第29話
血飛沫が至る所で飛び散る。
路地裏か、或いは夜道の人通りのない道か。
少なくとも血飛沫を作り上げてる本人は、闇夜に乗じて次々と人を斬る。
人斬りの眼光の鋭さは、異常を通り越して畏怖の念を抱くほどだ。
「しょ、処刑人!?」
「・・・」
「な、なんだ!睨みつけてないで何か話せ!」
処刑人と呼ばれた者は、フードを被っているため、その瞳だけが彼をしっかりと捉えていた。
「く、くるなぁ!」
「害虫め」
そしてまた1人、処刑人の毒牙に仕留められた者がいた。
剣に付着した血液を拭き取りサヤに戻し、手袋を嵌めてからボタンを一つ抜き取った。
「悪事を働うた自分を恨めや」
しかし次の瞬間、処刑人の足元に魔法陣が展開される。
帰還の条件が満たされ、処刑人は異世界から現代へと帰還した。
*
放課後、啓一と恵はギャルの飯田波子を含めたギャル軍団に連れられてゲームセンターなるものに来ていた。
幼いころに異世界転移させられた二人は、ゲームセンターは初めてで新鮮な気持ちになりながら、UFOキャッチャーやアーケードゲームに目を輝かせている。
「おい、高須!あれすげぇぞ!バイクだ!バイクに乗れちまうのかよ」
「啓一くん、この中ぬいぐるみいっぱいだよ!どんだけとってもいいんだよね!?」
「二人とも子供か!」
飯田波子の言葉を無視して、二人はゲーセンに気持ち花咲かせてあちらこちらを見て回っている。
本来の目的とはかけ離れた光景に、頼む相手を間違えたかなと波子は思い始めた。
「ねぇ!あんた達目的忘れてないわよね!?」
「・・・なんだっけ?」
「目的?」
啓一も恵も本気で忘れるほどはしゃいでいた。
それだけゲーセンというものに憧れがあったのだ。
学園街にゲームセンターという俗な施設はなかった。
ここは隣の市にあるゲームセンター。
「調査よ調査!」
「あぁ、チョーサな。忘れてねぇよ。そうそうチョーサチョーサ」
「ちょーっさ!」
「あんた達わかってないわよね!?」
波子がキーっと怒っているが、今日ここにいる目的は昨日起きた神域学園への襲撃事件が関係している。
事件を数日放置していては学園街で対処できなくなる可能性があり、BSFの総督である市川汐は、正式に神域学園の生徒に調査依頼を出したのだ。
そこで選ばれたのが、召喚魔法が一番の使い手の波子と魔術で好成績を収めた恵、そして学年で一番の優等生と名高い啓一を指名してきた。
「まったく、なんであなた達が選ばれたのよ」
二人は学園内ではそれなりに優等生を演じているが、ふたを開けると恵はメンヘラの自由奔放さがある根暗で、啓一は小生意気な自信過剰な気怠い男。
学園でのギャップさは、おそらく一番波子が驚いているのだろう。
「まぁちょっとくらい寄り道もいいだろ?俺はレースゲームやるぜぇ」
「波子ちゃん、一緒にプリクラ撮ってみようよプリクラ!憧れだったんだぁ」
波子は頭を抱えたくなるが、啓一と恵は市川から個人的な連絡を受けていた。
それは飯田波子が襲撃犯、もしくは襲撃犯の援助をしている可能性があると。
二人とも波子の反応から共謀者という線はかなり薄いと考えていた。
というのも、恵は対話で思考と違うことを発した相手の思考が聞こえるのだ。
波子は本心で呆れている。
市川も船橋も対話に気付いてからは対策されてしまったが、それでも有利な能力に変わりはなかった。
「あんたたちねぇ・・・」
波子はこの二人を置いて一人だけでも情報収集を怠らない。
ネズミの小さな魔物を召喚して、町中に張り巡らせていた。
魔物は魔力を感じたら嚙みつくように設定した。
善人には申し訳がないが、異世界帰還者以外は魔力を持たないのは研究で判明している。
そのため、この方法が最も最善の選択と言えた。
「ゴォオオオル!CPUなんて相手にもならないぜ!」
「いつの間にかレース終わってるし・・・」
「私もこんなにとった」
啓一ともプリクラを撮りたかった為、UFOキャッチャーしていた恵だったが、ぬいぐるみを両脇両肩、頭と腕いっぱいに抱えて波子は思わず口を開けて荷物を落としてしまった。
「高須すげぇじゃん」
「いぇーい」
あまりの光景に頭を抱えたくなる波子だったが、二人にも理由があった。
それは市川から極秘に頼まれていた任務。
波子の監視だった。
召喚術は潜入捜査にもってこいの為、市川も欲しい人材だが信用が足りない。
その点、信用という一点においては啓一と恵にはあるため、市川が個別に依頼をしていた。
だから決して遊んでいるわけではないのだ。
「あ、待って。召喚してた魔物がやられた」
しかし波子の一言で、状況は一気に後転する。
三人はすぐにゲームを辞めて現場に向かった。
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