第11話 マグカップと反射

 「ねぇねぇなお君」

 「これどうよ?」


 そう言われ振り返ると、縁太の眼鏡をかけた男が、ペアマグカップを両手に持っていた。

 シンプルなデザインで、それぞれ灰色と墨色の焼き物だ。


 「アリだな」


 「でしょぉ!」


 得意気に掲げてから、棚に戻す。


 なおやは今日、この眼鏡の男、柳田鈴やなぎだすずと買い物に来ていた。


 場所はさざんか通り。数多く並ぶ店の中でも、シンプルな雑貨を多く取り扱うセレクトショップだ。


 なおやとのショッピングが嬉しいようで、鈴ははしゃいでいる。


 そんな鈴を軽く受け流すなおやだが、今日は絶えず微笑みを浮かべていた。


 「なお君。あっち見に行こ」


 そう、鈴が指をさしたのはファッションアイテムが陳列されているコーナーだ。


 品並びは、以前来店した時とは打って変わり、秋めいた色合いへと変化している。


 鈴は、ハンガーにかけられたトップスを眺め、時折手にとっては真剣な面持ちで元に戻していた。


 対して、なおやの視線の先にはアクセサリが並んでいる。

 普段なおやが身につけているものも、多くはこの店で手に取ったものだ。


 シルバーの耳飾りが、照明の光を反射する。なおやの体が揺れる度、チラチラとした光が目に届く。


 今は、特に新しく購入するつもりは無いが、なおやには思う事があった。


 ——先月出会ったあの子供は、元気にしているだろうか。


 偶然居合わせ、荷物を自宅まで運ぶのを手伝ったのを最後に、ひなたの顔は見ていない。


 期間を明確にすれば二週間ほどで、長い訳ではないが、季節の移ろいが一層会っていない時間を感じさせていた。


 「なお君。僕はらへりー」


 いつの間に背後にいた鈴が、顎を肩に載せてくる。


 「もう昼、食ったよな?」


 「そぉーだけどー」


 鈴と目が合い、沈黙が流れる。


 なおやは、今日の鈴の様子が少しおかしいような気がしていた。


 「お前、今日どうした?」


 「どうしたもこうしたも無いよ」


 そう言い、ショップを出て行く背中に、なおやも続く。

 そのまま全国チェーン店のカフェに入った。


 それぞれでドリンクと、鈴はスイーツも注文し席につく。


 なおやはコーヒー。鈴はドリンクと季節限定のモンブランだ。


 鈴のドリンクは、注文の際にいろいろとカスタマイズをしていた。

 あいにく、隣で聞いていたなおやには、何がなんだかわからなかった。


 コーヒーを一飲ひとのみして、鈴を見る。


 天辺にのっている栗の実を避け、モンブランを一口すくっては口に運ぶ。


 食べる度に目を輝かせるので、さぞお気に召したのだろう。


 綺麗に渦巻かれたモンブランが、倒れることなく減っていく。


 微笑ましい様子の鈴は、ここ最近で一番機嫌がいいようだ。


 大きな窓から差し込む西日に、照らされる鈴。

 太いメガネフレームが、日光か照明か、光を反射していて、少し鬱陶しい。


 なおやが強めの瞬きを、繰り返していると、鈴が突然、フォークを置き、窓の外へ視線を向けた。


 「例のひなたさん。どうなの?」


 「どうって……」


 なおやに向き直り、首を傾ける鈴。


 普段の柔らかい雰囲気が、ひなたの話をする時だけ、刺すように、硬くなる気がするのか。


 鈴が普段何を考えているのかは、総じてわからないのだが。当たり前の事に、ここ最近は漠然とした不安を感じる。


 またフォークを手に取った鈴は、冷めた、と感じられる声色で続けた。


 「ねぇなお君。今日は僕とのデートだよ?」


 「んあ?そうだな……?」


 問いを疑問に思いつつ返すが、鈴はため息をこぼす。

 下を向いたかと思うと、柔らかな笑みに戻っていた。


 「ごめん。何でもないよ」


 なおやにとっては、背中を刺す包丁のような、その顔に。


 ――ああ、また……


 先日思い返したから、すぐ分かる。

 これは、鈴が俺に遠慮をしている顔だ。


 「なぁ、鈴」


 「何も聞かないで〜」


 被せるようにして言う鈴が、猫のような口を開いて、栗の実を頬張る。


 なおやは、鈴と目が合わないことが、不安で堪らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月12日 17:45
2026年1月12日 17:46
2026年1月12日 17:47

秋霖ピアス 音翔 @oto_yomuyomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画