第31話

 啓一と波子はこの市に調査を広げた魔物達の集合を待っていた。

 思っていたよりも魔物が少なく、何者かに狩られているのがわかる。


「地上の生き物はほとんど殺られたわね」


「戻ってきたのはコウモリや小鳥の魔物だけか」


 ネズミどころか犬猫の魔物すら戻ってこれていないため、圧倒的に速い人間が魔物を狩っていることになる。

 これはもう勇者の仕業じゃないと言うには無理があった。


「空の魔物は殺されていないから、空中の攻撃手段がねぇんか?」


「この子達が言うには、殺しまわってる人間は同じみたい。犯人は一人みたいね」


「魔法を使ってたりはすんのか?」


「さぁ?鳥の魔物はそこまで頭が良くないの。敵一人、黒髪、男しか情報はないわね」


 そこまで情報が伝達しないから殺していないのか、単純に気づいていないのか。

 もしくは第三の選択肢があった。


「これは多分、補足されたな」

 

「補足?」


 啓一は波子の腕を掴んで走り出した。

 急いで街を駆け抜けていく。

 波子が後ろを見るとフードを被った奴が二人を追いかけてきている。

 

「え、なにあれ!?」


「俺が聞きてぇよ」


 急いで駆け抜けていくが、一般人達は二人が走っていくのも、追いかけていくのも見向きもしない。

 これは異常だった。

 

「くそっ、高須に電話して合流するか?いやそんな余裕はないよな」


「応戦しないの?」


「相手の手の内がわからないのにそんなことできねぇよ」


「蘇我ってそもそも闘えるの?」


「俺のが先に反応したよな!?」


 啓一は戦闘用の魔道具は持っているが、どれも周辺を巻き込む恐れがあった。

 そのため、路地に曲がった後に波子を抱えて啓一は空を歩く魔道具を使った。


「え、空飛んでる!?」


「高須も空飛べてたけど、これは一般的じゃないのか?」


「い、一般的じゃないわよぉ!」


 高須の複合の魔法は、魔力コントロールによる精密な制御が必要だった。

 それ故に飛行であり、空を飛ぶのは滅多に経験ができない。

 それでも慌てる程度で暴れないのは、波子もワイバーンを召喚して飛行経験があるからだった。


「舌噛むなよ」


「もう、だったら背負って」


 お姫様抱っこの状態から、背中に背負う状態へと切り替える。

 流石にこの状態なら人型の龍に背負われていると思えば問題なかった。


「空中に逃げれば流石に追って来ないだーーー」


 フードの男は猛スピードでこちらに飛来してくる。

 これは啓一も予想外の出来事だった。


「は!?なんでそうなんだよ!?」


「大丈夫!空中なら、ワイバーンを召喚できる!」


 波子はワイバーンを召喚し、フードの人物へと飛来した。

 しかし次の瞬間、ワイバーンは真っ二つに両断されてしまう。


「え、嘘!?」


「斬!」


 その言葉と共に、振るわれた一閃が啓一達を襲う。

 啓一は舌打ちをした後、ダインスレイヴを抜いた。


「くそったれが!」


「ッ!?」


 フードの男は斬撃を阻まれた事と、突如として啓一の魔力が跳ね上がった事で困惑を見せつつも斬撃を飛ばす。

 しかしそんなのはダインスレイヴを呼んだ啓一に通じるはずもなく、全て弾いた後自由落下でフードの男に跳び蹴りをした。


「お前から攻撃を仕掛けたんだからな!悪く思うなよ!」


「ザ・・・ン!」


 蹴った状態でもまだ攻撃を仕掛ける余裕があり、その速度は啓一では反応出来ないほど速い為、指が切り落とされてしまった。

 しかしダインスレイヴは超速再生を行う為、すぐに指は生え替わる。


『こいつ、剣技は圧倒的に強い』


「わーってる!だから無理矢理撃ち落とすんだ!」


 そしてフードの男は自由落下で地面へと落ちていき、啓一は空中歩行で距離を離そうとした。

 しかし啓一は少しだけ驚いていた。


「ダインスレイヴで強化された俺の反射神経に追いつくのかよ」


「蘇我達の今の動き、何も見えなかった・・・」


 波子もそれなりの実力を備えていると自負していた。

 しかしそんなモノを威にも返さない人物達がいることに少しだけ、井の中の蛙だった自分に落ち込む波子。


「と言うか蘇我って強かったんだね」


「見てたろ。それなりにしか闘えねぇよ」


「謙遜!?それに見えなかったって言ってるでしょ!」


 抗議したい気分になるが、そこをぐっと飲み込んだ。

 そして地上に降り立つ頃には、波子も落ち着いていた。

 しかしこのままではまたフードの男に追いかけられてしまうため、一度召喚した魔物達の契約を解除した。

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