第11話

 恵と勇者パーティの闘いは五年続いた。

 王太子キワウ、レズバー、ズクの三人は恵の足元どころかミレイナの足元にすら及んでおらず、三人の護衛達の方が闘いに貢献していたほどだった。


「メグミ様、流石は勇者様だ。しかし前勇者と比べても化け物過ぎて声を掛けずらいんだよな」


「気にすんな!殿下も同じだ。今日もレズバー様の部屋から喘ぎ声が聞こえてきた。メグミ様は婚約者だと言うのに、酷い話だよな」


「でも俺も正直、あんな化け物よりもレズバー様のが可憐で護りたくなるし、殿下の気持ちわかるわー」


 ガハハと兵士の笑い声が聞こえてくる。

 恵もその事を何度言われたことだろう。

 日本で7年育った倫理観と10年育った倫理観は違う。

 いくら婚約者であっても、浮気するような奴はこっちから御免だと恵は帰国したら婚約破棄するつもりでいた。

 また、兵士達も3人より役に立っているだけで、やはりミレイナの足元にすら及ばない。

 こんなことなら、ミレイナに着いてきてもらえばよかったと恵は少し後悔している。


「明日はいよいよ魔王城だって言うのに呑気だよ」


 恵は兼ねてより考えていた。

 護りながら一人で闘うよりも、一人で闘う方が良いと思っていたのだ。

 これまで幸いに死人が出なかったのも、恵が死に物狂いで守ってきたから。

 しかし魔王相手にそんな甘い考えはできない。

 

 朝になりそのことを同行者に話すと全員渋々と言いながら承諾し、魔王城近くの村で待機してもらうことになった。

 恵は一人魔王城へと足を運ぶが、そこで驚く光景を目にした。

 城下町が肌の色が違うとはいえ、人間の国よりもいきいきとしていたのだ。


「何国も旅してきたけど、ここより栄えているところはあっても、こんなに幸せそうにしている国はなかった」


 恵はこの世界を旅してまわり、貴族主義が強すぎる世界だと感じた。

 中世の知識は恵が小学校の図書室で読んでいた本しかないが、それよりも酷いと感じる。

 それは貴族は魔法を使えるが、平民は魔法が使えないこと。

 故に中世ヨーロッパとは違って革命が起きにくい。

 そのため、平民は希望を見いだせず、ただ淡々と与えられた役割をこなして家に帰るだけ。

 

「治世のある者が国を統治していれば、こんな風になるのかな?」


 しかし恵は人類で、ミレイナのいる国が魔族に虐げられているのは納得はできない。

 魔族の城下町に攻撃を仕掛けることはしないが、魔王は倒す。

 そう誓って城下町をフードを被って駆け抜けた。

 

 そして城門の前まで付くが、屈強な戦士二人ががっしりと門を守っている。


「明らかに今まで闘ってきた奴らより強い。キワウ達を連れてこなくてよかった」


 二人の戦士と闘えばおそらく恵の圧勝だろう。

 しかしこの二人は、恵の師であるミレイナよりも圧倒的に強いのは感じ取れた。

 ミレイナがいれば人類が脅かされることはないだろうと勇者の旅自体に疑問を感じていた恵だったが、勇者の恩恵がなければこの二人は勝てないし、魔王は更に勝てなかっただろうと初めて思った。


「あの二人を相手してたら、ここで袋叩きに合うよね。ここは魔王のいそうな城の最上階に行ってみようかな」


 恵は風魔法と火魔法で空高く飛び上がり、最上階の部屋に突っ込んだ。

 そこには、玉座に座り書類整理をしている魔王と思われる人物がいた。


「一発で魔王の部屋!ついてるな私!」


「誰だ!?」


 流石に恵の気配を感じ取った魔王は、すぐさま両翼で腕を後ろに仕えている護衛が攻撃に走る。

 

「城門の二人より強いね。でも!」


 剣と槍で攻撃してきた二人の兵士を、槍を脇で受け止めてそのまま両足で白刃取りして投げ飛ばした。

 二人は体制を崩され壁に打ち付けられたが、そのまま体制を立て直す。

 あまりの手際の良さに思わず、感嘆を零す魔王だったがすぐに表情を引き締めた。


「驚いた。勇者か」


「へぇ、わかるの?」


「魔王と勇者。相対すればわかる。しかしそうか。メグルは旅立ったか」


 魔王は目を抑えて、上を向いた。

 まるで何かを悲しんでいるかのようで、恵は困惑した。


「メグル?」


「聞いていないのか?貴様が来る前の勇者の名だ。メグル・タカハマと言った名だ」


「初めて知った前の勇者の名前・・・でもどうして魔王が勇者が死んだことを・・・知って・・るの?」


 恵は自分で言ってて自分が召喚された時のことを思い出した。

 勇者が毒殺された事と、この世界に勇者は一人だけしか存在しないことを。


「その顔は流石に把握しているな。勇者は世界に一人だけ。そしてお前の実力が勇者だとはっきり伝えている」


「私の実力?」


「こいつらは我が側近で我の魔力が込められた武器を分け与えている」


「だから何?」


「近代の勇者はこれほど無知・・・いやメグルの奴、敢えて教えていないのか?」


「どういうこと!?答えなさい!」


「魔王の力は魔族とは違い、勇者以外が対抗することができない。つまり、お前以外は武器を弾くこともできないということだ」


 魔王の言葉に恵は驚かされる。

 そんなこと聞かされていなかった。

 もしかすれば人類も知らないのかもしれないと。

 魔王の込められた魔力にそんな秘密があることを。


「流石に我が毎日整備しなければならず、側近にしか行渡らせるに留まってしまった」


「だから勇者とわかったのね・・・」


「愚直に敵の言うことを聞くか。危機感もないとは嘆かわしい」


 恵は顔を赤くして、魔法をぶっ放した。

 流石に魔王をこれでどうにかできてるとは思っていなかったが、魔王どころか城が無傷なことに恵は驚いた。


「え?」


「無詠唱はフリーデから教わったか?メグルもできなかったフリーデの芸当をやってのけるとは驚いたぞ」


「フリーデ?聞いたことない名前」


「メグルの恋人だ。フリーデ・フォン・


 アメリナ、それは恵にとって危機なじみのある家名。

 高鳴る心臓の鼓動が、耳まで聞こえてきた。

 前勇者の恋人は、勇者を毒殺したと聞いていた。

 その恋人も薬漬けにされて長くないと。


「流石にいつも共に居たからな。死んだか?そうなると人類には他にも無詠唱魔法を使えーーーどうした?顔色が悪いな」


「貴方は・・・どうしてそこまで勇者の事情に詳しいの?」


「それは我がメグルと友だったからな」


 魔王の言葉は、恵が必要としていた情報として十分だった。

 恵の頭の中で、全てのピースがカチッとハマる音がした。

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