14・花畑リベンジ編

「まさかあのボスが、

俺らに金を出すなんて…」


「あと何円稼げばいい⁉」

「残すところ1422万5000円だね~」

「早く事務所の布団で寝てえ…」

担々団体は、事務所買取にかなり近づいたようだ。


ルーズ達国役場を退けた今、やることは決まっている。

「そうだよ、ネイ!

ネイのあの姿、きれいだったな~」

「ん…確かにもう一度、ちゃんと見たいわ。」



[それについてなのだが]


ちぎれた分を除くすべての花弁を四人に向け、ネイは話す。


[……花人を…あたくしを売るというのはどうだ?]


「どういう…こと?」

[あたくしを引き渡せば1000万、稼げるであろう

一刻も早く取り返すには…それが良いぞよ。]


いつもの凛とした声ではなく、大変焦った声色。

その以上に気づき、

「待て待て、そこまで切羽詰まってねぇよオレら」

「急な自己犠牲、どうしたの…?

一緒にこんなに頑張ってきたのに…自身を売る、なんて発想…!」


苣が心配そうに尋ねても、

[御前たちの為を想っての提案だ……。

深い意味など、無い]


顔を強張らせるだけだった。


「……仲間を、文字通り売れって言うのか…!」

「ネイがそんなコト言うのにも理由があるんでしょ?」


[理由…。]

「ちゃんと話せや、ネイ

お前も"担々団体"だろ。」


ネイはゆっくり、口を開く。


[……花も、生物なのだ。命尽きるときもある]


「「「「…!」

[あたくしは…困るぞよ

『寿命』が来るのが、…御前たちとの別れが来るのが]


…ネイ。

このテイネイ草は、とても悩んでいたのだな。


「…お別れなの?」

[いつ来るか分からない、というだけぞよ…

ただそれだけなのに……!]

「ネイ」

[御前たちに、擬態ではなく本当に枯れた姿を

見せたくは無いのだ……っ]


なるほど…

ネイが唐突にこんな提案をした目的。

それは寿命という別れを『』という形で誤魔化すこと、である。


[せめて、御前たちの居ないところで…売られた先で、息絶えたい]



長い、長い沈黙。

先に口を開いたのはアディルだ。

「そんなの納得できない」


[あたくしは、御前たちと出会えて]

「…やだ」

[見守ることができて、]

「聞きたくない」

[好きになれて良かった]


「聞きたくないってば!!!」


[あたくしだって、沢山考えたのだ。]

「なのに『そうだ!自分を売ろう!』って、ふざけてるの⁉

俺ら、仲間なんだよ⁉仲間にその提案…っ」


苣に制され、ルーは

冷静さを失っていたことに気づいた。


[あたくしの気持ちも、考えて欲しいぞよ]

「…ッそれにしたってさ…。」


てけてんてててててん♪


空気の読めない着信音に、リーヨウが応える。

『もしもし?ちょっと伝え忘れがあった』

いつもの通り、ボスからだ。

「伝え忘れ…?」

『うん。ずっと言いそびれてたこと』


ルドはサラッと言い放った。

『楽園のはなばたけ、もう一度行ってこい』


――ここに来て、ネイの故郷の話?


[何故なにゆえそう申す?]

『おまえらが独断で金稼ぎに行ったとこだけど、

今度はおれからの指令。稼ぎ時だ』


「んーと確か…ヤサシ草って触ると枯れる花?」

『?なんでそんな話になってんだ。

今行っても咲いてるから採って売れ』


「…枯れて無かったんだ」

[触れられ緊張すると、身を守るために擬態する。

アディルとリーヨウには話した性質ぞよ]

「ネイ今は黙って」

[………]


