第37話

 湊がダインスレイヴ弾き飛ばすと同時に、啓一は即座に方針転換してシラハドリで刀を受け止めた。


「体育の時間にも見せていたシラハドリ。しかしワイの剣術によー合わせたわ」


「これでも驚いてるぜ。戻れダインスレイヴ!」


『剣使いが荒いな』


 ダインスレイヴを持ち直し、仕切り直しをするように見えたがそうはならない。

 啓一はすぐにダインスレイヴを湊に投げつけた。

 湊はそんな見え見えの軌道を今更と横に飛びのいたが、ダインスレイヴは意思のある剣である程度の自立機動力もあるため、彼の持つ刀が弾き飛ばされた。


「なんやて!?」


「よそ見すんな!」


 啓一の拳が顎にクリーンヒットするが、すぐに立ち直り剣を拾おうとするも啓一が拳を収めることはない。


「くそったれ!?なんやねん拳って」


「拳なら殺し合いにはならねーだろ!」


「なに言うてんねんこの悪党が!」

 

 鍛え上げた啓一の肉体は元々ボクシングや空手、柔道といった肉弾戦を得意とする。

 対して湊も鍛えてはいるが、啓一ほど肉弾戦を得意とはしていない。

 啓一は自分の得意分野に持っていくことで、不利な状態を有利に変える。


「いってぇ!てめぇ、顔を執拗に、狙いやがって!」


「知るか、ぼけぇ!テメェ、こそ、なんなんや殴り合い、しおって、からに!」


 二人が急に殺し合いから殴り合いに変わったことで、呆然と口を開けてその光景を見ている恵と波子。

 呆れると同時に少し笑みが溢れた。


「あはは!2人ともダサいな〜」


「何やってんのよ。バカみたいだわ」


 顔面に拳がいくものなので、鼻血やら青タンやらで顔が酷いことになっていく

 気が付けば2人にさっきまでの殺気はない。


「ぐはっ、ごほっ、この、やめ、ばか、アホ」


「へぶしっ、いたっ、ごぼっ、ごぎゃ、ぶうぉおおおお!」


 顔面に拳をぶつけ合った末、啓一がアッパーで湊を殴り飛ばした。

 啓一は拳を上げて余韻に浸っている。

 吹き飛ばされた湊は、空を見上げて顔の痛みをヒリヒリと感じていた。


「俺の勝ちだ」


 啓一の言葉に一喜一憂することもなく、ただただ空を見上げていた。

 湊は夕日の赤みがかった空を見上げて、思わず笑みがこぼれてしまった。


「ハハハ!こんな空を見たのは久しぶりやアホ」


「なんだよ気持ち悪い」


「負けや負け!ワイの負けや!煮るなり焼くなり好きにせぇ」


「そりゃもちろんそのつもりだ。飯田を殺そうとした罰を受けろ」


 湊は清々しい気持ちでいた。

 自分は殺す気で闘っていたというのに、啓一は殺す気など全くなかったからとわかったから。

 そんな奴が自分の命取るわけないと、拳を交えたからこそわかった。


「食らえ」


 ぶーっていう音と共に、湊の鼻にとてつもなく強烈な臭いが充満する。

 啓一はお尻から出るガスを湊に吹っ掛けたのだ。


「くっさ!?なにすんねん!?」


「てめぇへの罰だ」


「ばつ・・・?」


「啓一くん、ちょっと下品」


「さすがにないわー」


 恵と波子までもが呆れた目で啓一を見つめていた。

 女子目線からみたら、ガキの喧嘩にしかなっていないのだ。


「くくっ、アハハハ!自分らのタマを獲ろうとしたやつに屁か!おもろいやんけ。ワイはまた自分ら狙うかもしれへんのに許すんか?」


「お前はもうそんなことしないだろ?」


 その言葉に目を丸くして啓一をみた湊だったが、笑い浄土になっているため、また笑いながら答えを返した。


「自分、どこまで見てるんや?」


「いーや。それよりもお前の事情言えよ。俺や飯田は殺されそうになったんだ。俺たちは聞く権利があるはずだろ」

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