第14話「青色の心は何処にある」

「柚葉……もう大丈夫だ」


 柚真は柚葉の頭をよしよしとなでた後、柚葉をそっと抱きしめていた。

 柚葉は突然のことで何が何だか分からなくなり、柚真の胸の中で泣いていた。


「……怖かったな、もう大丈夫だから」

「……ぐすん、うん……ありがと……」


 柚真の胸の中で泣いた後、柚葉は急に我に返り、パッと柚真から離れた。


「あ、わ、私、何してたんだろ……」

「……強がるなよ。柚葉は嫌な思いをした。僕が助けた。それだけでいいじゃないか」

「そ、そっか……で、でも、柚真に迷惑かけた……あの子だって告白してきただけで……」

「告白ついでに抱きつく奴がいるかよ。下心丸出しで恥ずかしい」

「あ、ま、まぁ……でも、柚真に迷惑かけたのは間違いないし……」

「迷惑だなんて思ってないよ。柚葉がピンチだったから助けただけだ。あまり気にするな」

「う、うん……ありがと……」


 柚真はまた柚葉の頭をよしよしとなでた。


「……あ、ちょ、ちょっとからかってるでしょ、私だってしっかりした女の子なんだからね!」

「だから強がらなくていいって。こんなとこいてもしょうがないし、帰ろうか」

「う、うん」


 柚葉はまだ心臓のドキドキがおさまらないようだ。色々な感情が複雑に混ざり合って起きる心臓のドキドキ。ちらっと柚真を見ると、いつものカッコいい横顔がそこにあった。


「……ん? 僕の顔に何かついてる?」

「あ、い、いや、なんでもない……教室戻って鞄とってこなきゃね」

「ああ、そうしよう」


 二人とも鞄を教室に置いたままだったので、二人で教室に戻り、鞄をとって玄関へと行く。いつものように靴を履き替え、二人で学校を出る。柚葉は心の中で『いつも通り、いつも通り……』と思っていた。


「なんか、この前は柚真にありがとうって言われたけど、今回は私がありがとうって言う立場になっちゃったみたいだね」

「まぁそんなこともあるさ。僕が助けに入ったんだからな。僕が」

「な、なんか同じこと繰り返し言うんだね……でも、ほんとにありがと」

「いえいえ。まぁ、大したことはしてないから気にするな」

「そんなことはないと思うけどなぁ。そうだ、ちゃんとお礼しないとね。コンビニで好きなもの買ってあげるよ」

「おや、まためずらしい。柚葉がおごるなんて」

「これくらい当然でしょー。さあさあ、コンビニ行こ!」


 二人はいつものコンビニに立ち寄った。柚葉もやっといつもの自分のペースに戻ってきたみたいだ。


「さあさあ、なんでも好きなものを選んでくれたまえ!」

「なんでそんなに偉そうなのか分からないが……じゃあコーヒー買ってもらおうかな」

「まっかせなさーい。ついでにシュークリームもつけてあげよう」

「い、いや、そこまでしなくていいよ」

「私も食べたいからいいんだよー。そこのイートインスペースで食べよう」


 柚葉は自分の分と、柚真の分のコーヒーとシュークリームを買って、二人でイートインスペースに移動した。他に利用している人はいないようだ。


「はい、どうぞ」

「ありがとう。なんか悪いな」

「いえいえ。あ、今、柚真には私の心は何色に見える?」

「ん? うーん……この前までもやがかかったピンク色をしていたけど、今は緑色のような気がする。でもちょっと前よりは濁ってるかな」

「そっか、まだまだ私の色って感じじゃないってわけだね」

「そうだな、それも当たり前だと思う。あんなことがあった後だし」

「ふむ。じゃあさ、柚真は何色の心になりたいと思うの?」


 柚葉がそう質問すると、柚真は柚葉の目を見た後、ちょっと遠くを見ながら、


「……青色、かな」


 と、ぽつりとつぶやいた。


「へぇ、青色か……でもどうして?」

「うーん、うまく言えないんだけど、爽やかな感じがするというか。心が晴れている感じがいいなって思って」


 柚真が顔をかきながらそう言った。ちょっと恥ずかしかったのかもしれない。


「そっかー、でも柚真なら青色の心になれるんじゃないかな」

「まぁ、努力はしてみるよ。まだまだその色にはなれてない気がするし」

「ふむ、じゃあ私は頑張る柚真を応援しようかな!」

「……ありがとうと言っておくべきなのだろうか」

「あれー? 柚真さん、素直になった方がいいと思うよぉー」

「……柚葉のそういうところ、嫌いかもしれない」

「あーっ、また生意気なこと言ったなー! いつかぎゃふんと言わせてやる」

「だからそれはなんなんだ……あ、シュークリーム美味しい」


 心に色があるかなんて分からないけど、柚真があると信じているのなら、信じてみよう。そう思っていた柚葉だった。


 柚真と柚葉。似た名前の二人は、恋人同士ではない。

 でも、それ以上のつながりがあるような、そんな雰囲気もある。不思議な関係。

 これからもこの関係は続いていくのかもしれない。

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