第50話

 啓一と湊が魔王二人と対峙しているころ、恵と船橋も波子と対峙している。

 

「恵ちゃんなんだよそれ!?俺とボスとの時はそんなの使ってなかったじゃん」


「使ってほしかったのー?」


 恵は縦横無尽に動き回る肉弾戦を組み合わせた魔法を得意とする。

 それは恵のパーティが、恵一人で全てを補わなければならなかったことも理由の一つだが、その戦闘スタイルが亡き養母の戦闘スタイルに他ならないからだ。


「ちょこまかとハエみたいに鬱陶しいね!」


「波子ちゃん、正気に戻って!」


「キャハハ!あっしはいつだって正気だよ!」


 創造魔法で次々と魔物が生み出されていき、恵はその魔物を繰り返し殺してる。

 しかし恵の体力は無尽蔵じゃない。

 いずれ限界もくるし、魔力量だって苦しくなる。


「船橋、創造魔法で生み出された魔物を殺すのはいいけど、そんなチマチマした援護より明確な援護をして!」


「はぁ?こっちだって必死にやってんだよ!」


「今のあんたの援護は空間魔法使いなら誰だってできるよ!そうじゃなくて船橋は船橋にしかできないことをしてって言ってるの」


 恵も余裕はない。

 創造魔法というのは思ったよりも物量が多かったからだ。

 物量の多さはすなわち強さ。

 弱い駒でも、強い駒を足止め削ればそれは成果なのだ。


「波子ちゃんの創造魔法は発動までに1テンポのラグがあるみたい!船橋はその隙を突いてよ!」


「はぁ!?無茶言うなよ!?」


「無茶でもやるの!」


 ビュンビュンと動き回る恵の動きを捉えるのは、啓一のようにダインスレイヴで動体視力を強化されていないと難しい。

 そんな恵を巻き込まずに空間魔法を使うとなると、かなりの集中力がいる。

 そのため、船橋は鼻血が出てしまった。


「なんで鼻血なんて出してるの!?」


「いや・・・」


「まさかパンツみた!?」


「見てねぇよ!?」


「後で殺す」


 恵はスカートを履いており、スパッツやニーソは履いていなかった。

 それゆえ、諸に下着が見えるため流石の恵でも恥ずかしい。

 船橋はそれどころじゃないので、訂正は後回しにして集中する。

 これだけの速度、合わせるのも大変だがそれ以上に憧れもあった。

 空間魔法は便利ではあるが、恵の様に工夫して魔法を行使したいと思っていたこともある。

 異世界転移したものは、少なからず自分が特別だと思ってしまうことは多感な時期よくあることだ。

 しかし結果は空間魔法という枠組みでみられるだけだった。

 特別なのは自分じゃなくて、自分がもらった力なのだと悟ってしまったのだ。


「恵ちゃんも蘇我も、俺を空間魔法の使い手としてみている・・・」


 空間魔法の使い手として期待されるのと、空間魔法使いとして期待されるのはは同じようで違う。

 前者は空間魔法を十全に理解している人物で、後者は空間魔法を使える魔導士が欲しいということ。

 啓一は空間転移の痕跡を見たいと船橋を誘い、恵に至っては空間魔法を手にしただけでは難しい援護を期待されてる。

 

「これで応えなきゃ俺は、漢じゃねぇ!」


「おっ!?」


「やればできるじゃん」


 恵が対処する必要もないタイミングで次々と空間魔法で魔物を捕えていく。

 あうんの呼吸とでも言わんばかりの処理能力で、恵は波子に近づいた。

 恵は波子の目を見た。

 波子の瞳には何かが刻まれていた。

 

「これが原因・・・」


「恵ちゃん!」


 船橋の警告は、後方で波子の魔法が展開されたからだ。

 後方には巨大な爆弾のような形のモノが。

 大きさ的に船橋の空間魔法での処理が容易ではない。

 

「船橋、もしかして私って、舐められてる?」


 次の瞬間、巨大な爆弾は消失する。

 これには船橋は驚かされた。

 恵が強いと思っていたが、まさか巨大な爆弾を消し去るほどとは思っていなかったのだ。

 

「何をした?」


「波子ちゃんのフリはもういいの?」


「ぐっ・・・」


 波子改めグラトニーは思わず素が出てしまった。

 現代では戦争でも使用を禁止されている爆弾だった。

 だと言うのに、なんの脅威にもなることなく消失させられたのは計算外だったのだ。

 それは神にも制約無しに簡単には出来ない芸当だからだ。


「神に候補にすらされない魔王の世界の勇者だというのに、これほどの力を有するなんて」


「魔王をバカにするの?でも私はそんな安い挑発には乗らないよ!」


「あっしは大罪は持っていない。創造魔法があれば圧倒できるかと思えばそうでもない。飛んだ貧乏くじを引かされた」


「私はこれでも勇者だよ!」


 目の前から消えた恵に思わずグラトニーはたじろいだ。

 次の瞬間、目の前に現れた目をアイアンクローの様に掴まれている。


「魔法陣を破壊して洗脳を解く」


「させませんよ」


 グラトニーは恵の腕を掴み、引きちぎった。

 

「・・・」


「痛みに歪む顔を、歪んでない?」


「何を握りつぶしたのか知らないけど、私の腕はこの通り五体満足。そしてこれで終わりだよ」


 指を弾くとグラトニーは膝から崩れ堕ち、代わりに目を閉じた波子が恵の身体に倒れ込んだ。

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異世界を滅ぼした勇者ですが、受け入れてくれますか? 茶坊ピエロ @chabopiero_1919

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