第36話

 その啓一の圧倒的な実力を前に、額を抑え込む湊。

 啓一もそう言った反応は今まで星の数ほど見てきたので驚きはしない。

 しかし湊はその後が違った。


「いいで、いいなおい!賊がやってくれるないか!」


「誰が賊だよ」


「あぁ悪い。せやったな。啓一、お前さんは強い!だからワイも本気で行くな!」


「本気?痩せ我慢か?」


 次の瞬間に襲い来る殺気は、先ほどまでとは比べ物にならないほど強烈なもので、恵ですら恐れ慄き、波子はガクガクと震えていた。


「なにこれ?千葉の迫力が変わった?」


 迫力が変わったと言う恵の言葉に啓一も同意した。

 そして啓一も負けじと、殺す気の威圧感を解き放つ。

 恵は啓一のかつてないほどの雰囲気に冷や汗を垂らし、波子は等々パニックを起こしてしまった。


「嫌!いやいや!なんでこんなバケモノが二人もいるの!?」


「落ち着いて波子ちゃん。啓一くん、千葉、少し抑えて」


 しかし二人ともその声が聞こえていない。

 それほどまでの集中力が互いに流れているのだ。


「千葉流第一:轟」


 居合の構えを取り、啓一に高速で近づいた。

 しかし啓一はもうそれは見切っていて驚くことはなかった。


「それはもう見切った」


 しかしその言葉とは裏腹に、啓一はダインスレイヴを横にして斬撃を逸らした。

 問題はここからで、逸らした先の建物が砕け散ったのだ。


「今のなんだ?」


「よく言うやろ?最高に鍛え抜かれた剣士は、斬撃を飛ばすゆーんは珍しくはあらへんはずや」


「まさか斬撃を飛ばしたってのか?」


 少しだけ冷や汗が出てくる啓一。

 魔力があっても魔法を使えない理由がある。

 それは魔力コントロールというものがそもそも使えない為、魔術行使ができない。

 そして剣士の斬撃はそれと同じで、やり方が全くわからなかった。

 つまり、啓一は使うことしかできないことしかできなかった。


「斬撃は要は斜線が伸びただけだ。動き自体はもう見切ってる!」


「千葉流剣術をあんま舐めてもろーても困る。千葉流第二:栄!」


「それも見切ってるって言ってんだろ!」


 栄町は右に左に交互に剣術をぶつけ、相手を怯ませてから下から斬りあげる攻撃。

 しかしそれも鏡の様に同じ技をぶつけて弾こうとする。

 啓一はその斬りあげる攻撃の無駄な時間を削った完成系の、勢いで横に薙ぎ払う攻撃を行った。

 しかし、その攻撃は湊に驚かれる事なく勢いで横に周り、空中から蹴りを喰らわせられた。


「完成させた技を見切ったってのか?」


「ワイもそれは思ってただけや。無駄が多いってなぁ!それだけやないで」

 

 次の瞬間啓一の肩に刀が突き刺さっている。

 気がつけば刀は湊の手元にはなかったのだ。


「蘇我!?」


「あれは啓一くんが得意とする剣を手放す攻撃・・・」


 啓一自身が得意とする攻撃をされたのに驚かせられるが、千葉流の真髄を見切っていなかったのだと直に感じさせてもらっていた。


「なるほど。千葉流の剣術はどんな手を使ってでも勝利する邪道の剣か」


「完全無欠な剣ってゆーてもろおか!」


 千葉流には完成された型がそもそも存在しなかった。

 それは完成させれば見切られてしまうからだ。


「千葉流第三:幸!」


 それ故に完成させた啓一の千葉流は悉く見切られてしまう。

 千葉流第三の技の幸は剣を両手で交互に持ち替え、そのテクニカルな動きで相手を翻弄するモノ。

 これの完成系は握りを軽くして負担をなくし、相手を怯ませるもの。

 啓一は同じように幸をぶつける事で、負担を軽くして体力切れさせる予定だった。

 しかし笑みは最大限に大きく浮かべた事で、これも問題ありなのだと悟る。

 湊はその剣を落としたのだ。


「もらうぜ」

 

「残念やったな!」


 次の瞬間剣は蹴り飛ばされ、啓一の腹部を貫いた。

 剣士は自分の分身のような剣を蹴り飛ばしたりはしない。

 その先入観から喰らう一撃でもあり、治療が済むと言っても喰らったことの痛みは腹部に残る。


「剣を蹴飛ばすとか、本当に剣士かよ」


「それは自分にも言えるはずや。自分も勝つ為には手段を選ばへん」


「よく言うぜこんなに切り傷つけられたは久しぶりやねん」

 

 しかし本来はこのような結果は生まれなかった。啓一の常人なまでに引き上げられた反射神経を凌駕しなければならなく、それができなければ未完成の技で完成系に挑んでるだけになるのだ。


「とんだ伏兵が潜んでたもんだな」


「千葉流は悪を滅する滅悪剣!故に負けることも許されんのや!」


 再三の鍔迫り合いの末に。湊は遂に啓一のダインスレイヴを弾き飛ばした。

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