第12話 古代の先人


「……きて、起きて」


 グレイはそんなメジロさんの声を耳にして飛び起きた。辺りは密閉された岩の中にいるような場所で空間で目の前にはメジロさんが立っている。目を開けて起きるなりメジロさんはため息をついて呆れた声で言った。


「やっと起きたわね。あなたに一つ質問があるのだけれどいいかしら?」


「まあ、別にいいですけど変なことは聞かないでくださいよ」


 メジロさんはまたしてもグレイの言葉にため息をつき質問をしてきた。


「グレイ、あなた今まで何をしていたか覚えてる?」


 そう聞かれて先ほどまで起こったことを思い出してみる。確か中学年進級試験でダンジョンの魔法陣を踏んだ。それでその魔法陣によって未来の崩壊したセツシートに飛ばされた。そこで……あれ?思い出せない。そこから先に何かがあったというのは体が覚えている。でも不思議なことにその記憶のみがすっぽりと抜け落ちていて何も思いだせない。


「すみません、俺も何があったか思い出せません……」


 グレイがそういうとメジロさんは奥の方を見ながら言った。


「やっぱりあなたもそうだったのね。多分あそこの扉の先に答えがあるわ」


 岩の空間の奥にはただ一つだけ銅色の錆びた扉がひっそりと設置されていた。グレイは体を起こして背中についた土を払いながら彼女に言う。


「今、行けるのはそこだけですもんね」


 その扉の近くに寄ったグレイはメジロさんに聞く。


「開けますか?」


「じゃあ、開けさせてもらうわ」


 ギギギ、と鈍い金属音を轟かせながら錆びた扉が開き奥の景色を見せた。そこは小学校や中学校のクラス一つ分ほどの大きさの部屋が広がり、最奥には青色に輝く魔封石が置いてある。魔封石に触った瞬間、部屋全体は青い幻想的な光に包み込まれた。


「そんなに驚かないでくれよ」


 光が少しマシになると目の前に青年が現れて穏やかな声で言った。


「あなたは?」


 目の前に起こった謎の現象を解決すべくグレイはそう聞いた。魔封石から出てきた青年は穏やかな優しい声で答える。青年の髪は黒髪でギリギリ耳が隠れない程度に伸ばしていた。一般的な日本人というような顔立ちをしている。


「僕は古代の先人の一人で米正大翔。君たちと同じ日本人だ。」


「君たちって……」


 目の前にいるのが古代の先人というのに二人は少しだけ驚きを覚えた。だがそれ以上に古代の先人が言った日本人という言葉が頭に残る。二人は互いの顔を見合う。


「メジロさんって……」


「グレイって……」


 同時に二人が口を開く。


「「日本、人?」」


 しどろもどろに答えた二人の声が重なった。そんな様子を見ていた大翔は微笑みながら言葉を続ける。


「そう。君たちは女神にこの世界に呼ばれた人間で神を殺すことを誓った」


 大翔は何もかもを知っているかのようにすらすらと喋る。だが急に大翔の声が尖った。


「でも君たちはこのままでは神に殺される」


 古代の先人の一人である大翔の口から出たのはそんな衝撃的な言葉だった。


「どういうことなの?」


「そのままの意味。私たちでも負けた……君たちじゃ、勝てない……」


 メジロさんが大翔の言葉に対して聞き返した時。全く知らない第三者の声が聞こえる。大翔の後ろからは黄色いクリーム色の髪をしたポニーテールの子が出てきた。服は白色で萌え袖をしている。背はメジロさんより少し小さいくらいでこちらを見るや否やすぐにグレイの方へ寄ってきた。グレイの体をぎゅっと掴み小さな声で少女が呟く。


