第11話

ライside



魔法薬の実験から約2週間が経っても、私の体が元に戻ることはなく、コイルもお手上げ状態だった。



(まあ、私的には前世も女だったし、逆にこっちの方が都合はいいか)




ただ、問題なのはメロウとの婚約の件だ。



コイルの研究室でメロウに見せ付けられた契約の烙印は紛れもなく私がメロウを召喚したという証拠だった。



あれからメロウは契約の通り、常に私のそばにいて魔力の訓練や勉強まで面倒をみてくれている。



原作の描写ではメロウがライの魔法訓練や一緒に自習などは全くない。




私は私の行いのせいでどんどんと正規のルートから外れていってしまうことに焦りを感じていた。



なぜならこの世界には必ずヒロインが存在する。



というか、時期的にはもう既にヒロインはこの学園に入学してるんだから攻略対象誰かと出会っていてもおかしくないはずなのに、なぜヒロインの影すら感じないのだろうか。




そんなことを悶々と考えながら窓の外を眺めていると、私の視界を大きな鴉が横切った。




(あ、鴉だこの世界にもいたんだ)




ぼうっとそんなことを考えながらその鴉を見送った後に私は慌てて立ち上がり、教室を飛び出した。



このゲーム内で黒い鴉の出現は重要な分岐の合図だった。



(あの鴉を追えばその先にルート修正のきっかけイベントがあるかもしれない!)




慌てて校舎を飛び出し、悠々と空を舞う鴉の後を追って走っていくと、鴉は学園の裏庭へと入っていき、大きな木の下に据え置かれたベンチに腰かける人物の肩にとまった。




(学園に裏庭なんかあったんだ)




原作でも見たことのない裏庭に私がそろりそろりと足を踏み入れると、肩に鴉をとめたフードを深く被った人物が一瞬だけコチラを見た。




(あんなキャラいたかな…?)



「あ、こんにちは〜」



フードを深く被っているせいで顔の見えない相手に、私はヘラヘラと笑いながら徐々に距離を詰めていく。




するとフードを被った人物は「それ以上来ちゃダメだ」とどこか切ない声を出した。




しかし私はその警告を無視し、「いや〜迷っちゃってぇ〜」と白々しく近付いていく。



するとさっきまでそっぽを向きながら声だけを私に向けていたフードの人物が歩み寄ってきた私に驚き、コチラをもう一度見た。




その僅かな瞬間、その深く被ったフードの中からルビーのように鮮やかな瞳だけが垣間見れた。




(あれ、なんか見たことある気がする…)




私がこの人物に既視感を感じるということは、高確率で攻略対象かサポートキャラの可能性が高い。



よくよく見ると、目の前の人物は特殊な造りの制服を着用している。




フード付きの制服をわざわざ学園が支給しているということは学園内でもそれなりの待遇を受けられる家柄と魔力を持っているのだろう。




(わかった!この人、シークレットルートで出てくるサポートキャラだ!!)




謎の根拠のない自信から、私はずいっとフードの人物の顔を覗き込もうとしたその時、裏庭の入口からメロウの声が響いてきた。



「ライ!!今すぐ離れろ!!」



その声に驚き、私が振り返るとそこには鬼気迫る表情でツカツカと早足でコチラへと向かってくるメロウの姿があった。



「あーびっくりしたあ、そんな急に大声ださないでよ……!?」



こちらに向かってくるメロウに苦言を言っていると、突然体を後ろに引っ張られ、私はあっという間にどこか嗅ぎ覚えのある切ない香りに包まれた。



(またこの香り…)



懐かしい香りに包まれ、私の脳がその香りと紐づく記憶を探していると、フードの人物に後ろから抱きしめられたかと思うと、次の瞬間フードの中のルビーの瞳が近付いて来るのが見えた。



まさに宝石の様なその瞳に私が見いっていると、私の額にそっと冷たい柔らかなものが触れ、脳内に声が響いた。



"おかえり、さようなら"



「え…」



目を見開いて驚く私を見て、フードの中のルビーの瞳は一瞬ふっと柔らかく細められたが、すぐに私から離れると、体ごと木の影の中へと溶けてしまった。




(消えた…)



あっという間の出来事に、私が呆然とフードの人物が消えた木陰を眺めていると、追いついて来たメロウに乱暴に腕を掴まれた。

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