第17話
恵が前を向いたところで、啓一は立ち上がる。
まだこの事件は解決に向かっては居ないのだ。
「高須、一つお前に伝えてないことがある」
「伝えてないこと?」
「中山な、搬送中に死亡が確認された」
「嘘っ!?なんでそんなことになってるのかな!?」
流石の恵も驚きを隠せない。
中山のことは召喚された王国の重鎮と重ねて殺そうとしていたが、そこまでの悪感情もないのだ。
ましてや現代に戻ってきて初めての殺しを啓一が止めてくれた事で、本当の意味で中山を殺す気など等に失せていた。
「犯人は大体目星がついてるんだが、少し気が変わった」
「目星ついてるんだ。流石と言うべきかな?」
啓一が外に出る支度をしていたので、恵もベッドから起き上がり背を向けて着替え始める。
「いや、そもそもこの事件は高須も含めて怪しい行動をする奴らが多かった」
「私ってそんなにわかりやすい?」
「言わなくてもわかーーーな、何でお前脱いでんだ!?」
「ん?外行くんでしょ?」
「だからって男の前で堂々と着替えるなよ!?」
「ふーん、流石に啓一くんも男の子だね〜」
顔を赤くしてる啓一を揶揄う恵だったが、啓一が顔を叩くことで心頭滅却を行った。
気を取り直して啓一はタブレット端末を起動する。
着替えが済んだ恵も、後ろからタブレット端末を除きこんだ。
ペンでメモを記入しながら現状を書き詰めていく。
「この事件はBSFがマチさんのパン屋の時から暗躍が始まってたんだ。まぁ当事者の高須ならわかるよな」
「うん。私はあの時に、彼らの実態を知った。被害者を増やさない為に、彼らを殺さないと行けないって」
「そこは思い留まれ。まぁいい、行くぞ」
「行くってどこに?」
恵は啓一に促され、歩いて二俣のパン屋付近に足を運んでいた。
場所は二俣のパン屋の二つ奥の路地。
「ここがあの時勇者とBSFが争った場所だ」
「傷跡ひとつないのはすごいね」
「そうだな。なぁ、あの時の状況おかしくないか?」
「おかしい?まぁ都合よく街を修繕する生徒や、捕まってない勇者がいるのは出来すぎてるとは思うけど」
「俺が思う限りそれは打ち合わせ通りだからだ」
「打ち合わせ通り?まさかアレって最初から計画されていた茶番なの!?」
「ハッキリとは言えねぇ」
啓一はタブレットで矢印をつけて状況を説明していく。
「そうだな。仮に実行犯をA、元凶の犯人をXとして書く」
タブレットど真ん中にAとXと言う文字を描き、そこから二俣のパン屋の事件、恵のBSF襲撃事件と中山襲撃事件、そして恵が襲ったBSF達が出した冤罪事件。
「仮にこの一連の事件が裏で繋がっているとするぜ?」
「ちょっと待って!この冤罪事件は私は関わってないよ!?」
「あぁその通りだ。だがこの冤罪事件がないと、裏で糸を引いていた奴と中山殺害の犯人を結びつけることができないんだ」
「殺害!?搬送中に死亡したって」
「よく考えてみろよ?中山と俺達は本来ならあんときに鉢合わせなかった」
恵はあの時のことを思い出す。
啓一と共にマチのパン屋に行こうとしていた。
中山に対しての情報については何も流されてはいなかった。
しかしその時にある人物の言葉で二人のルートは変わったのだ。
「なぁ、船橋?」
啓一がそういうと、物陰に隠れてずっと二人を見ていた人物が現れる。
恵もずっと誰かに見られてる気配がしたので、特段驚きはしなかった。
「さっきから付けられてると思ったら船橋か」
「二人とも気づいてたんか。さすがぁー」
「お前はまるで漫画のように俺達を誘導した。できすぎてんだよ。その点ではお前が中山を殺した犯人ってのは薄々予想はつく」
「確かに。ちょっとあれはないと自分でもないわーって思ったわあ」
「だがお前がどうしてあのタイミングで俺達を誘導しようとしたか。それが腑に落ちなかった」
「今は腑に落ちたのかい?」
「あぁ、高須の祝福を理解してなきゃ、あんな風に装えない」
船橋は口角を吊り上げ、まるで答え合わせが済んだような顔をした。
そして手を前に掲げ魔方陣が展開される。
即座に石を投げつける啓一だったが、魔方陣が消え去ることはなかった。
「甘いなぁ。魔法陣の弱点の対策くらい間抜けでも取るだろう」
「ちっ、そいつは転移魔法か。誰を呼び出すか、って聞くのは無粋だよな」
「あぁ、わかってんだろぅ?」
恵は珍しく冷や汗をかいて笑ってる啓一を見て、出てくる何かが末恐ろしいものだとわかる。
何故なら恵の魔法と体術を組み合わせた攻撃も冷や汗をかいていなかったのだから。
「ふふっ、君は磨けば輝く原石だったのに残念だよ」
「貴女は!?」
「久しぶりだな」
恵に気さくに挨拶するのは、恵に中山の実行犯を頼んだ女性。
転移魔法で転移してきたのは市川汐だった。
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