第33話

 御茶ノ水を目の当たりにして困惑しつつも、恵は御茶ノ水のところにきたからには、聞き取り調査を行う必要があった。

 しかし口を開こうとしたら、さっきまでの態度が一変し、何を考えてるかわからないような笑みを浮かべた。


「蘇我くんと飯田さん、誰かに今追われてるみたいだよ」


「へ?」


 麻乃は啓一と波子の話をしたが、御茶ノ水にはまだ話してはいなかった。


「全く失礼なやつもいるね」


「どの口が言うの」


 話していない内容を当てられたことに驚いたが、すぐに祝福の存在に気づく。


「相手の思考を読む祝福・・・」


「違うわよ。彼の祝福は私も知ってるけど、思考を読んだりするものじゃないの」


「え、違うの?」


「彼の祝福は追跡者ストーカー。指定した人物の直径1kmの情報を把握できるの」


「ス、ストーカー?」


 恵は困惑しつつ、対象者の情報を把握できると言うことに少しだけ嫌悪感と鳥肌が立つ。

 対象者は恐らく麻乃である事は先程の反応からも間違いなかった。


「名前は腹が立つけど、麻乃を守る為に神から授かった力だ!」


 ますます鳥肌が濃くなり蕁麻疹が出そうになる。

 これは麻乃も同じ様で、腕をさすって鳥肌を抑えようとしていた。

 しかしそれよりも重要なこともある。


「啓一くんと波子ちゃんが追われてるって誰に?」


 啓一がいるので万が一の事態はないと思ってる恵だが、その追われてる相手の方が気になった。


「僕の祝福は万能じゃない。監視カメラの様なもので、君達は顔と名前を知っていたから応えられた。麻乃が心身になって教えてる生徒だからね。飯田波子は麻乃と君の会話から予測して割り出しただけだよ」


 情報とは個人情報やステータスではなく、麻乃の範囲内での出来事を見聞きできるというものだった。

 プライベートはないが、幼馴染と言うこともありそれくらいは許容してるという事なのだろう。

 

「じゃあ追ってるひとの顔と特徴は!?」


「僕は生憎そういうのに疎いし、人付き合いは苦手だからあんまり誰に似てるとかも言えないかな」


 思ったよりも御茶ノ水は情報を持ち合わせていなかった。

 気になることだけ言って相手をモヤモヤさせるタイプで、確かに人付き合いは苦手そうだと恵は思った。


「君達のクラスメイト。それくらいしかわからないな」


「そこ、重要!!」


 そう思えば急にぶっ飛んだ情報を入れ込んだり、振り回したりするのは啓一と通じるものもあるなと感じた。

 啓一には思いやりがあるが、彼にはないのが決定的に違うが。

 

「つっても知らんし彼の名前」


「じゃあ男なんだ!麻乃ちゃん、はウチのクラスにきたことないから席順とかわからないよね」


「ごめんなさい」


「謝ることじゃないよ。それにーーー」


恵は彼が、追手に対しての怒りやバカにするような感情を感じ取れないに疑問を感じていた。

 麻乃はここに入る前に御茶ノ水が動物を大量に飼育していて、むしろその事に怒るタイプと言っていたのを思い出す。

 麻乃の前でしかそういう感情を出さないってタイプに見えないし、嘘をついていたそぶりもなかった。

 それはつまり追手が今回の事件とは関係がない事を示している。


「僕は麻乃がこの市に戻ってすぐからさっきまで怒りを感じていたけど、君達なら犯人を見つけられそうだ」


 御茶ノ水は恵が聞こうとしたことを言う前に推測して話す。

 まるで思考を読まれてるような、未来を見通してるような、不思議な感覚になる。


「動物が好きってのは本当なのかな?」


「大好きだよ。動物は相手を騙したりしないからね。もちろん麻乃もー」


「キモい!」


 麻乃の拳は御茶ノ水の頬にクリーンヒットし、勢い任せにくるくると回転し、首から落ちる。

 ボキっていう音まだしたので流石にまずいんじゃと麻乃を見た。

 

「大丈夫。こいつ、私達が異世界に転移した時に前衛でタンクしてたから」


「・・・」


 しかしビクとも動かなかった。

 身体を痙攣させびくびくとさせている。


「だ、大丈夫よね?仲雄くん?」


「大変眼福眼福」


 御茶ノ水の位置からは麻乃のスカートの中が見えた。

 恵はそれをみてニヤニヤとしてる御茶ノ水の顔はすごく気持ち悪かった。

 麻乃も笑顔でいながら淡々と顔面を殴り始めた。

 気がつくと彼の顔は真っ赤に腫れ上がっている。


「ま、まぁ犯人は君達が見つけてくれ。犯人は僕じゃないのは保証しよう。それから一応もう一個情報だ」


「は、はぁ」


「これはちゃんとした情報だよ。動物は縄張り争いの性質上、顔が傷だらけになってることが多い。でもどの動物も綺麗だった。犬猫はまだありえるが、熊はまずあり得ない」


「・・・どういう意味?」


「僕はおかしな点を挙げただけさ。あとは君達で調査するんだ」


 御茶ノ水の言っていたことは恵にはさっぱりだった。

 糸口をつかめないまま、御茶ノ水はもう話す事はないとばかり麻乃にちょっかいをかけ始めたので、恵はお辞儀してマンションを後にしようとする。


「待って高須さん」


「なーに麻乃ちゃん?」


「これ、何か力になるかも」


 そう言って渡されたのはホイッスルのようなものだった。

 何故こんなものをと思った恵だが、麻乃は口に手を当ててる。


「何かあった時にこれを吹いてみて。使い切りだから緊急事態の時だけね」


「うん。わかった」

 

 麻乃も何か意味ありげな事を言うが、恵はさっぱりで首を傾げてマンションを後にした。

 


 

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