44話

 啓一は湊を引きずりながら、恵と船橋と共にラブホテルの地下室のある場所をしらみつぶしに探していた。

 

「なぁ、どこにもいないじゃん。ボスに言って探させようぜぇ」


「そんな暇はねぇぞ」


「てかなんでラブホテルなんだよ。もっと他にあるだろ」


「船橋は黙って啓一くんのいうこと聞いて?」


「恵ちゃんまでひでー!俺別に飯田と仲良くないんだけど!」


 仲良くないからそんな手間をしたくない。

 冷たく聞こえるが、日本育ちは大体そんなものだ。

 勇者として生きた期間の長い啓一や恵、そして勇者として魔王を倒した神域学園の人間じゃなければ、こんな手間のかかることはよっぽど正義感が強くなければ率先してもしないだろう。


「結構マジな話、なんでラブホなんだよ」


「ラブホが一番、女を乱暴に扱っても違和感がないからだ」


「あー」


 啓一の言うことは最もだと、同じ女の恵も思ってしまった。

 他のところで乱暴をすれば警察に通報されるが、性癖の一環と言われてしまえば納得する人間も多い。


「お前酷いな」


「冷静に物事を見ろ。可能性として高いと言うのを考えただけだ」


「まぁそれは良いけど、地下室に監禁されてるとしたら、只事じゃないと思うんじゃね?」


「ラブホテルに来る客がそこまでの事をすると思うか?」


 家に子供がいるから来る夫婦、学生カップル、不倫、その他にも色々があるが、少なくともラブホテルに来る客がわざわざ警察に通報してここで事情聴取を受ければ恥ずかしいというもの。

 

「まぁそりゃそうか。だけどしらみつぶしに探しても見つかるのかこれ?」


「見つかんなきゃ、別の方法を考える」


「お前ねぇ」


「うるせぇだまってろボケ」


「ひで!?」


 理不尽にキレられたが、啓一は今余裕がなかった。

 それは時間がかかるほど手がかりがなくなるからだ。


「いや,待てよ?そうか!あのゲートが発生した地域の真下にビジネスホテルがあったはずだ!」


「なるほど、そこに波子ちゃんがいるんだ!」


「ラブホじゃないのかよ」


「ビジネスホテルをラブホ代わりにする客だっている」


「特殊プレイする客はいねぇよ!?」


 船橋の言う通りだが、形的にラブホテルに見えなくもない見た目をしていたのを覚えていた。

 だから可能性にかけて向かう。

 目的地のビジネスホテルに近づくと、不穏な気配を感じるのがわかる。


「この気配!?まさかアイツ本当に生きて!?」


「なんだ千葉、急に話だして」


「殺さへんと!ワイにはその義務がある!」


 そう言うと湊は啓一の下を離れて、ビジネスホテルに走り出した。

 3人も湊の行動に困惑しつつも、追従するがすぐに湊が吹き飛ばされて啓一達の元に辿り着いた。


「おい、どうした?」


「蘇我、あれを見ろ」


「啓一くん。あの二人から膨大な魔力を感じる」


 本来魔力はあまり感知というものができない。

 にも関わらず、二人が警戒するほどの魔力がある。

 

「やぁやぁ勇者の青年諸君!ここがよくわかったねぇ!」


「テメェ誰だ?」

 

「君達は自分から名乗るべき礼節もわきまえないんだね」


「下がれ蘇我!左の男はワイが異世界の仲間と共にかつて殺した魔王や!」


 それを聞いて全員が臨戦体制に入る。

 そもそもこの世界に魔王が来てること自体おかしく、死人はどう足掻いても甦らないのは啓一が一番よく知っていた。


「あはは!その反応、俺を殺せた勇者様も同じ反応だったぜ?」


「女勇者?まさか波子ちゃん!?」


「飯田の世界の魔王まだもこちらに。でも何故生きてる?」


「それは俺にもわからねぇな。まぁ紛いなりにも俺ほどの強者をパーティ単位をかけて殺したアイツに復讐できるのは爽快だ」


 その顔は啓一も恵も知らない魔王の顔だった。

 何故なら悪意で溢れているから。


「私の世界にいた魔王は、アンタみたいな人を傷つけて喜ぶやつじゃなかった!」


「あぁ?養分どもがどうなろうがどうでもいいだろ、何考えてんだその魔王は」


「っ!?ファイアストーム!」


 恵は怒り任せにファイアストームを放つが、ファイアストームは手のひらであっさりと防がれてしまった。

 これには放った恵どころか、受けた事のある啓一や船橋ですら驚いた。


「なんだその顔?この程度の魔法で俺をどうにかできると思ったのか?」


「ファイアストームはそんな甘い魔法じゃない。あいつ、かなり驚異だ」


「それだけじゃねぇぞ蘇我。それが二人いると見て間違いねぇんだ」


 比嘉の戦力差はかなり悪い。

 少なくとも徒党を組んで倒さないといけない相手なのだ。


「下がれ自分ら!おい、ベル!なんやそのパワーは!ワイの知ってる自分ちゃうで」

 

 その言葉に、この実力は後天的なものだとわかる。

 よく考えれば、死に際まで手加減するような人間には見えないのだ。


「今の私はベルではない。アセディアと呼んでもらおう」


「ついでに俺はギュラってんだ!」


「アセディアにギュラ七つの大罪で言う怠惰と暴食か。暴食はどう見ても傲慢に見えるが」


 そして二人の背後にはもう一人女がいる。

 それは啓一達もよく知る人物だった。


「飯田?」


「あはは!あっしはギュラ様の愛すべき下僕、グラトニーと申します」


 しかしそれは啓一達の全く知らない人物だった。


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