第4話 Tシャツとイラスト
陣内がなおやの向かいに座ると同時にリビングと隣室をつなぐドアが開いた。
「んあ?ひなたか………っ!?」
そう、声ともいえない声を出したが最後、なおやはひなたを見たまま動かなくなった。
対して、黒いラフなズボンと、ボタンレスのカーディガン。珍妙なイラストがプリントされたTシャツという装いで戻ってきたひなたは、動かないなおやに首を傾げる。
珍妙なイラスト。某夢の国の人気者のようにも見える生物が、見事にボディビルダー並みのサイドチェストをキメている。逞しい腕、太ももと胸筋。目などの顔パーツは描かれていないが、筋肉だけが異常に、描き込まれている。
イラストの上には、これまた逞しい文字で「マッチョー」と書かれていた。
「おい、陣さん」
やっと気を取り戻したなおやが、恨めしい顔で、怨恨籠もった声を出す。
元々の鋭い目に殺意が混じり、流石の陣内も少し怯む。
何を隠そう、この珍妙なイラストを描いたのは紛れもないなおやである。
陣内に手招きされ、ひなたは二人の間に座った。
よほど見られたくないのか、なおやは、自身の後ろにあったクッションをひなたに押し付け、イラストを隠せるよう「抱きしめてろ」と指示する。
ひなたは慌てながら従った。
「あ、……えっと……」
不機嫌ななおやに、戸惑いの声をあげるひなた。
陣内が笑って答えた。
数年前、陣内の友人が衣類を含めたプリント事業を始めると言い、Tシャツの試し刷りをしたいからと陣内にデザインを依頼した。
友人は出来上がったTシャツは、日頃の感謝を込めてプレゼントすると言っていた。
本来、オリジナルのTシャツを作るとなれば、それなりにお金がかかるし、そもそも機会がない。せっかくだと二つ返事で受けたのだった。
しかし、全くもってアイディアの一つも浮かばない陣内は、偶然店に来ていた、当時中学生のなおやに半ば無理やり、その依頼を押し付けた。
よって、なおやの一夜の苦考の末、出来上がったのが「マッチョー」という名の異物だったのだ。
当時、周りの人に弄り倒され、余程嫌な記憶として残っているのか。
なおやは、陣内の話を聞きながらも、眉間に皺を寄せていた。
「なんでよりによって、そのTシャツなんだよ」
「昨日、整理整頓をしていたら出てきてね。なおや君に見せようと思っていたんだよ」
「長いこと仕舞っていたから、ちょうど、見つけた時に洗濯もしたしね」
納得したのか、なおやは話を聞き終えるとため息をこぼし、元の気怠げな表情に戻した。
そんな、なおやの様子を見て、ひなたも安堵する。
「さて、ここからが本題なんだが……」
座り直した陣内は、優しい表情でひなたに向き直った。
ひなたは少し身体を強張らせる。
「無理のない範囲で構わないから、君の事を教えてくれないかい?」
正直、年齢も分からない今、ひなたへの対応に二人はかなり困っていた。
齢12歳程であると予想し接していた二人だが、そうとなれば、まず、親御さんとの連絡を最優先にしなければならない。
おまけに、中性的な髪型と顔立ちである。
万が一、自立している年齢でも、ひなたが女性だった場合、男二人のこの状況は少々不味いようにも思われる。
判別を試みてはいたが、特徴の無い身体つきで、声もさほど高くなく判断に苦しんだ。
「もう中学生か?」
まずは年齢だと、なおやが思い切って聞く。
12歳程であれば、小学校高学年または中学生である。
しかし、返ってきた言葉は予想外のものだった。
「⋯⋯⋯⋯16です」
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