第9話 もう疲れちゃったな

「あくまで友達。友達を紹介してもらうだけだから」


 そう自分に言い聞かせ、屋上へ向かう。すると、見知らぬ女子がキョロキョロしながら待っていた。まさかこの人が、千歳が紹介してくれるという女子なのだろうか?


「柊木亮くん、ですよね?」


「はい。あなたは……」


「お願いです! 千歳さんには、柊木くんから断ったって言ってください!」


 名前も知らぬ女子は、名乗るより先にそう頼み込んできた。


 まぁそうなるよな。俺なんかと友達になりたい女子もそうそういない。ましてや彼女ができるかも、なんて愚かな考えを持った自分を、つくづく情けないと思った。


「千歳さん、他の男子にもこういうことを?」


「そうみたいです。入学まもなく友達がいっぱい出来て、どんどんコネクションを拡げようとしてるみたいです」


 政治活動みたいだな。そうまでしていったい何を成し遂げたいのだろうか?


「三美神が皆と仲良くできるよう、協力してほしいとも言ってました」


 益々分からない。そうまでして皆と仲良くなりたいのか? 小学生じゃあるまいし。


「藤沢さん? 余計なことは言わなくていいのよ?」


 振り返ると、千歳が立っていた。


「と、とにかく! 私は嫌だから!」


 藤沢さんとやらは駆け出していった。


「どこで間違えたのかしら。皆仲良くするなんて当たり前のことなのに。ぼっちで可哀想な柊木くんに女友達ができれば、一気にリア充まで駆け上がれたかもしれないのに。そうすれば私ももっと皆から頼られるはずなのに。あーあ、本当に上手く行かないわね」


 千歳は早口でそんなことを呟きだした。こいつ、友達の藤沢さんのことは一顧だにしないのか。いや、友達というより、体のいい道具としか思っていないのか。


「あのなぁ、千歳さん」


「そもそも美化委員会なんて掃き溜めに、なんで私が? 私は無難に学校生活をやり過ごしたいだけなのに。三美神とか呼ばれてるけど、お高くとまってると思われてるだけよね。要するに底辺。あと三年間も、底辺で惨めな生活を続けなきゃいけないのかしら?」


 恐ろしい勢いで愚痴を吐いている。とんでもないネガティブ思考の持ち主だな。


「千歳さん、聞こえてる?」


「私、もう疲れちゃったな。いつまでこの生活が続くのかしら。なんで皆は、学校なんて監獄に入れられて、楽しそうにしていられるのかしら? 私はもう、演じ切れないよ」


 そう言いつつ千歳さんは屋上の柵に足をかけた。マジか、飛び下りるつもりか?


 俺が無理矢理柵からどうにか引き剥がし、俺たちは地面に倒れ込んだ。


「こっからじゃ死ねないよ。それより、藤沢さんや俺の気持ちも少しは考えたらどうだ?」


 俺が思い切って尋ねると、千歳はようやくハッとしたようだった。

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