43話

 とある地下室では猿轡を結ばれて波子が監禁されていた。

 格好は絵に描いたような下着姿で、所々に傷跡のようなものができている。

 

「アホだなぁ、お前は俺の命令通り動いてればこうならずに済んだのになぁ」


「あんたこそ、あっしに殺された癖に何言ってんだい!」


「黙れ!」


 殴られても抵抗できないのは、波子の腕に魔力封じの指輪が嵌められている為。

 波子を殴った人物は異世界で波子の顔なじみだった。

 

「あはは!情けねぇな!勇者様の癖に元魔王に使われる気分はどうだよ!」


「あんたくらいなあっしでも勝てるけど、あんたを蘇らせた奴は危険すぎるからね。確かにあっしはあんたを殺してこっちに帰ってきた。殺し損ねたなんてありえないわ」


「あぁ、俺も死んださ!この大魔王ギュラ様が殺されるなんて思いもしなかった!」


 波子が飛ばされた異世界の魔王で、波子のパーティが命を懸けて殺した人物だった。

 その死んだはずの魔王が、波子に支持を出し創造魔法を行使させていたのだ。


「もうあの青年に聞いただろ?創造魔法の代償」


「創造魔法の代償はあっしの寿命だって言ってたじゃない!人の命ってどういうことよ」


「一人の命で世界に生命を生み出せる。いいじゃないか!」


「一人の命を犠牲にする対価なんて使いたくなかった!犠牲者になんと詫びればいいのよ!」


「あははは!それに俺みたいに生き返る可能性もあるだろう!?」


 生命の冒涜であり、死人を甦らせる行為は神に対しての叛逆になる。

 それをしているのは勇者としても許せないため、死人に対しての申し訳なさでいっぱいだった。


「おいギュラ、その女の躾は済んだのか?」


「まだだよ。てめぇこそサボってるんじゃねぇよ!」


「怠惰の化身に何を言う。仕方があるまい」


「んだぁ?こっちはてめぇの為にやりたくないことやらされてんだよ!」


「黙れ殺すぞ」


「あぁ?やる気か?」


 嫉妬と傲慢を司る魔王達の言い合いに、少しだけ恐怖心が芽生える波子。

 それは当然の話だ。

 波子はギュラという魔王は倒したことはない。

 ギュラは蘇った後の魔王なのだから。

 そして波子が倒した魔王はギュラの様な魔力量はなかった。

 

「・・・怠い。本気でやらないと大罪には勝てないからな」


「まぁ殺し合いになっても構わない。どうせ勝つのは俺だ」


「それでいいぞぉ」


 魔力のぶつかり合いは、啓一と湊の攻撃の速さの時とは別の恐怖を感じた。

 それは二人には悪意がないのだ。

 こちらは悪意があり、かなりどす黒い空気になっているのがその証拠だった。


「おい、どうした元勇者。こっちの世界では創造魔法なしじゃ俺に手も足も出なかった。あの方のおかげで、お前は良い思いをできている。もう開き直って使っちまえよそれを」


「お断りよ!」


「まぁ仮にも俺を殺した相手だ。それを屈服させる楽しさはたまらねぇなぁ」


「趣味が悪いわね」


「まぁいいさ。どうやらお前を探しにきた青年が今もこっちにきてるらしい」


「嘘っ!?」


「いい余興を思いついた。お前主演の楽しいもんだ。くっくっく」


 それの下卑た笑みは、波子にとって屈辱でしかない。

 更に加えておそらく自分を探しに来た啓一達に、恨み言を吐きたくなった。


「なんで来たのよ!バカ共!」


 これから自分がされることを考えると、どうしても恨み言を吐きたくなる。

 それは仕方がないことだ。


「まぁ、精々俺らの為に踊れよ。勇者殿」


 そういうとギュラは奥に歩いていき、それに追従するようにもう一人の魔王も歩いて行った。

 

「なんであんなのが二人もいるの・・・もしかしてあっし達が異世界でやってきたことって・・・」


 波子は絶望的な観測に、涙を流し後悔していた。

 それはかつての仲間たちを思ってか、それとも何か別の理由があったのか。


「あははははは!」


 しかしそこにはもう波子の姿はなく、ただ笑いながら泣いている少女の姿だけがある。

 今、啓一達の元に悲劇の元凶が迫りくろうとしていた。






お疲れ様です作者です。 

日々お疲れの皆さん、更新滞り申し訳ありません!

足の裏がしもやけでヒリヒリして思考が追いつきませんでした!

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