第15話 首

 クロは自らの半身を、分け身を、慈しむように抱き締めた。

 言葉はない。元々、同じ存在だったんだ。そんなものは必要がない。

 なにをせずとも意思は伝わり、伝えられ、交信は彼女の命が尽きるまで続いた。


「さようなら、私」


 彼女の肉体が影に包まれ、飲み込まれる。

 首のない肉体も、騎士鎧も、すべてが掻き消えて、そして全てが終わった。


「蓮」


 その手には俺の首がある。


「返すね」

「あぁ」


 差し出されたそれを受け取ると、今まで切れていた繋がりが結ばれたことを感じる。同時に閉じていた目が開き、視覚がそちらに映った。元に戻った。


「あぁ、こんな風なんだな。今の俺って」


 初めて自分の全体像をまともに見た。

 首無し騎士、デュラハン。

 思ったよりずっと、厳つい。


「よっと」


 そのまま自分の首を元に戻し、首の断面と接続する。


『カチッと音がするまで押し込むんだぞ』

「なんのアタッチメントだ、俺は」


 当然、そんな音がするはずもなく、首は収まるべき所に収まった。


「よう、リスナー。これが俺だ」

『お前、そんな顔してたのか』

『へぇー、これが蓮ちゃんですか』

『なんかイメージと違うな』

『俺はそんなに違わない』

『思ったよりずっと若ぇじゃん、お前』

『おっさんかと思ってたのに年下か』

『苦労してんなぁ、若いのに』


 大きく息を吸い、吐く。

 口を開ける所作も、息を吸い込む動作も、喉を震わせる感覚も、懐かしく思う。

 こんな当たり前のことが、出来ていなかったなんてな。

 そりゃ自分の首を無くせばああもなる。

 この感覚が永遠に戻らないなら、正気も失ってしまうだろうな。


『おめでとう』

『やったな』

『これからどうすんだ?』

「そうだな。とりあえず直に配信が止まるのは確実だろうから、それまでは慈善事業でもやるか」

『慈善事業って?』

「死にそうなハンターを助けたり、死んでるハンターを回収したりだ。元々、自分の無害をアピールするための配信だし、これ」

『そうだっけ?』

『あぁ、そういやそんなことも言ってたな』

『すっかり忘れてたわ』

「お前らなぁ」


 この趣旨が伝わってないと配信の意味もないんだが。


「とりあえず、困ってるハンターがいないか探してみるか」


 スマホを持ったまま、この場を移動しようとして、ふとクロが立ち止まったままなのに気付く。


「クロ?」

「私……」


 俯いたその姿を見て、ようやくクロの心境を察した。

 そうだ。クロの目的はもう達成したんだ。

 もう俺と一緒に行動する理由がない。

 けど。


「行こう」

「――うん!」


 クロは黒馬の姿となり、俺を乗せて駆け出した。

 どこまでも一緒に。



―――――



 読んで頂きありがとう御座いました。

 星、フォロー、応援、とても感謝しています。

 近いうちにまた新作を書くので、そのとき縁があればまたよろしくお願いします。

 

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首を刎ねられてデュラハンに転生したハンター、ダンジョン配信の第一人者になって大バズリする ~アカBANに怯えながら魔物の頭蓋でパワーアップ~ 黒井カラス @karasukuroi96

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