EP2

第25話

 結局休日はそれ言った特別な出来事はなく、そして啓一と恵が面と向かって話し合える場もなく終わってしまった。

 2人は二俣家で朝ごはんをとり、一緒に登校している。


「前にホープに来た時も感じたけど、マチさんに愛されてるよ啓一くん」


「そうか?まぁ幼いころに世話になってたしなぁ」


「それだけじゃないよ」


 恵はマチは息子を失って失意な状態の時に、博美が良かれと思って連れてきた啓一を最初は息子と重ねて憎しみを抱いていた。

 自分の息子は死んで、なんでこいつは生きているんだと。

 しかし過ごしていくうちに、憎しみが消え啓一の小さな手と連れてきた博美に対して感謝の念が生まれたのだ。


「そうか?まぁ俺はそこんところわからないな」


「多分それでいいんだと思う」


 言ってることが矛盾していてよくわからないと肩を竦める啓一だったが、すぐに気持ちを整えて一昨日の出来事を切り出した。


「なぁ高須。一昨日は悪かったな」


「大丈夫だよ!私に傷跡は無いみたいだし」


「そう言われると気が楽だわ」


 実際女性に噛み付いたと言うこと自体、余りにも非常識な話でマチにも怒られた。

 吸血衝動についての説明責任は少なくともあるだろう。


「あの衝動はダインスレイヴに力を借りた時に起きるんだが、ちょっと力を借りるだけなら何も起こらないんだ」


「腕を再生するほどの魔力供給を受けたからそうなったの?」


「いや、腕を再生できる魔力共有は俺がした。だけど再生させる為に魔力を同化を加速させないといけなかったんだ」


「魔力の同化?」


 ダインスレイヴと啓一の魔力は触れるだけで互いに同化され、離すことでしばらくしたら同化が解ける。

 同化の際にはダインスレイヴの魔力は、まるで人間の魔力を蝕むように侵食していき、深度が深くなるとに吸血衝動に蝕まれるといったもの。

 ダインスレイヴ以外にも意思のある武器は同化され、その侵食の代償は武器によって異なった。


「なるほどね。魔力の供給量で借りれる力も変わるってわけなんだね」


「あぁ。正直、船橋に腕を吹っ飛ばされたのは予想外だった」


「空間属性は特化の魔法使いだもん。でも何の魔法を使ったかわからなかった」


 それは啓一には何となく目星がついていた。

 船橋は本来俺の頭を狙ったはずだから、腕にターゲットが変わったし間違い無いだろう。


「空間魔法ってのは特化だしな。もう一度見れば仕組みはわかるはずなんだが」


「すごいなぁ数回見ただけで看破できるの」


「空間魔法使いとは初見の対決ではねぇだけだ。それよりも初見でもないのにダインスレイヴを抜かせた船橋を褒めるべきだろうな。正直あの2人にダインスレイヴは呼ぶ気はなかった」


 ダインスレイヴは啓一の相棒だが、無理に使うような場面でもない限りは使用しない。

 恵の時のように圧倒的なパワーと速度を出せるような相手にだけ使用する。

 それには代償もあるが、ある理由から啓一はあまりダインスレイヴを使わなかった。


「確かに船橋って普段の行動とあんまりマッチしなかったよね」


「まぁあれが本来のあいつなんだろ?しばらくは痛みに耐えないといけないから来れないだろうな」


 ザマァ見ろと内心で中指を立てて笑ってやった。

 実際自業自得の為、道場の余地もない。


「そう言えば啓一くんって対話の祝福待ってたの?」


「あー、似たような祝福はあるが対話じゃねぇんだ、」


「え、違うの!?同じなら使い方を教えてもらおうと思ったのに」

 

「高須の対話でも俺と同じようなことができると思うぞ。まぁ意思のある武器は認めてもらえなきゃ触れることができないんだけどな」


「認めてもらう?それじゃあ意思のある武器使う人はみんな対話系の祝福があるの?」


「そうとも限らねぇんじゃね?ダインスレイヴの願いを叶えられる奴は祝福なんかなくても多分多いからな」


「ダインスレイヴの願いはなんだったのー?」


「それはーーー」


 ダインスレイヴの願いを言おうとした矢先、とてつもない殺気が二人を襲い啓一はポケットにある魔道具に手をかけた。

 恵も気づいた為、咄嗟に魔法構築を始めた。

 しかし後ろを振り向くと誰もおらず、殺気は感じられない。

 殺気を消したというよりは、通り過ぎたというべきか。

 学園街では珍しいことでもないが、二人が臨戦態勢になるレベルとなると珍しかった。


「なんだ今の?」


「なんか神域学園に向かってたっぽいね」


「野次馬は趣味じゃねぇが、少し気になるから急ぐか」


「そうだね」


 二人は通り過ぎた殺気のことが気になる為、急いで学園へと向かった。


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