第14話 決着

 打ち合うたびに火花が散り、水飛沫が舞う。

 手も足も出なかった剣技に、反応すら出来なかった剣速に、今は付いていける。対抗できている。剣撃の応酬の最中、隙間を縫うようにして突き出された剣先を紙一重で躱し、体勢を崩しながら左の手の平に握り締めた水を細かな水弾として弾く。

 半端な威力の豆鉄砲。

 だが、それでもヘルハルの鎧兜には相性抜群の攻撃だ。

 鎧兜に、胴鎧に、着弾して弾けたそれによって耳長の体勢も大きく崩れる。

 その隙を狙い撃つように、地面を踏み締めて大量の水を蹄から召喚して波紋を描く。それが行き着く果てに幾つもの水球が浮かび上がり、その全てを一斉に放つ。

 躱せない攻撃だと直感したんだろう。

 耳長の頭部が挿げ変わる。

 ヘルハルから、俺の知らないなにかの鎧兜へと。

 瞬間、俺が周囲に生やしていた木々の主導権が奪われる。

 木々は庇うように動き、自らが砕け散ることで水弾から耳長を守った。


「アルラウネ……いや、ドライアドか?」


 頭部の半分を覆うような大きな花が飾り付けられた鎧兜。

 その胴鎧にも花や葉の意匠が施されている。


「人の生やした森を勝手に」


 襲い掛かる木々を水弾で破壊しつつ、鎧兜をケルフィラのからヘルハルに挿げ替える。その炎で自らが生やした森を灰燼に帰し、膨れ上がった灼熱が辺り一面を焦土に変えた。

 熱が去り、灰が舞う中、耳長の鎧兜は元の耳の長い兜に戻っている。

 同じヘルハルの鎧兜に替えなかったのは、これまでの堂々巡りになるのを避けるためか、それともなにか他に思惑があるのか、そもそもそんな思考力が残っているのか。なんにせよ、このままジャンケンを繰り返していてもしようがない。

 俺もこのまま、ヘルハルの鎧兜のまま、戦うか。

 最後まで。


「返して貰うぞ、俺の首」


 互いに地面を蹴って距離を詰め、刃が衝突する。

 甲高い音を鳴らして火花が散り、星空のように剣閃が瞬く。

 勝敗は一瞬の出来事によって決定づけられた。

 やはり、いくら鎧兜を集めようと、剣技において耳長には届かない。

 剣撃の隙間を縫い、またしても耳長の剣が突き放たれる。

 わかっていたことだった。及ばないことくらい。

 だから、避けない。

 放たれた突きを正面から、頭部で受け、鎧兜が弾け飛ぶ。

 燃え盛る火炎が掻き消え、胴鎧の意匠が回帰し、なんの能力も持たないただのデュラハンへ。

 だが、その代わりに耳長の懐に一歩、踏み込めた。

 燃え上がるのは、全身から溢れ出す蒼白い炎。

 クロはこれをウィルオウィスプ。

 魂の発露と呼んでいた。

 故に、これから繰り出すのは渾身の力を込めた、文字通り魂の一撃。

 蒼白い鬼火を纏い、描いた一閃が耳長の胴鎧を斬り裂いて馳せる。

 下部の脇腹から肩に掛けてを斬り上げられた耳長は、たしかな致命傷を負ってその場に崩れ落ち、耳の長い鎧兜を落とす。

 彼女もまた、だたのデュラハンに戻った。


「もう立ち上がれやしない。指すら動かない。このままなにもしなくても死ぬ」


 膝を突いて沈黙する耳長から視線を移す。

 勝負あったと見て、姿を現したクロへ。


「どうしたい? クロ」


 俺の目的はもう叶ったも同然だ。

 あとは、クロがどうしたいか。

 叶うまでの過程をどう言ったものにしたいかだ。


「私は――」

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