第34話

 啓一と波子は追手を巻いて、二人ビルの屋上で休んでいた。

 もちろん追手は諦めたはずもなく、虎視眈々と2人を狙っている。


「それにしてもあいつ何者だよ。速度だけでも脅威度は高いのに、空まで飛んでくるなんて」


「あっしはあんたこそ何者って言いたいわよ!私の認識ではあんたは優等生だけど弱いって認識よ」


「弱いだろ。俺はさっきの奴に防戦一方だったんだから」


「あっしは防戦すらできないわよ!」


 波子はムキーっと歯を剥き出しにして怒り狂う。

 流石の啓一もダインスレイヴの事を全て話せるほど波子を信用してるわけではないので、どう説明したらいいか迷っていた。

 そんな中、2人がいるところに近づいてくる飛来物が来た。


「二人ともこんなところにいた。探したよ」


「高須、遅えぞ」


「君は態度おっきいね!?と言うか恵ちゃん空飛んできたの!?」


 当然、人が空を飛ぶなんて人間離れした芸当は、波子からすれば非常識だ。

 更に加えて啓一の動きが見えなかった実力を加味すれば、もう今日の出来事自体が波子にはキャパオーバーで寝込みたい気分になっていた。


「初歩の魔法しか使ってないから、波子ちゃんでも空くらいは翔べるよ」


「かなり高精度の魔力制御がいるぽいけどな」


「それに時間をかければ制御だって出来るようになるよ!私だって出来たんだし」


「それには膨大な時間と魔力が必要だけどな」


「・・・」


 恵は頬を膨らませて睨み付けていた。

 そして頭を抑えて溜め息を吐く。


「あぁ言えばこう言う!」


「まぁまぁ」


 二人を宥める波子を見て不敵に笑う啓一。

 

「落ち着いたか?」


「え?あ・・」


 自分の頭の要領が足りてなくて、プチパニックを起こしていた。

 そこで啓一は痴話喧嘩まがいの事をすることで、波子の感情を少しだけ落ち着かせる事に成功した。


「なんだ。波子ちゃんのためか」


「あぁ。俺達は追手から逃げてるんだよ。流石にパニック起こした奴と逃げ切るのは難易度高いだろう」


「追手は聞いてるけど、迎え撃つの?」


「出来れば迎え撃ちたくねぇけど、てか追手のこと知ってるってどういうことだ?」


 恵は御茶ノ水との出来事を啓一と波子に話した。

 麻乃の幼馴染みがそれほどのストーカーで少しだけ呆れつつも、能力の有用さに感嘆し、そして恐ろしいとも感じた。


「要するに指定した人物の範囲は全て監視カメラのように把握出来るって、奇襲作戦は絶対に通じないし、犯罪の証拠も取りやすいな。でもクラスメイトか・・・」


「クラスの誰かって、あんな動き出来る奴知らないわよ!?」


「それは啓一くんもそうだったよ。隠しているんだよ多分」


 そうかもしれないと思ってしまった。

 現状、啓一と相対して勝利を掴める自信は波子にはなかった。

 それがもう一人居ると考えると、波子の現状を考えれば身震いしてしまう。


「少なくとも犯人が二人いる以上、追手の方が話し合いの余地はまだあるように見えるけど、高須はどう思う?」


「うん。制圧出来るなら多分話せる、とは思うな」


「え、待って!?あんなのを制圧するの!?逃げようよ」


 流石に自分が足手まといになる事は確かなので、戦闘は出来れば避けたいと考えていた波子。

 しかし二人はそれはありえない選択だと首を振る。


「クラスメイトである以上、追手は止まらないのは確かだろ。だったら捕まえるしか選択肢はねぇよ」


「どっちにしても私や啓一くんが居ない中で波子ちゃんが追手をどうにかできないよね?だったらもうここで迎え撃つしかないかな」


 波子の発言から、戦力にはならないのは確かだった。

 それはワイバーンを両断された時点で啓一は相対は必要だと考えている。


「うー、こんなことならこの市に来なきゃよかったよぉ・・・」


「情けねぇ声あげんな。お前も元勇者なら腹くくれ」


「泣いても良いよね!?」


 そのスパルタぷりは、波子は異世界で体験したことがない。

 それ故に本当に目に涙を溜めていた。


「まぁ作戦はある。奴の武器は恐らく剣の類いだ。だったら遠距離の魔法、高須の魔法の弾幕を張ればどうしよもなくなるはずだ」


「そんな上手くいかないとは思うよ」


「やってみてダメならまた逃げて考えるだけーーーおっと、やっこさんは来たみたいだな」


 啓一が指を差すと、フードを被った人物が刀を携えて現れた。

 三者三様に身構える。


「おい、お前。正体はわかってんだ顔を出せ」


「・・・」


「わりぃがクラスメイトの名前と顔は一致してねぇんだ。だが俺はテメェがやったことを明日クラスにバラしてやる」


「はぁ。嘘が下手やな。まぁクラスメイトってことはバレてんのやろな」


 フードを捲ると、その中には先日剣道で居合いで殺そうとしていた千葉湊がいた。


「よぉ自分ら。知っとると思うがワイは千葉湊や。飯田波子、自分の命もらうで」


「あ、あっし!?」


「やらせると思う?」


「高須、自分は魔法使いや。ワイは魔術を組む前にーーー」


 その瞬間恵の目の前に瞬間移動のように現れる湊。

 しかしそれよりも早く、啓一が湊の剣をダインスレイヴで受けとめた。


「やるやんけ。さすがワイの居合いを見切っただけあるわ」


「重てぇ」


 湊は好戦的な目で啓一を睨み付け、啓一は苦笑いをしながら湊を見つめた。

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