

 それはダインスレイヴが血を欲し、制御の利かない獣へと昇華されるためである。

 しかしそれが今はない。

 とある理由により、ダインスレイヴは血を欲することがなくなったからだ。


「マジで克服してるのかよ!」


「克服はしてねぇよ。だが今の俺は誰にも負ける気がしねぇな」


「厄介。だから」


 啓一は後ろに近寄るアサティアの接近に気づけなかった。

 アサティアは元々神出鬼没の魔王であり気配を消す事ができた。


「殺れギュラ!」


「首いただき!」


「今のは判断ミスだろ」


 首を狙った手刀は、ビクともせず啓一の首がはねられることはなかった。

 そのことに今度こそ、これまであった傲慢さがなくなるギュラ。

 それは当然だった。

 ガス欠しない強化の魔剣持ちと、自分を殺せるかもしれない相手。

 この二人が示される答えはーーー


「オレっちはまだ死にたくねぇ」


「死の恐怖が欲を凌駕した。はっ、本気で怯えてやがるな!」


 一度は死んだ身で、魔王としての矜持と傲慢さがギュラの精神を保っていた。

 しかしその傲慢さは、ギュラにはふさわしくなかった。


「・・・廃棄だな」


 その言葉を啓一は聞き逃さなかった。

 廃棄、つまりギュラを処分するように聞こえる。


「まぁあの方の実験につき合わせた礼だ」


 怠惰の魔王アサティアは、これまで抑え込んでいたであろう魔力を放出し始めた。

 啓一は、久方ぶりに感じる背筋をゾクりとさせるような魔力を浴びて、警戒をアサティア一人に集中させる。


「啓一!もういけるで!」


「ナイスタイミングだ千葉!」


 啓一はすぐに千葉の後ろに下がり、千葉は剣を思いきり横に薙ぎいた。

 砂塵と瓦礫があたりを支配し、砂煙が巻き起こる。

 砂煙が晴れると、胴体が切れて瀕死の重傷を負っていたのはギュラだけだった。


「仲間を盾にした?」


「仲間じゃない。実験体だ。それにしても、恐ろしいな。蘇生の祝福が無くなっているとは」


「なんやて・・・今のは俊転!?それにお前・・・」


 俊転に聞き覚えがないが、啓一にも見えていた。

 アサティアはギュラに斬撃が直撃した後に吸収した。

 あのときに波子を転移に見せかけた魔法のように。


「ふむ。使い勝手がいいなこれは」


「今のは虚無魔法。俊転といい、なんでお前があいつらの祝福を使えんや!」


 俊転と虚無魔法は、湊が異世界にいたときにパーティメンバーが使っていた祝福だった。

 そしてその魔法は、パーティメンバーの命を散らして魔王ベルを倒した。

 文字通り命がけで目の前のベルを倒したのに、かつての仲間の力を携えて蘇れば怒鳴りたくもなる。

 当然だろう。

 ここ数日間パーティメンバーが生きているはずがないと正気を捨て去り、現代に戻ってからもパーティメンバーを生き返らせる方法を探していた湊からすれば、到底納得のいくものではない。


「あははは!そんなの簡単だ。俺はベルの記憶を持つがベルではない。アサティア・スロウス。怠惰の神だ」


 怠惰を司る魔王改め、神アサティアは高らかに笑いそして残酷な真実を告げる。


「俺は、私はあの世界に怠惰をばら撒いた概念!祝福を勇者以外にも届ける事で、祝福頼りにした神なのだからな!」


 その言葉に湊は絶望し、そして啓一は怒りを露わにしていた。

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