『あー…なんでおまえらが険悪になってるかは知らないけど、

今は事務所のために団結する時だろ。

ケンカせず金稼いで来い。も売り時みたいだしな』


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「ありがとうございました。」

「いえ、ボスの指令なので」

苣へ静かにそう告げる、ルド派遣の運転手。


「担々団体御一行様、行ってらっしゃいませ」

彼女は頭を下げ素早く運転席へと戻る。


「この乗り物面白かったね、みぞれ!!!」

「鯵啞じゃ考えらんねぇよな、空飛ぶなんて」

「あんだけ苦労した道のりを、

プライベートジェットでひとっ飛びか…」


ここは火山と氷山に挟まれた山頂。


見渡す限りの彩りに、二度目の感動を覚える四人。

「うん…何度見ても、清々しい」

[そうであろう、花々は美しいのだ]

「む……」


ネイは何気なくアディルの言葉に返すも、気まずくなってしまう。



「……少し歩こう」


やわらかな風が四人をつつみ…

前は駆け下りた坂を、

四人の歩幅で

踏み鳴らす。


やがて盆地の中心まで辿り着き、花畑に大の字で寝転がってみる。

ふとリーヨウが、

「お家に、帰りたいな」

と呟く。

[安心するのだ、ゴールは目前ぞよ]

とネイ。

「あ、そうだケーキ!」

「ケーキ?」

「お前の誕生日、ロールケーキ買っただろ。」

「【あ~流石に難しいかな…】」

「んじゃなくて、また俺らが買おう、って話!」


苣は仰向けのルーの方を向く。

「いいの…⁉」

「ん。うやむやになってたからな」

「また改めて、お祝いしようね苣!」

「リーヨウたんんんん……!」

涙目で喜ぶ苣に、三人と一輪の笑顔が咲いた。


[さて…御前たちに

花の声の聴き方を伝授するとしよう]


ネイの高い声に、三人は起き上がり、ルーは背中合わせに耳を傾けた。

「任務開始、だね!」

「どうやるの?私達、前回はヤサシ草に警戒されちゃったけど」

[御前たちはあたくしとの初対面、

何を"思い出して"いた?]


「えっとね、金稼ぎの話してたから…」

「ここの花畑のこと…だったな。」


[そうだ。"思い出"すことで、花に寄り添い、言葉を拾える。

ヒキノ蓮の時もだ。]

「…大丈夫、やってみる」

アディル達は実践してみる。


…ここでの思い出を、"思い出"す――


[———ほらご覧になって!四人も来ましたわ!]

周りから、サアアア…と音が増えてゆき、


周囲のヤサシ草全員の声が耳に届く。

[やだ本当!…でも結構色っぽいわね]

[あの人、爽やかで素敵ですわ…♡]

[わたくしかなりタイプですわ!特にあの少年!]

「ちょ、ちょっと!うちのリーヨウたんはあげませんけど!」

「張り合うなや苣」

「わあ…すごい!ネイの言ったとおり!」


こうして四人は、花とはなせるようになった。

…駄洒落ではない。


「そうと決まれば説得だね!」

「あの、俺達ヤサシ草が欲しくて…良ければ着いてきてくれないかな?」

アディルが屈み、目線を合わせてお願いした。


[………また]

「え?」


ヤサシ草たちは

[それってつまり、]

[わたくし達をお金に換えたいという話で?]

「……!」


キミも考えて欲しい。

先程までお喋りしていた命ある花を、物みたいに売るのだ。

軽々しく『あたくしを売れ』と言ったネイにブチギレる、アディルの気持ちもよく分かる。


固まるルーの代わりに、

「た…確かに売るってことになるけどそれは」

[わたくし達を]

[売るですって⁉]

[そんなの断るに決まっているでしょう!]

[花にだって尊厳はありますッ‼]


花弁を尖らせて激怒するヤサシ草たち!

『花を売る』という事の重さに気が付き、ぎゅっと目を瞑る団員たち。


[では姉君、なるべく顔の良い人間のところに売るというのは?]


姉であるヤサシ草たちを説得する、ネイの一言。

[まあ!それは素晴らしいプランですね…

なんて言いませんわよ⁉]


[何度も言ってますが、アナタ変ですわ!]

[人の知識や技術に興味を持つ変わり者!]

