第13話 決戦

 クロは耳長の分け身だ。自分自身であり、人馬一体。

 それ故にクロから耳長を攻撃することが出来ない。その逆は可能らしい。人馬一体とはいえ主従の関係にある以上、デュラハンはコシュタ・バワーを斬り捨てられる。

 正気を失った今なら、それに躊躇はないだろう。

 だから、この場にクロはいない。いや、居はするが、近くにはいない。

 遠巻きに俺と耳長の一対一をリスナーと一緒に見守っている。

 そんな中、現れた耳長は俺を見るなり剣を抜いて地面を蹴った。

 その瞬間、この場に仕掛けた罠を作動する。

 辺り一面を森に返るほどの木々を生やし、無数の手数で耳長を襲う。

 速く鋭くしなった枝の鞭。多方面から一斉に振るわれたそれは、しかし簡単に斬り裂かれて届かない。


「やっぱ、このくらいじゃダメか」


 どれだけ数を用意しても、枝の鞭ではあの剣技の前で無意味。

 すべて切り払われるのは想定内だったが、実際にこうも簡単に捌かれると堪えるものがあるのもたしか。


「なら、次の手だ」


 鎧兜をレーシェルのものからサンダルバのものへと挿げ替えて稲妻を纏う。

 雷電によって磁場を構築し、用意していた岩石を浮かべ、木々の隙間から投げ打つ。もちろんこれが当たるとは思ってない。これはただの牽制だ。近づけさせなきゃなんだっていい。

 本命は、砂塵嵐のほうだ。

 岩石を二つ隣り合わせにして高速回転させ、互いに削り合わせることで砂と砂鉄を大量に生成。それらを電磁力で操り、周囲を旋回させ、風を巻き起こし、砂塵嵐を引き起こす。

 雷鳴と共に視界が砂色に染まり、細かな砂鉄が磁性によって耳長の鎧に張り付いていく。

 どれほどの剣技を持とうと、この砂塵嵐からは逃れられない。

 次第に四肢が重くなり、間接が稼働しなくなり、最後にはまったく身動きが取れなくなる。

 だが、そこまで待つ必要もない。

 動きが鈍った今なら確実に攻撃を当てられる。


「こいつを食らえばいくらお前でも!」


 放つのは、木々の盾を貫き、魔法の防御を突破した一撃。

 両手の内に稲妻を圧縮し、定めた標的に向かって伸びる破壊の雷撃だ。

 轟音が響き眩い閃光と共に解き放たれた一条が、砂鉄で身動きの取れない耳長を襲う。着弾と同時に砂埃が舞い上がり、砂塵嵐に紛れて消える。


「当たった、のか?」


 こうなると砂塵嵐が裏目に出る。

 耳長を拘束できたまではよかったが、視界が悪くて攻撃の成果を確認できない。

 至るところから雷鳴が発生するから音に頼るのも無理なのが困るところ。

 当たったのか、外したのか、避けられたのか。

 確認するには近づくか、砂塵嵐を解くしかない。

 耳長の生死が不明な今、不用意に近づくのは危険か。

 そう判断して砂塵嵐を解こうとした、その瞬間。

 鎧の背中が微かに熱くなるのを感じた。


「――」


 ほんの僅かに、一瞬遅れて熱風が過ぎていくのを肌で感じ、事態を理解する。

 耳長はかつての俺と同じ方法で砂鉄の拘束から抜け出したに違いない。

 そして砂塵嵐に紛れて移動し、雷鳴で音を消しながら、俺の背後を取った。

 振り返ると共に視界に捕らえたのは、燃え盛る鎧に身を包んだ耳長の姿。

 それは奇しくも、同じヘルハルの鎧兜だった。


「持ってるよな、そりゃ」


 耳長の活動範囲に俺もいたんだ。

 同じ魔物を狩って、首を手に入れていたって不思議じゃない。

 過去に手に入れた首はまだ使えるのか?

 そんな疑問に答えを導き出す暇もなく、燃え盛る火炎の剣が振るわれた。

 即座に、反射的に、鎧兜をサンダルバからケルフィラに挿げ替える。

 鞘から引き抜いた剣が飛沫を上げて水流を纏い、燃え盛る剣閃と衝突した。

 互いに互いを相殺し合い、膂力を押しつけ合う鍔迫り合い。

 以前は手も足も出なかった剣撃の応酬も、今は違うってところ見せてやる。

 両手に力を込めて耳長を押し退け、追撃に剣撃を見舞う。

 決着の時は近い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る