第18話
市川の登場に1番困惑していたのは恵だった。
恵はその圧倒的な力により市川を後ろに下がらせたのだ。
つまりそれが恵と市川の実力の差だと言うことを、恵が何よりも理解していた。
「初めましてだな。私は市川汐。警視庁所属の警部だ」
「これはご丁寧にどーも。名乗るほどでもねぇからお帰りなすってくれよ」
「全く生意気な奴だ蘇我啓一」
「俺はそんなにお安くねーぜ?」
「どうかな?タダより安いもんもない」
「嫌味として捉えてやるよ」
まるで初対面とは思えない応酬。
しかしその言葉の裏に意図された罵り合いの数々は、とても常人では計り知れない物があった。
「それにしても本当に残念だよ高須恵。まさか中山殺害どころか、優秀な部下集めもできんとは」
恵は俯き気味で睨みつけるが、事実である為何も言えずにいる。
市川に頼まれた事を何一つ遂行は出来ていないのだから。
「何だその目は?おい、まさか私がお前を騙してたとでも言いたいのか?嘘をついていないのはお前自身の目で見ていただろう?」
「そうだね。だから私が言えることは何もないよ」
中山の殺害する任務も、BSFを殺害する任務も元を正せば市川の指示。
恵は犯罪の片棒を掴まされそうな事実はあっても、騙される様なことはされてない。
「言っただろ?私は優秀な奴は好きだが、従順でない奴は嫌いだと」
「BSFのバカどもか?まぁ、あんたが処分したかった部下はきっちり俺が守ってやった」
「忌々しい事にな。だがまぁ奴らが生きてても私に支障はないからな。問題ないと言える」
「中山は都合が悪い人材だったってことか。そして高須も同じ理由で消しに来たってわけか?」
啓一の言葉を聞くと市川は顔を手で押さえ、肩を揺らしながら笑い始めた。
「あはははは!わかっててわざと誘導されてたのか?まぁ船橋から送られてた情報を見ればそうだろうな」
「悪りぃな。俺って言う優秀な人材の所為で。高須と俺が出会わなければ多分、お前の計画は最高の形で終わり、高須も無事に消せただろうなぁ!」
「本当だ。優秀な人材は確かに見つけたが、私の言うことを聞かない優秀な人材を集められても困る」
「言うことを聞かないどころか、喉元を噛みついてやったが?」
市川と啓一、こんな出会い方をしなければ気があったかもしれないと互いに笑みをこぼす。
しかしそんな出会い方をした世界線は存在しなく、目の前の出会いが全てだ。
「なぁ、あんたが中山に指示を出していた黒幕って事でいいのか?」
「・・・」
「そうか」
市川の沈黙は肯定を示していて、その事実を知った二人を彼女は生かして帰すつもりが無い。
しかしそんなのは部下に任せればいいだけ。
船橋だけではなく、彼女本人が現れたのには理由があった。
「私も聞きたい事がある」
「答えるかどうかは期待すんな」
「何故私に辿り着けた?船橋に監視させていたが、私の存在は高須恵がお前に話をして、そのタイミングに知ったはず」
「そりゃ、あんたが高須の祝福をちゃんと理解できてると思ったからだ」
「なるほど、頭の柔軟性とキレの良さ。私の部下になる気はないか?」
「魅力的な提案だ!丁重に断らせてもらうぜ」
「ならばここで消させてもらおう」
恵は啓一と市川の話に困惑が隠せなかった。
自分の嘘を見抜くと言う能力が市川が知っていたとして、それと中山事件の黒幕がどう繋がるのかわからなかったからだ。
「どういうこと啓一くん?」
「高須、一目見た時からお前が好きだった。付き合ってくれ」
「何をふざけ・・・え、本当に?」
啓一からの突然の告白にふざけるなと言いたいが、啓一からは嘘が見えなかった。
つまりこれは事実。
しかし啓一がこのタイミングで本気で告白するわけがない。
少なくとも雰囲気とか諸々しっかりと整えてくれるはずと思うのは、放課後色々寄り道をしてきた事からわかる。
「高須、今の俺の言葉は嘘に見えるか?」
「見えない」
「それがお前の能力だ」
「どう言うこと?」
「発した言葉が頭に浮かんでることと違った時にそれが聞こえて来る。お前の本当の能力だ」
恵はますます不思議に思った。
それと嘘を見抜く能力の何が違うのか。
「ははは!やはりその反応!祝福を受けた本人が使い方をわからないとは滑稽じゃないか!」
「要するにお前の能力は対話だ。本来の使い方は意思のある武器や生物と対話できて協力してもらえるってところだろ」
たまたま人間にも作用してしまい、現代に意思のある物は少ない。
更には異世界転移の影響で動物に自動で翻訳されているため、そのことに気づかなかったのも要因の一つだった。
「しかし今知ったところでどうしよもない!その祝福は長期的に見なければ大したことはない!高須恵、お前の力は危険過ぎるから中山の事がなくても処分対象だ!」
そう言うと船橋と市川は表情を消して臨戦態勢へと移った。
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