[人は顔ではなく中身、と主張するおかしな子!]


姉たちは厳しく、

[…っ]

ネイは言葉に詰まる。

そこへ、


「——黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって」


霙がネイの花弁おまもりを突き付け、

「いくら美しくても、その性格じゃな…

あーあ、やっぱ花は選んで付き合うべきだわ。」

皮肉を言ってやった。


[は~~~⁉なんですか、その、

わたくし達が嫌な花みたいな…っ!]

[いくら顔が良いからってそんな…!この…、美形め!]


…なんだかんだ褒められた霙。

[いいですよ、そんなに言うなら…]

[わたくし達のを叶えるというのなら、]

[みんなで着いていってあげますわー!]


キレながら出された宣戦布告に、

「やってやるよ。」「やるよ!」

霙とリーヨウが答えた。

それに対し、


[おほほほほ!笑えますわ!]

「なんで?俺達笑わせた覚えはないけど」

[だって…

とうていムリなんですものw]


馬鹿にして笑いつつ、ヤサシ草は内容を説明した。


ずばり!

『この山にある四樹よきの恩恵に預かって欲しい』とのこと。

恩恵は、木の実・枝・花弁・青葉をそれぞれ頂くことである。


[ムリやり奪いなんてしたら、即失格ですわよ。]

[わたくし達、ちゃーんと見てるんですから!

どんな場所でも、じーっと…!]


花畑リベンジ、始まり始まり。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「【…で、どういう作戦なの?苣~】」

火山道を歩みながら、苣に問いかける。


「ぜぇ…はぁ……っ今話しかけないで…」


やはり暑いのが苦手なようだ。

隣からリーヨウが、

「だめそう?」

「ッいや‼リーヨウたんが着いてきてくれてるなら…っ

乗り、切って…見せる‼」


活火山の熱気の中でも、覚悟は固い。


「えーと、ボクらは『木の実』と『青葉』の樹を見つければいいのね?」

「うん…背が高いらしい」



[そう簡単にいくと良いですわね!]

「「‼」

突然、二人の足が引っ張られた!


「わぁぁ頭に血がのぼる~!」

[…足止め、成功ですわ]

長い長いつたから生える、リボンのような葉に

吊るされる苣とリーヨウ。


「ヤサシ草…貴女達は、何の為に邪魔するんですか⁉」

[はぁ…。]

見ると、そのヤサシ草は酷く傷付いた花弁で、


[わたくし達が希少なのって、何故だとお思いで?]


そう訊いた。

「それは…、花人がやどっているから?」

[呆れました。

わたくし達はあんな人間みたいな姿、ごめんですわ]

「ではどうして?」


[——返り討ちにするから。こういう風に‼]


ブンッ!!!

ガラガラガラ…


何が起きたのか、ワタシも理解できなかった。


だが確かに岩に強打された跡があり、その下には…

血を流すリーヨウが居た。


「……リーヨウ、たん…!」

見ると、反対側でも苣が同じ目に遭っている。


[花を金としか見ていない人間など、ほふるまでですわ。]


再び二人の持ち上げて、岩へ振り下ろす。

大ピンチ!!



一方、氷山方面を覗くと…

「ネイ…!」

[霙!アディルーーーっ!]

氷の地面が崩れ、深い洞穴へ落下!ネイは軽いので二人より先に落ち、


[……無事で良かった]


花人姿で受け止めてくれた。


右手に霙、左手にルーの状況に

「…ネイお前力持ちだな」

と感心する霙。


「ネイ、…ありがと

もう大丈夫」


ルーも感謝を伝え、降ろしてもらう。

素直じゃないか、ルー。この調子で仲直りを……


[それより、ここは…]


[アナタ…なに、その、人間みたいな姿⁉]

まるでお化けでも見たかのような、ヤサシ草の声。

ネイを指して、嫌悪に満ちた目を向けているのだ。


[姉君、あたくしは]

[まさかアナタに花人が宿っていたとは…恐ろしいですわ]



[ヤサシ草達、よくお聴き。

人の形をしている者は皆———敵よ]


「…ッ【氷柱ツララ】!」「庇え【石土セキド】!」


シャッ!

