さざんか通り

第10話 さざんかとフェイクピアス

 試食会から一週間足らず。


 なおやの姿は、商業施設が軒を連ねる大通りにあった。


 駅の西側に広がり、チェーン店から自営業、飲食から書店など充実している。

 11月頃に見ごろを迎える紅色の山茶花さざんかが道の中央に植え連ねていて、近隣住民から「さざんか通り」と呼ばれている道だ。

 車が通らないため、週末には子連れもお年寄りも、まさに老若男女で賑わっている。


 今は平日の昼間なので、子供はあまり見かけないが、それでも活気を感じられるほどだ。


 歩みを進めるなおやは、特にどの店にも入らずに、ただ、すれ違う人々や山茶花の木に目を向けている。


 というのも、なおやの目的はもう既に済んでおり、自宅へと向かう途中だったからだ。通りを抜けた先で、入り組んだ道にそれると、アパートに着く。


 なおやの右手には、紙袋が確かに握られていた。


 変わらず、ゆったりとした歩調で、周囲を見渡しながら歩く。


 見知った顔も、まだ花をつけていない青々とした木々も、いつも見る大切な景色だ。


 そんな景色の中に、最近新たに知った顔を見つけた。


 「ひなた」


 前方から、両手に買い物袋をぶら下げた、ひなたが歩いてくる。


 なおやに気付いたひなたは、驚きを隠せない、といった表情をしていた。


 「なおやさん……」

 「こんにちは」


 駆け寄り、軽く頭を下げる。


 「ああ」


 なおやは軽く返し、ひなたの両手の荷物に目を向けた。


 「買い物の帰りか?」


 「はい。日用品と食材を」


 確か一人で暮らしているのだったか。


 費用は親持ちといっても、16の齢でここまで自立的な生活をしているひなたを見ると、尊敬の念さえ湧いてくる。


 なおやの視線の先では、重そうな荷物を、力いっぱい握る左手が赤く染まっていた。


 「荷物、家まで運ぶの手伝うか?」


 そう、自然と提案する声が出ていた。

 迷惑ではないだろうかと、不安がよぎる。


 しかし、ひなたの反応は想定とは違ったもので、素直に、左手に持っていた買い物袋を差し出した。


 「すみません……」

 「お米買ったら……重くて………」


 我慢していたのか、心なしか息が上がっているようにも見える。


 「自分、ちょっと、体力落ちちゃったみたいで……」


 細い腕が震えているので、急いで受け取るが、想像以上に軽くて少々ひなたの事が心配になった。


 「ちゃ、ちゃんと、飯食った方がいいぞ……?」


 まるで、反抗期の娘相手の、たどたどしい父親のような声掛けだ。

 ひなた相手だと、何故か自分のキャラがブレる気がする。


 なおやは疑問ばかりだが、今はとりあえず、ひなたを家まで送ることにした。



 以前から気になっていたのだが、チラチラと光を反射している右耳の耳飾り、スティックタイプのシルバーアクセサリーを、ひなたは常に着けている。


 この耳飾りが、雨に打たれるひなたに傘をさすきっかけになったのだ。

 かなり身勝手な話だが、なおやにとって少し思い入れのあるものになっていた。


 着けているのには、何か理由でもあるのだろうか。ただ単に気に入っているだけという線もある。


 「なぁ」


 隣を歩くひなたに声を投げかけると、見事な上目遣いが。

 不安が感じ取れる表情。なおやが荷物を半分持っているという現状を、申し訳ないと感じているのだろう。


 もう少し、人を頼る事と信じる事を、出来るようになった方が良いように思う。


 「それってピアスなのか?いつもつけてるよな」


 なおやは、空いている左手で、自身の右耳を指さした。


 ひなたが拍子抜けした顔になりながらも「フェイクピアスですよ」と返す。


 「中学生の頃、友人に貰ったんです」


 「大切にしてるんだな」


 「はい」と嬉しそうに目を細めたひなたは、頭を少し揺らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る