第12話「柚葉の気持ちは」
夜、柚葉は部屋で勉強をしながら、ふと昼間のことを思い出していた。
柚真に抱きしめられたこと。
背が高い柚真と柚葉では、身長差があるので、柚真の胸のあたりに柚葉の顔があった。柚真の心臓の音が聞こえたようで、柚葉もドキドキしていた。
たしかに柚真はカッコいい。カッコいいのだが、異性として恋心のようなものを持っているかと言われると、そこまではない……ような。しかし、柚葉の心の中で何かもやもやするというか、これまでとは違う気持ちが芽生えようとしていた。
柚真が言った『もやがかかったピンク色』という心の色も、今の柚葉にはぴったりなのかもしれない。
(……う、うーん、なんか集中できないな……私は柚真のこと、仲のいい友達だと思っているんだけど、本当は違うのかな……)
自分の気持ちに自信が持てない。そんな感じの柚葉だった。
勉強に集中できなくなった柚葉は、スマホを手に取り、電話をかけることにした。相手は亜紀だ。
「もしもし、あ、柚葉、どうかしたの? 電話なんてめずらしいね」
「あ、そ、それが……」
柚葉は一瞬ためらったが、昼間の出来事を亜紀に話した。
「……そっかー、河村くんが……あのとき柚葉が大きな声出して出て行って、その後を河村くんが追いかけているのは見たけど、そんなことがあったなんてね」
「う、うん……それで、なんか自分の中でもやもやするというか、言葉にするのが難しいんだけど……」
「うんうん、そりゃあ男の子に抱きしめられたら、ドキドキするってもんだよー。もしかしたら柚葉の中で河村くんの存在が大きくなっているのかもね」
「そ、そうなのかな……」
柚真の存在……か。これまで仲のいい友達として、他の男友達よりは距離が近い感じはしていた。それでも『恋心ではない』のが、柚真も安心すると言っていた。
柚葉の中で、河村柚真という人の存在が大きくなっているのかもしれない。
「そうだよー。まだ河村くんのこと好きって感じでもないの?」
「う、うーん、よく分かんないんだよね……好きとかそういう目で見たことなかったし……あ、友達として好きだとは思っていたけど」
「それが『異性として』好きになってきているのかもしれないねー。それも悪いことではないと思うよー」
「そ、そっか……でも、柚真は私がそういった色目で見ないのが安心するって言ってたんだけどなぁ」
「そっかー、まぁ、河村くんももしかしたら今頃気持ちが変化してきているかもしれないよー。分からないけどね」
柚真の心の中……人の心に色があるなんて言っちゃう人だけど、柚葉はまだまだよく知らないことも多かった。柚真が柚葉のことをどう思っているのか。訊いてみたい気持ちは柚葉の中にもあったが、なかなか訊くのは難しそうだなと思った柚葉だった。
「そ、そっか……なんか、よく分からなくなってきたなぁ」
「まぁ、無理しないのがいいんじゃない? 告白してみてとは言わないからさ。でももしこれから先柚葉の気持ちが変わったら、そのときは思い切って告白するのもありだと思うけどなぁ」
告白。
柚真がこれまで何度も受けてきたもの。
もしそれを柚葉がすることになったら……柚真はどう思うのだろうか。
「う、うーん、分かった。とりあえず今まで通り普通に接することにしようかなぁ」
「うんうん、それがいいと思うよー。自分の気持ちに素直になるのが一番だよ」
「う、うん……あ、ごめんねこんな時間に電話して」
「ううん、大丈夫だよ。二人がこれまで通り仲良くできるように私も応援してるね」
亜紀との通話を終えて、柚葉はうーんと背伸びをした後、ベッドにぼふっと倒れ込んだ。
柚真の心は何色をしているのだろうか。少し気になってきた柚葉だった。
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