咄嗟に防ぐも一足遅く、

霙の袈裟けさ、ルーの脇腹が葉によって斬られた。


その切れ味は刀より鋭く、霙は痛みに耐えかねる。


「殺す気、か……!」

[ええそうです。わたくし達に近づく者は金目当て。

屠る何が悪いのですか?]



「【石土セキド】…」

[…!]

アディルは【名前】を呼び、ヤサシ草の生える地面を浮かせる。

そして、霙とルーの併せ技!

瞬足でその地面へ乗り、霙はヤサシ草を摘み取ろうと手を伸ばした!


[———触るな]


グサッ!

先程より至近距離で、葉が胸に

「……ッ!!」

「霙!!!大丈夫⁉」

[あ、姉君、そこまでに…]

倒れ込む霙に、駆け寄るルーとネイ。


ヤサシ草を見ると…枯れたような、冷たい色を示していた。


[一人たりとも、逃がしません]



…人体を傷つけ、投げ飛ばせる剛力で

ここまで殺意を持った花に襲われたら、


ワタシが干渉したすけてやらなくては。



付喪神は性格や好みに加え、【力】を有している。


火炎を起こしたり、土壁を生やしたり……なかなか攻撃的である。


では、ワタシの【力】とは?


キミにはまだ教えていなかったな。


ほら、その液晶画面に向かって、


【名前】を呼んでくれ。






―――【傍目ハタメ


…承った。


この山全体を、"覗く"。


あれだ…あの四樹。今回の目的ターゲットである。


あとは彼らに、"伝える"…



彷徨う四体をこの国に集めた、あのときのように。


【クチバ、ツララ、セキド、ヒダネ。

聞こえているな?

ああ、返事はいらない。

今はその身体にを送るので精一杯だろう。

クチバは青葉。ツララはつぼみ。セキドは枝担当がよいだろう。

ヒダネに任せるのは気が引けるが…木の実を任せた。

場所は今"伝えた"所だ。】


【……四人をたのむ】




「うあ…ありがと【朽葉】」

「まだ暴れあそび足りないよね、ヒダネさん…♡」

「こういう時は使えるな、…【石土】 」

「はぁ…ツララも戦いたくないってよ…」


担々団体は、やはり立ち上がった!

各々の、マイペースな一言と共に。


[ア…アナタ、何故立っていられるんです⁉

もしや人間では無…]

血が収束した苣&リーヨウを見たヤサシ草達。


「【いや~苣は人だよ

生きてるし、死にもする。

ただ私が憑いてるから、何度も立ち上がれるってだけ】」

【朽葉】はそう説明した。


「【さ~!苣、リーヨウたん、

それぞれの樹の場所を教えるね~】」


…よかった。ワタシとキミは"伝える"ことができたのだ。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


[まだ、諦めないのですか]

[あの爺を説得するなんて至難の業ですわ!]


「ねぇ【火種ヒダネ】さん。燃やしていい?」

お団子ヘアに軽く火をつけ、ヤサシ草達を脅す。

[ひぃっ…]


リーヨウは、火山の中でも崖になっている地へ降り立った。



老樹のアズマに、正面から向き合うリーヨウ。

「ボクに木の実くれない?」

[…見ず知らずの子供に、そんなことを言われても]


なんとも大人びた口調で、

「そっかー、じゃあ…

火祭りだね♡【火種ヒダネ】さーん!」


横暴なことを言うリーヨウ!半分は【火種】の趣味だ!


解けた髪が燃え上がり、ヤサシ草達とアズマは

[ちょ…ちょっとアナタ‼]

[『ムリやりはNG』と言ったでしょう⁉]

[う、うちの花に危害を加えるのはワシが許さん…!]

