第32話
啓一と波子がフードの男に追いかけられている頃、恵は情報収集の為聞き込みを行っている。
対話の性質上、真実を知りやすい恵には適任な役割だった。
「ここら辺の動物?知らんなぁ(警察関係者か?ここらでペットを大量に飼ってるあいつが疑われるから応えられねぇ)」
「そうなんだー!変なこと聞いちゃってごめんね」
恵が聞き取りを行っていると、ちょくちょくこのような思考が流れてきた。
恐らく近くでペットを大量に飼っている人物がいるのだろう。
それがわかっているので、取りあえずペットを飼っている人物の情報を引き出そうとしつつも、そこまで著しい結果は得ることが出来ては居なかった。
「大量にペットを飼っているなんて聞けば問題あるし、ほんとどうしようかな?」
近隣住民が隠すと言うことは、それなりの関係値を持っていることは確かだろう。
そして近隣住民にこの情報が回ったことを悟られれば、件の人物は雲隠れする畏れがあった。
「あら?高須さん?こんなところでどうしたの?」
「へ?」
恵の名前を呼ぶ人物がいて振り返る。
すると、恵も知っている人物が現れた。
検見川麻乃だった。
「麻乃ちゃん?」
「検見川先生と・・・今は学校じゃないからいいか。ここは学園街じゃないのに一体どうしたの?」
「麻乃ちゃんこそなんでここに居るの?」
神域学園の生徒、教師は学園街に住んでいるとかでもない限りは基本は寮生活だ。
もちろん外出の許可こそいるが制限はないため、居てもおかしくはない。
しかしピンポイントでここにいるとなると、何かあるのでは無いかと思ってしまうのが普通だろう。
「私は実家がここら辺にあるのよ。だから里帰りみたいなもんかな?」
「麻乃ちゃん!」
恵は思わず麻乃の肩を鷲づかみにする。
まるでタカに睨まれたネズミの様に麻乃は硬直するが、すぐに何のことだろうと首を傾げた。
流石に説明不足であったと恵も我に返り、現状を説明する。
麻乃は全て聞いたが、思い当たる節があるため口を押さえて考え込んだ。
「一応ペットを大量に飼ってる人は知ってるわ」
「本当!?さすが麻乃ちゃん」
「でも、私が考えるにその人物が動物に非道な扱いをしたとは考えにくいわよ?」
「そうなの?」
「えぇ。彼、動物のこと愛しすぎてるから、そんな真似をした人物がいれば殺しにいかねない様な性格なの」
行き過ぎた愛で人を殺し回っていた魔族を恵は見たことがある。
つまり、愛しているから惨状を起こしていないとは恵は考えない。
そのため麻乃に頼んでその人の家に案内してもらうことにした。
「麻乃ちゃん、気になるの。お願い」
「いつになく真剣ね。でもいいわ。私の幼馴染みでもあるから、ちょっと来てくれるかしら」
麻乃自身、生徒の頼みだし叶えられるなら叶えたいのが本音だろう。
恵は麻乃の案内の元に古びたマンションへと案内された。
正直驚いたのが本音だった。
「これ、ほとんど廃墟だよ!?」
「室内は多分綺麗よ。こっちに来て」
麻乃は恵を引っ張る。
すると、地面が光り出した。
恵は船橋との闘いを思い出す。
まるで転移するかのような光に驚いた。
「転移!?」
「転移とは少し違うかな」
光を浴びた後は、マンションがまるで綺麗な空間に様変わり。
これには恵も驚きが絶えない。
建物を触ると、やはり整備されたタワーマンションのような造り。
「すごい。これどうなってるの?」
「幻で本物を隠してるの」
恵は経験のしたことの無い光景に少しだけワクワクするも、状況が状況だけに警戒を怠らない。
麻乃に案内は続き部屋にたどり着く。
部屋に向かう廊下までに何匹もの動物が歩き回っていた。
しかしこれほどのことができると言うことは、やはり今から会う人物も勇者デアル可能性が高かった。
「ここよ。御茶ノ水くーん」
麻乃が呼びかけた御茶ノ水と呼ばれた人物は返事がない。
留守なのかと思ったら、麻乃は溜め息を吐いていた。
「仲雄くん。私よ麻乃よ」
「麻乃ちゅあああああん!」
麻乃が仲雄と呼ぶと、すぐに飛び出して来たのはロン毛の金髪で片目が隠れた男だった。
今にも麻乃にキスをしようと言う距離まで近づき、思い切り引っぱたかれて吹っ飛んだ。
「これ、御茶ノ水仲雄くん。私の幼馴染みよ」
ぴくぴくと痙攣している仲雄を他所に自己紹介を続ける麻乃を、恵はおとなしめと言う印象から、かなりバイオレンスな人間という評価に変えた。
そして仲雄の方も、それなりにマッドなサイエンティストな空気を感じた。
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