第22話

 1日に色々ありすぎて啓一と恵は二俣家に寝泊まりすることになった。

 啓一は代償の負担が大きかったのか、二俣の誤解を解いたあとすぐに意識を手放した。

 恵もその後にすぐに寝たが、一足先に目を覚ましてしまった。

 シャワーを借りて二俣の服を借りて啓一が起きるのを待っている。


「よく考えたら2日も風呂に入ってなかったけど臭わなかったかな?」


 自分の制服の臭いを嗅いでみるが、自分の臭いと言うのはわからない。


「若い時はそんなの気にしなくていいんだよ!」


「ま、マチさん!」


「なんか早く起きてたから少し手伝ってもらおうと思って」


「手伝い?」


「そうだよ!アタシはもうおばさんだ。看板娘が居てくれると店も華やかになるってもんさ!パンも作るけど、試しに焼いてみるかい?」


「い、いいの?」


「いいさ!でもその口調は接客の時は辞めてくれよ?」


「は、はい!」


 パン屋の仕込みは朝が早い。

 朝食を食べる客が来る頃にはパンを提供していなければならないからだ。

 もちろん補充もする為、1からパンをこねる暇なんてない。

 その日の売り上げが見込まれる分作る必要があった。


「へぇ、腕はいいね」


「え、と、お義母さんに一通り教わったので」


「やるじゃないかい!プレーン系統なら問題なく作れそうだね。ジャムパン系統は作れるかい?」


「分量を言ってくれたら作れるよ!あ、いや作れます」


「アタシとの会話の時は改まらなくていいよぉ!分量はアタシの感覚になるから、プレーンの仕込みだけ頼んだよ!」


「うん!わかった」


 パンの仕込みを二人で協力して終えると、朝7時を回り回転1時間前で持ち帰りができるほどのパンが焼きあがった。

 やはりブランクが五年ほどあるため、恵が作ったパンの形は悪いがそれでも店に出せるレベルには落ち着いていた。


「さぁ、そろそろ開店だから頼んだよ!」

 

 8時を回るとぞろぞろと客が入ってくる。

 今日は休みの為、持ち帰りよりも店内で食べる人達が多くいた。


「いらっしゃいませー」


「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりでしょうか?お持ち帰りでしょうか?」


「店内でお願いします」


 客が次々と入っては出て、入っては出てを繰り返していく。

 接客をしていくにつれて、時間は圧倒言う間に過ぎていく。

 10時になると店内の客は少しだけ落ち着いた。


「すごいね。思ったよりできるじゃないかい!」


「ありがとう、ございます店長」


「いいっていいって!」


 バンバンと背中をたたく。

 久方ぶりに家族の会話をしたと恵は感じた。

 

「いらっしゃいまーーー」


「おい、有り金全部よこせや」


 トラブルはつきものだが、この神域学園付近での強盗は中々ない。

 何故なら、勇者がその辺に学生として通っているため手を出す人間はあんまりいないのだ。

 しかしこの男はナイフを振りかざして、まるで勇者なんて何とも思ってないような風貌だった。


「ここは警察の包囲網が少ないからな。兄貴達への借金を返すためにも出した方が身のためだぜ?」


「あんた、他の客たちに迷惑だよ!通報されたくないならさっさとそんなもんしまいな」


「黙ればばぁ!てめぇからまずーーー」


 殺すと言いかけた矢先、男の手がナイフごと凍った。

 恵の冷たい視線が男に向けられている。


「な、なんだこれ!?」


 腕を凍らせられた男は、自分がどうしてこうなったのかわからずに腕を引っ張ったりを繰り返す。

 しかし一度凍った腕はどうにも動くことはなかった。


「スノーホワイト。貴方を冷気で凍らせたの」


「は?冷気!?まさか勇者がここら辺付近にいるって噂は本当なのか!?」


「もう一度聞くよ!武器をしまうか、通報されるかどっちを選ぶ?」


 男は武器をしまおうにも、腕ごと凍らされているため動かすことができなかった。

 それを二俣もわかっての発言だ。

 当然、しまえなかった男は通報で駆け付けたBSF達によって連行された。


「あんたすごいじゃんか!この前もそうだけど、相手を殺すことなく無力化できるなんて」


「いや、そんなことないよ。あ、ないです」


「アタシには敬語はいらないって言ったろ!でもこういう輩が来た時にあんたみたいな用心棒がいてくれると助かるなぁ」


 二俣はチラチラと恵をみる。

 恵も別にまんざらでもなかった。


「その、バイトしてみたい、かな」


「あいよ!これからよろしく頼むね恵ちゃん!」


 こうして、恵は二俣家のパン屋で働き始めることが決まった。

 この時間は常連客ばかりなので拍手が店中に響き渡った。


「あ、え?」


 そして拍手が起きたところで、啓一は目を覚ました。

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