第19話
臨戦態勢に入った二人を確認した後、啓一と恵はすぐにその場から飛び退いた。
そしてそこにあった場所には、大きな鉄球が降ってくる。
「おっと、流石に気づくかー」
「転移の魔法か。その特殊性は強力な反面、空間属性の魔法以外が使えなくなるだったか?」
「蘇我って顔に似合わず優等生、だったな!!」
船橋の転移魔法はスズメバチの巣を転移させる。
流石に少しだけぎょっとした啓一だったが、恵が啓一の襟をつかんで後方に投げ飛ばされると、恵はファイアストームを発動してスズメバチを巣ごと焼き払った。
「流石恵ちゃん。ボスが障害になりそうだからって殺そうと考えてるだけあるなぁ」
「黙って!ハエたたき!」
恵のハエたたきという言葉と共に、船橋のいる地面から彼ほどの身長の二つの平たい岩が生えてくる。
しかし船橋は笑いながら全く動くことなく、市川がその岩を砕いた。
「いいねぇ、二人の息ぴったりだ。だがーーー」
「ッ!?」
「啓一くん!?」
次の瞬間、啓一の左腕が吹っ飛んだ。
船橋が手を前に掲げているが、それが原因だと推測できる。
啓一は左腕を抑え込み、膝をついた。
「啓一くん大丈夫?」
「いってぇ・・・」
すぐに恵が止血しようとしたが、手でそれを静止する。
啓一が立ち上がると、船橋は見下し気味に啓一を嘲笑う。
「驚いたなぁ。この程度なら防げると思ってたんだが、やっぱ落ちこぼれか?」
「おめぇこそ、普段の教室のムードメーカーなのが嘘みてぇじゃねぇか」
「あぁ、俺の加虐趣味はボスに言われなきゃ外には出さないようにしてるんだ」
「このサディスト野郎が!こちとら腕を飛ばされて味わう必要のねぇ痛みを覚えてんだぞ」
『油断するからだ』
その言葉と共に、ダインスレイヴが敬一の前に顕現する。
啓一がダインスレイヴを掴むと、腕が元に戻った。
その光景に市川が感嘆を上げる。
「ほぅ、それは聖剣か。珍しいものを持っているな」
「聖剣ね。お前、そんな大それたもんか?」
『今は、そう言えるのではないか?』
「確かにお前魔剣みたいな性能だもんなぁ」
「その喋る剣、聖剣には見えないなぁ」
「まぁこいつは悪魔みたいな性能だかんな」
その会話に市川は眉をあげ、そして笑いだす。
市川はどうしても、啓一が短時間で恵の祝福に気づいたことが腑に落ちなかった。
「あはは!なるほど、君も持っているんだな。高須恵と同じ祝福を!」
「え?啓一くんも?」
「ダインスレイヴの言葉を理解出来てる。そりゃ当然わかるだろ?」
ダインスレイヴは喋る剣ではない。
あくまで意思のある剣なだけであり、言葉のやりとりが出来るのは啓一や恵のように能力を持っている者だけ。
「お前の恐怖を体現したのが俺だって事だな」
ダインスレイヴを持った啓一の動きは、先ほどと違って常人では認識出来ないような速さを持つ。
船橋の目の前に風の様に現れ、ダインスレイヴを振り下ろすと同時に市川が間に入り込んで峰を手の甲で弾いて攻撃の弾道を変える。
そのまま顎に向かって拳を振るうが、その拳は空を切り啓一の掌底が市川の顔面に叩き込まれて、船橋と共に吹っ飛ばされた。
「目にも止まらない速さ。いやぁ、すごいね」
「落ち着くのはまだ早いんじゃねぇの?」
「おっと、そっちには圧倒的な魔法使いもいたことを忘れてたな」
恵は啓一が動き出した時点で既に魔法を展開している。
炎と土魔法の合成魔法、メテオブレイク。
その名前の通り、頭上に隕石を生成して撃ち落とす魔法だった。
「だけどそっちも忘れてないか?」
倒れ込んでいる船橋は飛来してくる隕石の位置にいる自分達と啓一達がいる場所を入れ替える。
しかし啓一が慌てる様子もない。
予想の範疇だし、自分が転移魔法を使えるならそうする。
転移した場所にいた啓一にはダインスレイヴが握られていなかった。
「隕石なんてもんは拳で砕けるんだぜ?それよりそっちを気にしろよ」
「がはっ!」
「ッ!?ボス!」
メテオブレイクを啓一が拳で砕くと同時に、市川の脇腹をダインスレイヴは斬り割いた。
流石に剣を置いていくのも、剣が自分でに動くのも計算外で虚を突かれてしまった。
しかしそんな中でも市川は脇腹を押さえつつもダインスレイヴの柄を握り、啓一の方へと弾き返した。
「しまったな。この剣を設置して攻撃するのは聞いて居たのに失念していたよ」
「設置じゃねぇけどな」
市川の脇腹からは大量の血が慣れ堕ちる。
その光景を見て啓一は口笛を吹いた。
「しかし驚きが絶えないな。対話の祝福を持つ者の脅威はなんとなく想像していたが、実際に見るのとでは話が変わるな」
「俺も驚いたぜ。そんだけの動きが出来てお前、魔力を持ってねぇな」
終始笑みを絶やさなかった市川の顔が遂に崩れ、驚愕の顔になるのがわかる。
啓一がそこまでのことを知る要素がまるでわからなかったからだ。
「ダインスレイヴに触れたのに治療がされないからな」
「なるほど、その聖剣は他の聖剣と違って、使用主以外にも作用されるのか」
啓一はこの戦いで二人を殺す気はなかった。
二人を殺したところで、過剰防衛になりかねないし下手をすれば彼らの組織の者達が報復に来るかもしれないからだった。
「あんたは組織の長をしてんだろ?流石に報復は怖い。俺はあんたらを見逃すつもりだ。その代わり俺と高須から手を引け」
「え、何言ってるの啓一くん!?」
恵は啓一の言ってることがわからなかった。
そもそも啓一は戦いに来たわけじゃ無いのだ。
臨戦態勢に入ったから防衛しただけで、ここには交渉に来ただけだった。
しかし恵はそれを納得出来ず、啓一に抗議した。
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