第20話

 急に何を言い出すかと思えば和解を提案する啓一。

 恵は少し困惑するも、別に彼らに恨みがあるかと言われればそこまであるわけでは無いため、そっと気を静めた。


「交渉か。やはり侮れないな」


「こっちとしても警官にツテがあんのは色々気が楽だ。正直あんたらの所業は反吐が出るが、俺は被害者じゃねぇからな。あんたらに恨みもねぇ」


「だったら、何故彼女がBSFのクズ共を消す邪魔をした?」


「そりゃイタズラした事故ってもんだ。俺はあいつらに死亡と生き返らせる設置型の魔道具?みたいなもんをセットしただけ。そしたら高須があいつら殺して生き返らせる魔道具が発動したから様子を見に行っただけだ」


「その魔道具は今、何処に?」


「おっと、それは教えられないな。あんたら拷問器具に使いかねないからな」


「なるほど、厄介な奴に手を出してしまったようだな。まぁ良いだろう。こちらはお前達を狙わないことを約束しよう」


「あんたは英断だ。だが、船橋は面白くなさそうだな」


 船橋はこの反応にふて腐れた顔をしているのが目に見えてわかる。

 市川は少し苛立ちながら、船橋の顔を睨み付ける。


「おい、船橋」


「良いんですかボス?コイツが俺達の情報を漏らすとも限らないんですよ」


「そいつは当然の反応だ。だが俺はあんたらを利用する気満々だ。困ったらあんたらを使う。その代わりあんたらは俺が困ったら頼み事を聞いてくれれば良い。頼る場所がなくなったら困る。コレじゃダメか?」


「信じられるかそんなもん!」


「俺達の身内に手を出さなきゃ、なんもしねぇよ」


 頭を搔きながら、少しだけ苛立ちを見せ始めた啓一。

 市川とは問答なく交渉を進められたのもあって、流石にイライラしてきたのだ。


「はっ!こっちにメリットが何もねぇだろう」


「ごちゃごちゃうっせぇな。別にここでお前ら二人を殺してもいいんだ。それを譲歩して互いに益のあることをしようって提案してんだ。ぶっ殺すぞ」


「やってみろよ!テメェは俺に一太刀もーーー」


 次の瞬間、船橋の首と胴体が切れた。

 船橋自身その状況に困惑する。

 しかしよくみると船橋の首から血が出ていなかった。

 

「ぼ、ボス?」


「口を閉じろ。お前は私の手刀一つ避けられないのに、私より格上のコイツを倒す気か?無理だ」


「へぇ、意外だな。船橋の能力はかなり有用なのに殺すのか?」


「いーや殺さねぇ。ただ再教育が必要みたいだから少し黙らせた」


 流石に船橋にイライラしてた啓一は少しだけ気持ちがスッとした。

 そしてポケットから何かを取り出す。


「それは?」


「契約の魔道具だ。俺はあんたらの秘密を口外しない。あんたらは俺達に不利益になるような行動をしない。しかしこんだけだとあんたらにメリットが少ないな。よし、あんたらの願いを可能な限り聞くも追加してやる。これでどうだ?」


「この契約の魔道具の効力はどれほどになる?」


「契約違反は想像を絶する痛みを一週間ほど味わうことになる。不利益になるような行動ってのは俺が不利益と判断したときに契約違反の痛みが発動する。逆に俺はあんたらの秘密を口外すれば発動する」


「いいだろう。高須恵にも施してもらえるか?」


「まぁ構わねぇよな?」


「う、うん」


 そういうと啓一と恵、市川と船橋は契約を交わした。

 魔道具の契約効果は契約した本人同士がそう思わなければ発動しない。 

 

「契約成立だ。船橋、お前は俺に手を出してくんじゃねぇぞ」


「そりゃお前しだーーーダダアダダダ!?」


 急に全身に痛みが走り、悶え始める船橋。

 啓一が不利益になりそうと思った為だ。


「おー、すっげぇ。ちゃんと発動するなー」


「お前、俺で試すんじゃねぇよ。コレ一週間も続くんだろ」


「そりゃ、お前この話を聞いてまだ強気に話してくるのが悪いだろ。おいアンタ、これ」


 啓一はそう言うとポケットから魔道具を投げつけた。

 受け取った途端に、市川の傷はみるみるウチに治っていく。


「魔力がない私にも使える治癒の魔道具か。珍しいものを持っているな」


「治ったなら返せ。それは充魔力式だからまだ使えるんだ」


「是非とも売ってほしいもんだ」


 市川は魔道具を投げつけ、啓一はそれを受け取った。

 そしてスマホの番号を市川に渡した。


「コイツ、俺の連絡先だ。なんか頼みたいことがあれば言え」


「へぇ、驚いた。協力的になんだな」


「まぁ、俺もあんたと同類だからな」


「ん?そうか?まぁこちらとしてはありがたい話だ。戦力が増える」


「その頼みを引き受けるかは、俺の気分次第だ」


 そう言うと、啓一は恵を連れてこの場を後にした。

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