第9話
♡♡
"ライ・アビス・ブルー"
君は僕がこの学園に入って出会った中で一番退屈な相手だった。
その透き通るビー玉の様な薄い水色の瞳を覗き込んでもそこに君の意思は無いように思えた。
家の為だとひたすらに魔法学を学び、休日も取り憑かれたように訓練場で実技訓練をしている。
家同士の付き合いで実家主催のパーティーに招待した時も、一人テラスで抜け殻のようにぼーっと空を眺めていた。
会話もまるでテンプレートで設定しているかの様に返ってくる言葉はいつも同じ。
だから君とコイル先輩の関係には興味があった。
君はコイル先輩にだけはテンプレート以外の言葉を発するし、コイル先輩を見る時の瞳には確かに感情が読み取って見えるからだ。
しかし、その興味もすぐに消えた。
君がコイル先輩に向けていた感情の根源は彼へのコンプレックスからだったとすぐに分かってしまったからだ。
とてもつまらないと思った、
僕はまるで期待を裏切られたような気分になり、むしろガッカリすらした。
しかし君は仮にもブルー家の子息。
ホワイト家には適わないが家柄は悪くない。
"ホワイト家の次男の友人"としては不都合のない相手だ。
そう考えれば、虚ろな君は僕にとってとても都合が良いのかもしれないと思った。
君は虚ろだから僕になにも求めないし、感じない、だから君が僕の予想を超える行動は取らない。
君は良い意味でも悪い意味でも僕を裏切らず、ただ僕の評価を上げる要素の一部であり続けてくれる。
―――そう思っていたのに、あの日の君に僕はまんまと裏切られ、身も心も君に奪われてしまった。
最初は体が変容し、戸惑った君に僕自身も動揺しているのかと思った。
だがしかし、君のまるで別人の様に光を宿したアクアマリンの瞳とくるくると変わる表情に僕は目が離せなくなった。
この感情の正体を考えながら僕は数日間、君と過ごしていた。
自分の感情が自分で把握もコントロール出来なくなったのは初めてだったからだ。
君の姿がなければ無意識に姿を探してしまう、
その姿を見つければ歩み寄ってしまう、
君の傍に居れば、その瞳に僕が映るのか確かめたくなる、
君の瞳に僕が映っているのなら、次はその唇から声が聞きたくなる、
そしてその唇から紡がれる言葉が、出来れば僕に対しての言葉であって欲しいと思う。
その微笑みも、突拍子もない発言も全て聞き漏らさず、僕の物にしたい。
こんな感情も、君の体が元に戻れば嘘のように消えてしまうのだろうか、
君の体が戻れば、今の君も、夢のように消えてしまうのだろうか。
君はまた、虚ろな君に戻ってしまうのだろうか。
そんなことを考えながら君と並んでコイル先輩の研究室へと向かっていたら、僕としたことが君を連れ去られてしまった。
転移魔法の痕跡を見てすぐに君が連れ去られたことを察した。
そしてその瞬間、君がこうして誰かに奪われてしまうのだと、君を見ているのは僕だけではないのだと実感した。
取り戻さなくては―――
僕はその一心で学園内に魔力を巡らせて探し回った。
しかし君は見つからなかった。
こんな低俗なことを企む輩が巧妙に転移先を隠せるはずがないと思っていた僕は目の前が真っ暗になったその時、
僕の目の前に光の文字で刻まれた"召喚状"が現れた。
学生とはいえ、既に上級魔導士である僕を召喚出来る人物などいるはずかない。
(まさか聖女が―――?)
有り得ない展開に一瞬頭が真っ白になったが、改めて目の前の召喚状を見ると、召喚者はあろうことか君の名前が刻んであった。
疑問はたくさんあった。
この召喚状の形式を見る限り、これは聖女だけが使用出来るもの。
ブルー家の子息がなぜ聖女の魔法を知っていて、そして使えるのか、これは世間的には大きな問題だが、僕には好都合だ。
ホワイト家の悲願である伝説の聖女の復活。
ホワイト家の男子として生まれたからには、その身は聖女に捧げなければならない。
もしホワイト家の人間以外で、光魔法を使う物が現れたらそれが兆しだ。
聖女の生まれ変わりである女性、その女性を聖女として覚醒させ、生涯を守り抜く。
本当に存在するかも分からない存在に僕の人生は握られているのだ。
しかし、それを今こそ僕の決断で破り捨ててみせよう。
たとえこの判断で悲劇を生もうと構わない。
ただ君が手に入るなら―――
その一心で目の前の召喚状に魔力を用いて承認のサインをすると、召喚状は契約の刻印となって僕の左胸に刻まれた。
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