第40話
波子が転移してしまい、一度市川と作戦を話すために学園街のBSF本部にまで足を運んでいる啓一。
市川は目を細めて啓一を見ていた。
「お前、立場わかっているのか?そいつ、部外者だろう」
「まぁいいじゃねーの。俺と汐ちゃんの仲じゃん?」
市川は啓一の推しの強さに少し頭を抱えている。
戦力としてこれ以上ない人材であるが、首輪をしようとも平気で飼い主のリードを引っ張る犬のような感覚で見ていた。
「だりぃ。お前らには飯田波子の監視を頼んでいたはずだが?」
「ごめん、波子ちゃんは何者かに攫われたの」
「どういうことだ高須恵」
啓一と恵は先ほどの出来事を市川に話すと、彼女は半年休みで働いたかのような疲れが出た。
そしてこのまま寝込んでしまえば楽だろうと思っていたが、そうも言ってはいられない。
「創造魔法は放置ができんな。飯田波子単体なら放置しても構わないんだろうが、創造魔法は根本的に危険な魔法だ」
創造魔法は人間だって造ることができる。
神の御業と言っても過言ではない。
それゆえ人類が手を付けられない怪物を生み出すことも可能で、代償を払えるのならばいくらでも世界を陥れることは可能だった。
「代償が人間ってのは正直どうかと思うが、こいつがマトモにならないと話もできねぇ」
殴ってもビクともしない湊に少しだけ奇妙さを感じる。
これだけ強く叩いても反応が鈍いあたり、本当に心配になってきた啓一。
「啓一くん、顔に出てるよ顔」
「いや、これ怖えだろ。それよか捜索隊は出せるか?もしこいつの言ってることが本当ならかなりやべぇ」
「わかってはいる」
ヤバいの意味が恵にはイマイチわからなかった。
当然創造魔法を知らなかったこともあるが、そもそもこの危険度の意味もわからなかった。
「ヤバい?何が?」
「そうか。高須は知らなかったんだったな。創造魔法ってのはそれなりの代償がいるんだ」
「波子ちゃんのは人の命だったよね」
「あぁ。これは代償としてはかなり軽い。創造魔法は本来視力や聴力と言った五感を失ったり、使用した魔力が回復しなかったりと、制限付きの魔法であることが多い」
しかし人の命の意味によって変わるが、地球上にいる人類の数だけ創造魔法を行使できるとすれば、その脅威はどの勇者よりも圧倒的に上であることがわかる。
「強力な魔法なのに制限付きなの分かったけど、どう脅威になるの?」
「創造魔法はその特性上、理想形態の生き物を創造もできる。例えば物理攻撃と魔法攻撃を無効化する龍を生み出すことだって可能だ」
「全知の力みたいだね。でもそれは確かに正しく脅威だけど、波子ちゃんに限ってそんなことするかな?」
しかしその疑問はすぐに解消される。
それは波子の最後の発言からくる。
「飯田は自分の代償を把握できていなかった。本来はありえないんだ。でもそれができるってことは・・・」
ここまで話されれば察しの悪い恵でも言わんとすることはわかる。
二人がそこまで言って脅威であると感じた理由。
「波子ちゃんはその魔法を借りた、もしくは後から手に入れたってこと?」
「そうだ。創造魔法は祝福みてぇなもんだ。もし後から手に入れたんだとしたら、飯田の性格的に問題ないように見えるが、借りものだとすれば問題だ」
「でも祝福を渡したりってできるものなの?」
啓一はそこに関してはただの予想であるため、憶測で物を言っているから口を紡ぐが、ここにはもう一人脅威と感じている人物がいる。
市川が恵の疑問に答えた。
「祝福は神からの授かりもの。だけど創造魔法は違うんだよ。創造魔法はあくまで魔法なんだ」
「まさか技量を盗める?」
「盗めるわけじゃないさ。だけど譲渡は可能だね。この現代には帰還した勇者で創造魔法を使用できる人間は何人かいたが、その全員が死亡している。それは奪うことができるためだ」
市川がどうしてそんなことを知っているのか。
それは実験をしたからに他ならなかった。
「実験の結果、恐怖を感じた相手に自分が生き残るために、創造魔法を受け取る権利を得ることができたんだ」
「趣味が悪ぃな」
「ほんと最低」
「仕方あるまい。それで創造魔法だが、譲渡された相手の代償は変わった。これは仮設だが、代償は指紋の様に人によって異なるんだ」
「それは驚いたな。つまり飯田は無事である可能性がたけぇってわけか」
「代償が破格すぎるからな」
それは逆に言えば、波子の無事が保証されてるようなものでもあった。
それと同時に、波子を何らかの方法で支配下に置いた人物は酷く狡猾であるとも言える。
「でも啓一くん、当てはあるの?」
「創造魔法はあんまり詳しくないが、空間魔法だったら詳しいのがいんだろ?」
「あーなるほど」
二人は何かを企むようにニヤニヤと笑い、市川は巻き込まれるであろう人物に心の中で手を合わせた。
「あの人が生きとるわけあらへん・・・」
そして湊は未だに独り言をブツブツとつぶやいていた。
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