試食会

第5話 眼鏡と菓子

 「と、まぁこんな感じ」


 「途中Tシャツに話反れたけどね」


 「思い出したら苛ついてきたんだよ」


 彩度の低い家具で揃えられたアパートの一室。


 なおやの右隣には、フレームが太い眼鏡をかけた男が座っていた。

 二人で並びコントローラを操作する。

 テレビ画面の中では、色とりどりの丸い物体が、降っては積まれている。昔ながらのパズルゲームだ。


 眼鏡の男はなおやの友人で、時折、アパートへ遊びにやって来ては、一緒にゲームをしたりとダラダラとした時間を過ごしている。


 雨の日から数日。

 今日も例によって、昼前から、眼鏡の男がなおやの元を訪れていた。


 「いつもの雑談混じりで突然」

 「そういや、この前公園で子供拾ったんだけど」

 「なんて言われた、こっちの身にもなってほしいね」


 眼鏡の男は、大袈裟なため息をつき、続ける。


 ひなたの話をし始めてから、こいつは妙に苛立っていて、それを隠そうともしない。


 「なに?要するに?」

 「公園で見覚えある子供が雨に濡れててかわいそうだったから、世話を焼いてみたら、思ってたより自分と歳が近くて」

 「おまけに?今日また会う予定だって?」


 「そうだな」


 「そうだなじゃないんだよねぇ」


 淡々と肯定するなおやに眼鏡の男は呆れ混じりに言う。


 なおやは、ひと呼吸置いてから話し始めた。


 「一人暮らしって言ってたし、さすがに、年齢が年齢だったから、その日は雨があがり次第解散したんだけど」

 「次の日、陣さんの所に行ったら、ひなたがいて、礼をさせて欲しいって。最初は断ったんだけど、菓子の詰め合わせもらった」


 「え!いいなぁ」


 「やんねぇよ?」


 「いや、別にいらない」

 「で?なんでわざわざ今日も会うの?」


 「それ、すんげぇ気にすんのな」

 「陣さんが、新作ケーキの試食会をするから来いって」



 数日前。

 陣内が、グループチャットになおやを招待したとの、通知が届いた。

 メンバーは3人。なおや、陣内、そしてひなた。

 チャット名『新作レシピ試食会』


 『新しいケーキを作るから、ぜひ2人に試食してほしい』


 陣内から招集がかかったのだ。


 なおやは、なぜ陣内がひなたの連絡先を知っているのか疑問だったのだが。

 聞いてみれば、菓子の詰め合わせを受け取った日、いつの間にか、二人は連絡先の交換を果たしていたらしい。



 「なんだ。別に、二人で会う訳じゃないじゃん」


 「お前が勝手にそう思っただけだろ」


 「なお君が勘違いをするような言い方するのが悪い」


 「そーかよ」


 不服そうな眼鏡の男を、なおやは軽くあしらう。


 「だから、あと1時間くらいで、俺、家出るから」


 「え!?早くない?」


 「このまま居座ってもらっても構わないけど。どうせ合鍵持ってんだろ?」


 「バレてたかぁ」


 「まあ、そんだけ。好きにしろ」


 「はいはーい」

 「……あっ」


 「どうした?」


 適当な返事をしたあと、思い出したように言う。


 「そのひなたさん?ってさぁ…」


 間を開けて、なおやを覗き込んだ。


 「男…?」


 なおやは表情を変えず頭を横に倒す。


 ――まぁ、あの体格で16歳なら女性だろうが。


 「…………」

 「知らねぇ」


 少し考えてから答えた。

 テレビ画面の中で、丸い物体が次々と消滅し始める。


 「そっか」


 そう言って身体を起こし、眼鏡の男は自分の陣地に流れ込もうとしている妨害に、笑顔で対処し始めた。


 なおやは友人を覗き見るが、その横顔からは、依然として、何の感情も読み取れない。

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