第10話 混ぜるな危険

「そうだね、私、周りの人たちの気持ち、全然考えてなかった。勝手にマッチングされて、嫌だったよね?」


「そうだ。それが分かれば……」


「今度からは皆の気持ちも計算に入れるから!」


 千歳はまだそんなことを言っている。どうやら筋金入りの問題児らしい。通りで美化委員会に入れられるわけだ。


「これからはプロフィールを調べて、ちゃんと相関図も作るようにするから!」


「千歳さん……一体なんでそこまでして仲良くさせたいんだ?」


「そんなの決まってるでしょ、安全に学校生活を送るためだよ」


 安全。かなり低次元の欲求だな。この人は自分の安全が確保されないと気が済まないらしい。全てはその恐怖の裏返しというわけか。


「自分の安全のために、皆を偽物の友情で結んで安心したいのか?」


「そうだよ? 皆だってそうでしょ? 私だけおかしいみたいに言わないで。天然の性格のままで生きていける善人なんてごく僅か。演技しなければこの監獄では生きていけない」


 そりゃあ大なり小なり、皆色んな顔を使い分けているとは思うが、千歳のは何か違う気がする。こいつ、ひょっとして。


「千歳さん、ぼっちに憧れてるのか?」


 俺が指摘すると、千歳さんは赤面した。


「くっ、そうだよ! 柊木くんみたいに、孤独でいることに抵抗のない人には分からないだろうけど! 私は一人で生きていきたい。でもそれじゃあ周りから白い目で見られる。だからこうして自分を偽って、仲良しごっこに付き合ってあげてるんでしょ!」


 こいつは、周りの人を観客……いや、敵としか思えないのかもしれない。だからこそ、こんな風に駒みたいに扱ったりする。それは傲慢さから来るものでなく、不安と恐怖によるものだということだ。


「柊木くん、私の今の発言は絶対に他言しないでね。言ったら死ぬから」


 どんだけ周囲の目が怖いんだよ。


「大丈夫だ。俺はぼっちだから、そもそも他言する相手がいない」


「姫川さんがいるよね?」


「姫川さんにも言わないから!」


「誰に言わないって?」


 姫川の声がする。


「心配になって見に来てみれば……柊木くん、そんなメンヘラ女の相手することないよ?」


 仁王立ちする姫川の姿を見て、不覚にも俺は安心してしまった。


「あ、ありがとう……」


 だがマズい。姫川と千歳は明らかに混ぜてはいけない二人だ。これは修羅場になる。


 俺、逃げようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る