第13話「突然の告白」
「さ、坂下柚葉さん……ちょ、ちょっといいかな……?」
ある日の放課後、帰ろうとした柚葉のもとに、一人の男の子が話しかけてきた。同じクラスではなく、別のクラスの男の子だ。名前は柚葉は知らなかった。何かあるのだろうかと、柚葉は不思議に思った。
「う、うん、なに?」
「あ、いや、ここではちょっと……つ、ついてきてくれるかな?」
そう言って男の子が歩き出す。なんのことかよく分からない柚葉だったが、とりあえず後をついていくことにした。
(なんだろう、同じクラスになったことは……ないよね。私に何の用事があるんだろう)
ちょっと、いやだいぶ不思議に思った柚葉だったが、男の子は体育館裏まで来て足を止めた。柚葉も立ち止まる。周りには誰もいないようだ。
「ご、ごめん、ちょっと他の人には聞かれたくなくて、こんなところまで来てしまって……」
「う、ううん、大丈夫だけど、私に何か用事でもあった?」
柚葉がそう言うと、男の子は「あ、あの、その……」と、何か言いたいようで言えないような感じだった。柚葉は男の子が話すのを待った。
「さ、さ、坂下柚葉さん、ぼ、僕、あなたのことが好き……です。お、お付き合いしてくれませんか……?」
ぽつぽつと、その男の子は言った。ああ、なるほど好き……ということに気がついた柚葉は、一気に心臓のドキドキが増した。好きとは、あの好きだろうか。じゃあこれは、告白……? と、柚葉の頭の中はぐるぐると色々なことが回っているようだ。
「……ええ!? あ、いや、その……」
「……ほ、本気なんだ、君が可愛いから、その、好きになったというか……」
「……そ、そっか、でも……ごめん、私はあなたのことをよく知らないし、好きという気持ちもないから……」
小さな声だったが、柚葉はお断りの言葉を述べた。好きになってくれたから、こちらも好きになるというのもなんだかおかしいし、この男の子のことを知らないのに好きな気持ちになれるはずがなかった。柚葉はそう頭の中で考えていた。
「……じゃ、じゃあ、お、お友達……でも」
「……あ、いや、ごめん、そういう気分にもなれなくて……あはは」
「…………」
柚葉がやんわりと断ると、男の子は下を向いた。少し震えているようにも見える。
「……やっぱり、坂下さんは、河村のことが……好きなんだ……」
男の子から柚真の名前が出て、柚葉はドキッとしてしまった。ゆ、柚真のことが好き……? 誰が……? と考えても、自分しかいないと柚葉は思って、
「……あ、い、いや、柚真は別に、好きとかそういうんじゃないよ。ただの友達で……」
と、ここでもやんわりと否定した。
「……いや、絶対そうなんだ、河村のことが好きなんだ! なんであんなやつの方がいいんだぁぁ!!」
男の子が急に叫んだかと思ったら、柚葉にがばっと抱きついてきた。柚葉は突然のことでびっくりしてしまったが、「え、ちょ、ちょっと、やめ……!」と声を出す。しかし男の子は柚葉を離さない。柚葉の身体あちこちを触っている。柚葉は不快に思い、「や、やめて……!」と抵抗するが、男の子の力にはかなわなかった。
「僕のことを、見てよ、ねえ、見てよ!」
「や、やめ……!」
「――柚葉!!」
そのとき、大きな声が聞こえたかと思ったら、男の子に体当たりする誰かが柚葉の視界に入ってきた。柚葉は男の子の手を離れ、その場に座り込む。目の前にいたのは……柚真だった。
「お前、何してんだ! 柚葉は嫌がってたじゃねぇか!!」
大きな声を出す柚真。男の子は「ひ、ひいいいい!」と声を出して逃げて行った。
「あ、おい! くそっ……って、柚葉、大丈夫か!?」
柚真もしゃがんで柚葉の顔を覗き込む。柚葉は今になって急に怖さが押し寄せてきて、目に涙が浮かんできた。
「柚葉……もう大丈夫だ」
柚真は柚葉の頭をよしよしとなでた後、柚葉をそっと抱きしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます