第26話
二人が学園に走っていくと、先ほどの殺気がジリジリと伝わってきた。
校門の前には生徒達が集まっていて、そこから殺気を感じるのが二人にもわかる。
生徒達をかき分けていくと、膝をついた八幡がフードを被った何者かに刀を振り下ろされそうになっていた。
「高須!」
「わかってるよ!スノーホワイト!」
恵の魔法がフードを被った奴の手を凍らせた。
それでも構うことなく腕が振り下ろされ、簡単に氷がへし折られた。
しかしそれは八幡の好天にもなった。
「助かったぞ高須恵!響け響け踊れ踊れ、ダンシングラプソディ!」
八幡がそう言うと、魔法陣が展開された。
次の瞬間フードは踊りだす。
「ふぅ、魔法を使う暇さえ与えられなかったぜ」
八幡が汗を拭おうとすると、どこからともなくタオルを取り出し即座に渡した。
「ご無事で何よりです先生」
「おー、こいつは優等生の蘇我も居たのか」
そしてこれまたどこからともなく取り出した細い水筒。
スポーツドリンクが入っていて、疲れた八幡の身体に潤いをもたらした。
「何があったのですか?」
「あー、不審者が殺気バリバリに俺に向かってくるもんだから応戦したんだ。そうしたら思いのほか強くてな。魔法も色々と展開されて、防戦一方だったんだよ!なーはっはっは!」
八幡の言葉に、笑い事じゃねぇだろと内心思いつつも口には出さない。
しかし啓一が出さなくても出す人物がいる。
「笑い事じゃないです。神域学園の教師ともあろうお方が何を仰るんですか。中山先生が捕まったばかりなんですよ。他の生徒に示しが付きません」
「おぉーわりぃな詔司」
神域学園屈指の有名人、津田詔司だった。
津田詔司は神域学園の生徒会執行役員で、更に加えて学園最強とまで言われるお墨付き。
「それにしてもさすがだね高須恵さん。一学年最強の魔導士と検見川先生が称賛していただけある。一瞬とはいえあれを拘束したんだから」
「本当ですかー?ありがとうございまーす!」
基本的に恵はまだ人間不信だ。
気を許した啓一やマチにはそれなりに素を見せているが、他の人となると話が変わる。
外面は元気のいい能天気な少女を装ってるが、実のところは内気で敬語も使えない陰キャの様な性格をしている。
「それにしてもフードを被って顔を隠して、八幡先生を負かせるくらいだ。君は何者なんだ?」
「おい、俺は負けてねーーー」
「話の腰を折らないでもらえますか?」
詔司に怒られシュンと縮こまる八幡をよそに、フードをまくり上げた。
しかしそれは啓一にとっては驚く人物だった。
「船橋?」
しかし船橋はまだ激痛が走ってるはずで、ここにいるのはおかしいのだ。
啓一も一度、異世界で契約の魔道具の激痛を味わっている。
それはとても一日や二日で日常生活に復活できるような痛みじゃないのだ。
「おい、船橋!」
「あがが・・・」
「船橋?」
次の瞬間に船橋は砂になってしまった。
急いで啓一は魔道具を見る。
しかし契約は切れてはいなかった。
(あれは船橋じゃないのか)
「ふ、船橋が砂になっちまった!」
「う、うわあああああ」
パニックを起こすのも当然だった。
勇者一人が殺されたと思えばそうなる。
しかしその事実を知るのは、啓一と啓一の冷静さから察している恵だけ。
そのため、詔司に目を付けられないはずがなかった。
「君たちはパニックを起こさないんだ。まるで知っていたかのようにさ」
「そうでもありません。内心は焦っていますよ」
「高須さんも、君の顔を見て落ち着いた。どうしてか教えてくれる?」
啓一は契約でその事実を口外すれば激しい激痛が伴う。
一瞬啓一は市川が自分達を嵌めたと思った。
しかしその思考はすぐに振り払われる。
もしこれが市川の狙いだとしても、徳がない。
何故なら口封じはできない可能性のが高いからだ。
しかしこの契約を知る人物は啓一と恵と市川と船橋の四人だけ。
だけどそれを考える暇は詔司は与えてはくれなかった。
「そうですね。今、砂になったのは船橋じゃないということはわかります」
「何故だい?」
「流石に船橋の秘密に関わるのでそれは言えません」
「だったら、君達がこの事件の首謀者として拘束しなければならないよ?」
「はぁ、わかりました。だったらこうしましょう」
啓一は急いで船橋の電話番号にかける。
船橋が激痛で電話を出なければ啓一は詰むが、天は啓一に味方した。
『んだよ蘇我!こっちはお前の所為で激痛だ!なのによく電話をかけてこれたな!』
「よぉ船橋。今、お前が目の前で砂になってたが、どうやらお前じゃねぇみてぇだな。よかったよかった」
『は?何言ってんだ?てめぇ殺すぞ』
船橋の普段の口調との違いに困惑するも、それが逆に帰ってリアルさを醸し出した。
それは啓一と恵はクラスメイト達にあまり素を見せていないからだ。
おかげで、船橋と啓一と恵はかなり仲の良い友達だと認識された。
「って感じです。ね?生きてたでしょ?」
「どうやら・・・そうみたいだね」
詔司はまだ疑いの目を向けている。
しかし周囲のパニックは治まったので、ひとまずはそういうことにしておこうと言うだけの話でしかなかった。
「なんだよ。じゃあ誰がこんなことを」
「船橋を恨んでる誰かじゃね?」
「あいつバカそうなのにそんなことあるのか?」
「馬鹿だから喧嘩打ったとかじゃね?ははは」
すっかり生徒達のパニックは消え、元の生活に戻り登校していく。
これをいたずらと思う生徒がほとんどだった。
しかし事実は異なり、啓一達には新たな魔の手が迫ろうとしている。
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