と焦る。


「ん~?むりやり、か~

うん、それもカオスで良い…♡」


いやらしく耳に残る声…12歳ってこんな声出せるのか。


[ど…どうせただの脅しじゃ。お主のような子供に何が]

「できるよ」


その瞬間、リーヨウの両手から枯れ葉が散った!

ちなみに火炎のオマケ付きだ。


[い、嫌…!][燃えたくありませんわ!]


「へへ、クチバさんにお願いしといて良かった~

き・の・み。

いいよね?じーさん♡」


当然植物なので火は怖く、しぶしぶアズマは実を渡した。


…このずる賢さには、毎度吃驚する。



ここは火山の溶岩溜まり。ワタシが覗いた時、かなり暑そうだと思ったのだが…

「老樹シダレさん。

私は貴方と、取引をしに来ました。」


修行僧のように足を組み、汗を流す苣。暑そうだ。


[取り引き、だぁ?儂と対等に渡り合おうとは、とんだ男め。]

「いえ…私からの要求は、これだけです。

貴方の葉を恵んでいただきたい。」


[ハッ。なーにが『これだけ』だ。

一枚たりともやらねえ。]


苣は真剣な眼差しでシダレを見つめた。

「その代わり…

【『童話読み聞かせ券』をプレゼントしま~す!】」


なんだその、可愛らしい…

…いや。苣は大真面目だ。


[……!いいや。ど、童話で儂を釣ろうったってそうは…]

「では冒頭だけ。

『大ぐまくんと 子うさぎたち』」

[っ……!]


明らかに目を輝かせたこの爺さんを、

苣は見逃さない。


なにを隠そう、シダレは幼きネイと一緒に

人間の作った物語を読み漁っていたのである。

その名残で、花畑には絵本の山があったのだ。


祖父と孫のように、な。


「……おかあさんうさぎ とくせいの、

はちみつたっぷりパンケーキを

ほおばったのでした。めでたしめでたし。」


結局最後まで聞いてしまい、

「ありがとう。…懐かしい気持ちになった」

手のひら返しを見せたシダレは、葉を渡した。


これは苣の洞察力と

【朽葉】の遊び心で成り立った、作戦だったのである。



そして氷山側。

[光は見えたぞよ、霙]

「あー分かってるわ!

その『もう少し』がキッツイ…!」

血こそ止まったものの、痛みは引かない霙。

洞窟を抜けるまでに、ヤサシ草の葉を何度食らったことか。


[させませんわ…恨めしいアナタ達に

花を持たせるなんてこと、あってはならないんです!]


シャッ!

間一髪で避けると、葉が壁に突き刺さる。

「あぶね…」

[霙、まだ来る!]


再び霙に照準を合わせ、追撃!

[アナタ達になんてさせたのは!

全部全部復讐の為なのですから!

…っ⁉]


[なんですか…壁から、動かないっ]


刺さった葉が、壁から動かないのだ。

「…へへ。【氷柱ツララ】固ぇよな。

あと、つめたくて痛い。」

霙は涙目で、笑ってみせた。

「じゃあね」

[待っ……]

ヤサシ草を止め、洞窟を抜けた先には…


[——ヨシノばあ様]


さくらの樹…ヨシノが、穏やかに揺れていた。

「…ひざすりむいた、ちょっと寝る」

そう言って幹にもたれ掛かる霙は、『あとはお前に託す』という意図が見えた。

[ゆっくり休むのだ、霙。]



…白い光の中、そよ風が心地よい。

ふいに、ヨシノが口を開いた。


[テイネイ草…アナタに悩みとは珍しい…お仲間のことですね?]

[なんと。ヨシノばあ様は

すべてお見通しぞよ…]


言い当てられたネイは、ばつが悪そうに

[……仲間のアディルを心配させ、怒らせてしまったのだ]

と白状した。

[アナタを『ネイ』と親しい呼称で呼ぶ輩…

そこそこ悪事も犯してきたのですね]


ヨシノは、自分にもたれ掛かる霙を

厳しい目で見降ろした。

そして、

[人は顔ではなく中身…アナタはちゃんと、仲間を見る目があるようです。]

[……ヨシノばあ様!]


