第27話

 啓一がいつも通り授業を受けている。

 早朝の小さな事件以外に変わったことは何一つない。

 今は体育の時間だった。

 体育は唯一啓一が真面目に受けていない授業だった。

 

「次、蘇我」


「へい」

 

 今は剣道の時間であり、この学園は人数が少ないこともあって男女混同で授業をしている。

 竹刀を片手にぶんぶん振り回す啓一。

 その姿を見て、額に青筋を立てている教師がいる。

 信濃真知子しんのうまちこだ。


「なんだそのフォームは!剣道を舐めてんのか!!」


「すいませーん」


「性根をたたき直してやる!前に出ろ!」


 恵もいつも体育を見学しているが、啓一が教師と闘うと言うことで少し興味が湧いた。

 魔法と体術を組み合わせた恵の魔術戦と互角にやりあったのだ。

 かなりの剣術が見れるのではないかと思っていた。


「啓一くんがんばれー!」


 恵の声援を聞き、嫉妬に駆られる男子生徒は大勢居た。

 クラスの中で恵はかなり美人の方なので、密かに想っているのも多い。

 しかし啓一と四六時中居るため、二人はクラス公認のカップル認定されていた。


「くそぉ、蘇我の奴羨ましいなぁ!」


「マチコ先生にぶん殴られればいいんだ!」


「いけぇ真知子先生!」


 その男子の後継にクラスの女子は冷たい目で見ている。

 

「あいつらのそう言うところがモテないのよ」


「蘇我くんと顔面偏差値はあんまり変わらないのに中身が酷いわよね」


 勇者は美男美女が多く、神域学園にいるほとんどの生徒は顔が整っている。

 しかし啓一の居るクラスは、何故か残念なイケメンが多かった。


「胸を借ります先生!」


「その心意気だけは認めてやろう!では行くぞ!」


 恵は自分との闘いと市川と船橋との闘いを思い出していた。

 よく考えると啓一は剣を振るっているところを余り見ていない。


「行くぞ!メーン!」


「へっ!そんくらい受けとめられるぜ!」


 啓一は竹刀を手放して、白刃取りで竹刀を受けとめた。

 これにはクラス中が静まりかえるほどの衝撃だった。


「おー、上手くいった。今回は俺に受けとめられてしまいましたが、先生の一撃も素晴らしいモノでしたよ」


「蘇我・・・」


「どうしました?」


「剣道はそういうものじゃない!竹刀を打ちあう競技だ!」


「だ、だにぃ!?」


 啓一の反応に、等々クラスから笑いがこぼれた。

 

「あははは!蘇我って頭良いと思ってたのにバカなトコロもあるんだなぁ」


「ユーモア溢れるね蘇我くん」


 流石に羞恥に耐えられなくなったので、啓一は竹刀を拾って場所を後にし、恵の横に座った。


「恥ずかしいな」


「啓一くん、あれ本気だったわけ?私でも知ってたよ」


「いや、剣道って柔道や空手みたいに竹刀で相手をK.Oさせる競技だろ。白刃取りで剣を奪って、気絶させれば勝ちだと想って」


「確かにノックアウトさせたら勝ちになるけど、全然違うからね!?」


 過程をすっ飛ばしすぎである。

 そして柔道や空手も相手を気絶させたら勝ちの競技でもないと、内心恵は呟いたが口にはしなかった。

 

「まったく、次は千葉だ」


「・・・」


 啓一は千葉の方を見る。

 千葉湊はクラスで余り目立たないタイプで、啓一は出席しているところを今日初めて見た。

 俯きながら黙って竹刀をとり、真知子の前へ歩いて行く。


「お前、今日まで欠席していなかったそうじゃないか!青春は楽しめよ」


「ご託は良い。始めるぞ」


 千葉の構えは、どう考えても竹刀の持ち方じゃない。

 左手の逆手持ちで、態勢も棒立ち。

 しかし啓一は、その姿に何かを感じる。


「あいつ・・・」


「どうしたの?」


「多分、信濃先生負ける。いや、それどころかーーー」


 真知子も竹刀を構えると、彼から放たれる殺気に鳥肌を立てる。

 しかし教師の端くれとして、逃げるわけにもいかなかった。

 故にそのまま試合を開始される。


「行くぞ!めーーー」


「・・・胴」


「おっと、足が滑った!」


 啓一は咄嗟に信濃の足を祓った。

 見事その勢いで千葉の胴を避けるが、竹刀が通り過ぎたと思われる場所に、空間の裂け目のようなモノが発生した。

 それに気づいたのは、この場では啓一以外で恵だけだった。


「いってて・・・おい蘇我、何をしてくれんだ?」


「さーせん先生!つい、払いやすい足があったんで払っちゃいやした!」


「良い度胸だ!貴様は私の扱きが必要みたいだなぁ!」


 啓一は信濃に竹刀を持たれて追いかけられ始める。

 クラスの人間は面白おかしくみていたが、ただ一人だけ啓一を睨み付ける人物がいた。


「蘇我、啓一」


 千葉はその一言を呟いた後、俯いて元に居た位置へと戻った。

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