「かいとくん」


「え……?」


 思わず声が出る。俺の前世の名前、神谷海斗。偶然、『かいと』と言うのは流石に出来すぎている。


「ほう、クレアに喋りかけられるなんてすごいな」


 大翔の言ったことから察するにクレアというのはグレイに抱きつく少女のことだろう。そのクレアに喋りかけられることのどこがすごいのかがよく分からないが。


「大翔、あんたの知り合いなんだったらどうにかしてくれないか?ずっと抱きつかれていると色々困るんだ」


「あー、クレアは一途でね。君のことが好きになってしまったらしいよ」


「一途?なんでそれを知ってるんだよ」


 グレイがそんなことを言うと小さくため息をした大翔が忠告してきた。


「色々と付き合いが長いからね。つまり、君が初恋ってことだよ」


「は……」


 ゆっくりとグレイに抱きつくクレアの方を見る。俺と目が合うとニコッと笑う。

可愛すぎる、そう心の中でグレイは叫んでしまった。


「でも俺には恋をしている人がいる」


 前世では最後の最後に最悪な別れ方をしてしまった目白さん。それでもグレイはまだ目白さんのことを愛している。


「知ってる…全部……」


「それはどういう……?」


 グレイがもう一度クレアに聞くとニコッと小悪魔のようないやらしい笑みを見せた。


「いつまで話してるのよ!」


 腕を組んでいい加減にしろと言わんばかりの目つきでこちらを見た。怒るメジロさんに対してクレアは慰め? のような言葉をかける。


「そういうことは言わない方がいいよ。怖い」


 小悪魔のような笑みを浮かべたクレアはグレイの元を離れてメジロさんの方へ寄った。クレアは自分の方へ手を招きメジロさんに何かを告げる。すると、すごい勢いでメジロさんの顔が赤くなっていく。


「なっな、ななな、何をい、言ってるのよ……」


「……あなたの方が弱い」


 クレアは慌てているメジロさんに対して冷静に言葉を返す。


「そろそろ要件を話していいかな?」


 大翔はある程度、話の区切りがついたと判断したのかグレイたちに聞いてきた。えぇ、とメジロさんは頷く。それに続いてグレイも小さく頷いておく。


「古代の先人というのは、僕とクレアの二人だ。君たちと全く境遇は同じ。違うとすれば神の力が解き放たれた時に戦ったかどうかというところだ」


「大翔とクレアの二人が古代の先人なのか」


 グレイがそう声に出すと大翔はグレイの言葉を聞いて訂正をした。


「厳密に言うと僕たちの前にもたくさんいる。でも今こうして会ってるのが僕たちだから、間違ってはない」


 何回、何十年にも渡って神を殺そうとした人たちがいたということだ。


「でも今の君たちでは必ず負けてしまう。

だから僕とクレアの持つ能力を分けようと思っている。時間がないからそこ立って」


 大翔に言われるがままにグレイたちは指差されたところに立つ。


「じゃあ、記憶のインプットを始めるからクレアも手伝ってれないか」


「……仕方ない」


 少し気だるそうな顔をしたクレアは大翔の方に近づき、地面に魔法陣を書き出した。そこに大翔が触るとクレアの書いた魔法陣は白く光る。


「能力ってどんな能力なんだ?」


「また折々、話すよ」


「またね」


大翔とクレアの声を最後にグレイの視界はホワイトアウトした。その後一秒もしないうちにグレイは腰に痛みを覚える。恐る恐る目を開けようとした時。


「ふごっ……」


 グレイの腹にメジロさんが降ってきた。腹に降ってきた衝撃で体がV字に曲がってしまった。


「その、グレイ……ありがと」


 メジロさんは口を尖らせて、少し恥ずかしげに言う。すぐにグレイの体から退いた後、彼女はきょろきょろと辺りを見回していた。グレイも自分の腹に残る痛みを抑えつつ、ゆっくりと地面から立ち上がる。


「マジかよ……」


そこに広がる景色を見た瞬間、グレイたちは絶望の淵に立たされたような気分になった。


「未来の次は海………」


そう。グレイたちは今、ドーム状に広がる結界の中にいる。

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