45話
波子の見た目はしていても全くの別物の彼女に、啓一と恵は困惑が隠せない。
もちろん湊と船橋も波子を知ってはいるものの、2人よりも関わり合いは少なかった為、そこまでの違いはわからなかった。
「飯田!洗脳に合ってるのか?」
「そんなわけないじゃない。あっしは魔王の忠実な僕よ」
「くそ、精神干渉系か。厄介な!来いダインスレイヴ!」
啓一は初見の相手にダインスレイヴを最初から使う事は滅多にない。
しかし目の前の魔王二人はそれほどの相手と認識せざるを得なかった。
更に加えて創造魔法を使える波子が精神干渉で敵対は避けられない。
「おい、千葉!」
「な、なんや!?」
「頼って良いんだよな?さっきまでポンコツだったお前を」
「ポ、いやせやな。ベルはワイの元上官だったんや。それでつい、ひよった!すまん」
魔王が上官という事は、湊は魔王の部下であったことになる。
怯えようからも、ベルもといアサティアはそれほど強力な魔王で、それでもこれほどの魔力じゃなかったのだという。
「怠惰の方、任せていいか?」
「・・・あぁ」
沈黙からも、まだ恐怖のが勝っているのだろう。
しかし啓一もそのことに気を使ってる余裕がない。
ギュラと名乗った魔王はアサティアよりも好戦的で、下手をすれば四人で挑んでも勝てない可能性があるからだ。
「啓一くん、私は船橋と一緒に波子ちゃんを正気に戻す。最悪は船橋の空間魔法で生け捕りにする。波子ちゃんをどうにかできたら離脱しよう?」
「あいつらが許してくれるかね?」
「啓一くんと私なら、どうにかできる!違う?」
恵は少しだけ襟をめくり、首元を見せることで微笑みながら言う。
啓一は恵にダインスレイヴの性能を教えてはいない。
しかしダインスレイヴの本質はわかってるため、恵はダインスレイヴの十全な使い方をなんとなく把握していた。
「はっ、無茶言ってくれるぜ。時間を稼ぐ!高須、飯田を頼む。船橋、しっかり援護しろよ!」
「了解!」
「はぁーまぁやるけどよ」
そして冷や汗を搔きながら、ギュラを見据える啓一。
まず間違いなく、今まで闘った相手の中でトップクラスの強さを持っていることがわかる。
「俺に勝てんのか・・・?」
『我を装備した貴様に勝てるのは、貴様だけだろ』
「ダインスレイヴ」
珍しく話しかけてくる相棒の声を感じ取って、異世界で親友だったハルの事を啓一は思い出していた。
ハルは最期に啓一に願ったのだ。
”誰にでも手を差し伸べる優しいケイちゃん。この先も私の様に助けてあげてね”
啓一は手を伸ばせば届く距離で届かなかった親友の手。
そしてその最期の言葉は、今も啓一の心に深く突き刺さっていた。
「やるしかないよな!」
「話は終わったかぁ?受け止めて見せろよぉ!」
そういうとギュラの魔法が行使された。
しかしその魔法はどんな類のものか啓一には全く判別できない、
その圧倒的なまでの魔力の塊と、闇属性にも似たどす黒い球体。
受ければ確実にマズいことはわかるが、この場の誰も動こうとしない。
「んだ?」
「全員、俺を信じただけだ!そしてその期待に俺は応える」
どす黒い球体は跡形もなく消え去った。
これは流石のギュラも驚いてしまう。
「いいなぁおい!俺のカオスインフェルノを消すなんて、やっと俺に見合う実力者に出会えたぜ!」
「一振りでこの威力。啓一くんは、私や千葉の時も全力じゃなかったんだ」
「全力だ!出し惜しみはなしってことだ!」
そういうと啓一の髪の色は白く変わり、瞳は深紅色へと変化する。
その変わりように、魔王の二人が驚きを見せた。
「あの髪色は間違いなく魔剣。まさかこんなところで魔剣持ちと出会うとはめんどくさいな。しかしあの男には感謝せねば」
「殺してもいいんだよなぁ!魔剣は俺達の天敵だ!」
魔王達も動き出し、波子もまた空高く飛び上がった。
魔王達の動きは、恵が魔法を使った高速移動に似ており、姿を捉えること自体が並では難しい。
しかし4人ともそれは問題なかった。
「この程度で私達をどうにかできると思わないで!」
「思ってねぇよ魔剣の付き人!」
次の瞬間、ギュラの新距離での魔法イビルスパークが発動しそうになる。
しかし啓一が窓から外に蹴り飛ばし難を逃れた。
ギュラに追うように啓一は窓を飛び出そうとする。
「啓一くん、頑張って!あとでいくらでも血を吸っていいから」
「ありがたくもらうぜ」
そういうと啓一はギュラを追っていく。
恵が周りを見ると、湊も同じようにホテルの外に出て行っていた。
共闘が4人にとっては一番最悪な形だったのだ。
「さーて、船橋!私達は波子ちゃんなんとかするよー!」
「恵ちゃん、俺達は生け捕りだから一番難易度が高いからね?」
恵はやる気を見せ、船橋はこれからの闘いのキツさを考えてうなだれて居た。
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