[せっかく見つけた理解者なのです。

自ら手放すなんて、勿体ない]


とネイを諭した。

[この者のような邪気のない仲間なら…

アナタを預けてもよいでしょう。

持って行きなさい]

ふと、霙の頭につぼみが落ちてくる。


……お疲れさま、ネイ、霙。



最後に、洞窟内部。かじかむ寒さでもルーは

老樹サノザを見上げる。

[…わしの葉を奪おうとは、出過ぎた奴だ。]

【石土】と同じ威圧感に、顔をしかめるルー。

だが彼はもう、怖気づいたりはしない。


「俺の話を聞いてほしい。」


ルーは自分語りを始めた。

ワタシはキミに【名前】を呼んでもらい、


四樹や花々、団員…

皆に聞こえるよう、アディルの声をエコーのように"伝える"。


「リーヨウはね。俺と同じく喧嘩っ早くて、すぐ力に頼っちゃうんだ。朝まだ眠たくて、布団を離さないこともあったなぁ。

だけど、いつも俺を支えてくれる明るい奴。


霙って奴はほんと、不愛想よ…出会ったばっかりは無関心を貫き通してた。ご飯の時はめちゃくちゃ食べるの。なんでも『一口くれ』って!

アイツの言葉、なぜか安心するんだよな。


苣には頭が上がらないや。依頼もお金の管理もつい任せちゃう。あはは~…俺が寝れなくて苦しんでた時、『ホットミルク、おかわりする?』なんてさり気なく訊いてくれたの、あれ嬉しかったなぁ。


ネイは…その、強く当たっちゃったばかりだから気まずいけど…堅苦しい口調とは裏腹に、柔らかい性格。ひたすら健気に、俺らの手助けをしてくれるんだ。

…ネイが居なくなるの、嫌だなぁ……その話してたら、また取り乱しちゃいそう。


みんな大事な、大事な大事な仲間。」


アディルは言い終えて、目を閉じた。

[……そんな話をして何だと言うのだ]

「ん?同情を誘うつもりだよ。現に今、『なんて良い話なんだ』って思ってるよね?」


[お…思ってるよおぉぉぉ!おーいおいおいおい…]

大粒の涙を零すサノザ。


「おお…そんなに響いたか

大丈夫?ハンカチ要る?」

[年寄りは涙腺もろいんじゃよ…]


サノザは一本の枝を揺らした。


[ぐすっ…ほれ、折っていけ

まんまと同情しとるからわし]

「…ありがとう、サノザ。」


凍えた手で枝を折るルー。

…ナイス憐れみ。




「ホントにいいの?ボクらに着いてきて」

ヤサシ草一同は、涙声で言った。


[…皆で話し合って、決めたことなので]


「ええと…現在の買値は、っと」

「目の前で調べんなや!ったくルーは。」

スマホで物価を確認するルーにツッコミが入る。


ワタシが代わりに調べたが、

 1422万5000

 800万

+800万、

あとは恩恵にあずかった、木の実・枝・つぼみ・青葉は合計590万で、


―――3612万5000円。見事、達成だ。


[姉君…かたじけない]

[ただ一つ…お願いがあるのですわ。

おねだりじゃなく、お願い。]

「【な~に?】

できる範囲で叶えます…」


[1輪だけ、アナタ達のそばに置いて欲しいの。]

[人間を信用したい、って思えたのは…初めてで]

[ア、アナタ方と離れたくないのっ!]


そのお願いに、四人と1輪は

「担々団体にお任せあれ!」


とヤサシく笑った。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


五つのマグカップを運びに行き、

誰も居なくなったキッチン。


「あちち、お待たせ~!」

「ありがとリーヨウ。」

ロウソクとホットミルクが揃い、

「それじゃ苣、準備は大丈夫?」

「うん。【良いよ~】」


「「「「[[かんぱーい!」


担々団体が、マグカップを掲げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る