第14話

 光に包まれた先には、恵の知る現代のような高層ビルの数々。

 現代で7年、異世界で10年生きてきた恵にとって最早現代が異世界まであった。


「・・・魔王。お義母さん」


 恵は、先ほどのやりとりを思い出す。

 義母のような存在のミレイナを殺した王国への復讐と、それを命を懸けて止めた魔王。

 

「ここが現代」


 しかし恵が余韻に浸れるのはそれほど長くはなかった。

 すぐに警察が恵を確保しにきたのだ。

 恵も、現代について知りたかったからちょうどよく捕まった。

 しかしここで想定外の事態に直面する。

 

「事情聴取を開始する(またガキの勇者かよめんどくせぇ)」


「なにこれ?」


「なんだ?身元不明の人間に事情を聞くのは何かおかしなことか?(さっさと終わらせてぇんだから余計な事言うなよ)」


 恵は警官の言葉とは別の何かが読み取れた。

 別に心の声が聞こえるようになったわけではない。

 現に警察が事情聴取中は読み取れることはほとんどなかった。

 言葉の一部に見え隠れする何かを感じ取ることができ、それは相手が嘘をついている時にだけ発動する事がわかった。

 そして警官の事情聴取が終わると、明らかに責任者と言う風貌の人物が現れる。


「初めまして。私は市川汐と申します。最終検査で貴女の身分証明をさせていただくものです」


「初めまして高須恵、です」


「早速ですが検査を行わせていただきます」

 

「事情聴取、並びに検査は終わりました。最近頻発している神隠し事件の被害者の一人で、貴女は10年前に行方不明になっていた高須恵さんで間違いないですね」


「私はどうなるの?」


「通常は血縁者の方に身元保証人として引き取ってもらう形になります(親が望んでるわけないけどな)」


 望んでいるわけないと言う言葉にピクりと反応するが、それを顔に出すことはない。

 それもこれもミレイナとの淑女教育の賜物だろう。


「血縁者、私には弟と両親がいる。その誰かってこと?」


「そうですね。現在、恵さんのご両親はご健在でございます。通常であればご家族の方々に引き取ってもらう形になります」


「わかりました」


 数時間前の、異世界から帰還する前の時間のことを思い出す。

 魔王は両親に会ってみろと言っていた。

 ミレイナの復讐を始まる前に強制的に止めた相手だが、恵は不思議とその事に対して怒りがなかった。

 寧ろ少しだけ後悔をしていた。


「私が復讐を考えなければ、魔王は死なずに済んだのかな?」


「何か言いました?(復讐?復讐で魔王を殺したのか。やっぱ勇者は怖ぇ)」


 恵にはこの力を発動させないようにする条件がわからなかった。

 そして相手の内心を読んでしまうこの能力は、恵にとって余りにも残酷な能力である事。

 それは市川が両親に連絡してから気づく。


「連絡が取れましたが、本日ご両親は多忙であるため、こちらで用意させていただいてます寮へご案内します。(引き取りたくねぇって言ってるのめんどくさ)正式な手続きが終わり次第、お帰りいただけますよ(まぁおそらくそれはないけど)」


「え?」


 思わず出てしまった言葉に、口を手を抑えてしまった。

 淑女教育を受けたとは言っても、本分は戦いだった恵なのだ。

 感情が出てしまうのも仕方がなかった。

 しかし何人も検査をしてきた市川は一瞬だけ様子が変わった恵を見逃さなかった。


「いかがなさいましたか?」


「・・・ごめんなさいね!すぐにでも家に帰れるのかと思って。貴族の暮らしに慣れちゃってたんだから、まさか迎えが来ないとは思わなかったのよぉ!」


 恵はレズバーが言いそうな口調で、胡麻化した。

 嘘を見抜ける能力は恵がいた世界だって貴重だし、知られて損することはあっても得することは多くない。

 何せ隠し事ができない能力なのだから。


「あ、あぁ・・・なるほど、そうでしたか(高飛車女なだけか。なにか思考を読む祝福があるのなら国の管理下に置かなければならなかったが)」

 

 恵はその判断は英断だった。

 事実としてそれ以上の疑いの目はなく、恵が泊まる警察寮へと案内される。

 署内を歩いていると、恵達の横を通り過ぎた一人の警官が資料を落とした。


「なんか落ちたよ。え、これって・・・」


「ありがとうございます。し、失礼しました!」


 警官が落とした資料は、すぐに取り返される。

 その内容に少しだけモヤモヤが残ってしまった恵。

 しかしそのモヤモヤは解消されないまま、市川に案内された寮にたどり着いた。

 

「申し訳ありませんが、こちらで今日は寝泊りの方お願いいたします」


「みすぼらしい場所だけど、仕方がないね」


「警備面は保障されておりますのでご安心ください」


 高飛車設定をした以上恵は口調はこのままでいかなければならない。

 これまでも疲れが出て恵はベッドに倒れこんだ。

 そしてこれが久しぶりの休みだと実感する。


「そういえば私、旅に出てから五年も休んでなかったんだ」


 決していい寝室とは言えなかったが、それでも嘘が見抜ける能力のおかげで安全が保障されたとなると気が抜けた。

 それは五年ぶりの快眠だった。

 恵が目が覚めたのは寝始めてから一週間ほど経った日になる。

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