フィオナ編
第13話 魔法陣の場所
兄さんたちが魔法陣に乗って消えてからもう三日も経った。兄さん『たち』というのは兄さんが消えた時、一緒に特待生のメジロ・ユイという人も消えていたからだ。それから三日間、セツシート大学教員の半数が捜索に出かけている。日が経つにつれて兄さんに会いたい、という気持ちが大きくなっていく。そんな気持ちを抑えて毎日を過ごしてきた。
「……ォナ、フィオナ」
「んっ!」
ようやく自分に声がかけられていたことに気づく。目をパッと開けて声が聞こえた方を向いた。
「ごめんなさい。少し考え込んでて」
「自分のペースで頑張れば十分よ」
ローズにそう励まされて中学年進級試験の最終日、実技科目の会場へと入る。今日の実技試験は三日前に中止になってしまった試験の振り替えのようなものだ。指定された魔法を順番に撃って早々に試験を終わらす。
「すごいよ、やっぱりフィオナはお兄さん譲りだね」
「ありがとう……」
兄さんという言葉に今まで抑えてきた気持ちが乗し掛かる。いつも隣にいる兄さんが居なくなるだけでこんな事になってしまう自分が情けない。
「あ、ごめんなさい。お兄さんのこと……」
「いえ、兄さんはきっと生きているし、また私の前に来てくれるわよ」
フィオナの表情を見てローズが心配をしてきたが、笑顔でそう言い返し更に続ける。
「それに、高学年に進級する時の長期休みに私も兄さんを探しに行くし」
「なら私もいや、アルバートやジェイミーも着いて行くわ」
フィオナの言った言葉を聞いた瞬間、すぐさまローズは返してきた。
「分かったわ」
フィオナがローズに対して言うと、彼女の顔はパッと明るくなった。
「でも兄さんが帰ってきた時のために一人はここに残っていて欲しいの」
急いで自分のスカートのポケットからとある石を取り出す。青色に輝く手のひらに収まるサイズの石を見せるとローズは目を丸くして聞いてきた。
「これって」
「そう、これは魔封石。授業でも習ったけど、離れた場所の双方に信号を送るもの」
さらにフィオナはスカートからもう一つの魔封石を取り出す。片方の魔封石をちょんと指で触ってみる。
「すごい……」
指で触った魔封石が虹色に輝くと同時に、もう一方の石も連動して虹色に光輝いた。授業では文でしか書かれていなかったので、実際に見て感動するのも無理はないだろう。
「これをローズたちに預けるわ。もしも、兄さんが帰ってきたらこれを使って私に伝えて」
「うん」
ローズの手の上に魔封石を一つ置く。よろしくね、と伝えてこの日は屋敷へと帰った。
屋敷に戻ったフィオナはノアとマロンを呼ぶ。瞬間移動で二人はフィオナが呼んだ玄関まですぐに飛んできた。
「近況の説明を」
そう短く二人に告げる。するとフィオナの前に立つ二人は表情を緩めた。
「ようやくです」
「見つかりました」
「本当ですか!」
フィオナの心を覆っていた靄が一気に晴れ、大きな声を出してノアとマロンに確認を取った。こんなに驚いたのは四日間、すごく長い道のりだったからだ。ノアとマロンの二人には兄さんが居なくなった次の日から兄さんの捜索をしてもらっている。具体的には兄さんの乗った魔法陣についを調べているはずだったがこれはすぐに解決した。
『禁忌魔法陣』
その単語が出るまでに時間はそう掛からなかった。だがそこからが長かったのだ。この四日間、ノアとマロンにはかなりの負担が掛かっていたことだろう。
「それで場所は?」
「はい」
ノアはフィオナを食堂のテーブルまで案内し、大きな地図を広げる。マロンが服の中にしまってあるペンを取り出し目的の場所に丸をつけた。
「ここです」
「これって……」
それは今はもう亡き島。
『ホッ・カイドウ』
その土地があるはずの場所をペンで指していた。
「はい。海の中に魔法陣の存在を検知し確認したところありました」
「なるほど。確かに海の中に沈んでいたらどれだけ調査しても見つからないわけね」
「出発はどうしましょうか」
禁忌魔法陣の場所がホッ・カイドウにあるという事は理解した。恐らく兄さんもそこにいるという事も分かった。でも問題はいつそこへ向かってこの屋敷を出るかだ。高学年進級試験の結果は一応見ておかなければならない。
「試験の結果の速報を確認後、すぐに出発するわ」
「「はい」」
そう言ってフィオナたちは解散すると自室へと戻った。
誰もいない室内に兄さんと自分のベットが二つ。
「何回見ても見慣れない景色よね……」
出来ることなら瞬間移動ですぐに『ホッ・カイドウ』に行きたいところだ。けれどと、今の瞬間移動の精度を考えてみるとせいぜい一五〇キロメートルが限界になる。しかも、瞬間移動は遠くなればなるほど自分を押すための魔力の減少も激しくなってしまう。
以前、兄さんからは魔力の回復法を習った。理論は、魔法を撃つ時に自分の体に含まれる魔力ではなく空気中の魔力を自分の体に含ませる。これをする事によって半永久的に魔法を撃ち続けられる。しかし、これはあくまで理論上の話である。実際には魔法というのは使うにつれて体に疲労が溜まっていく。
最も体の疲労が来るよりも魔力が切れるのが先のためそれに気づく人は少ない。実際、フィオナも最近になってその事実に気づいたのだ。例え魔力が残っていたとしても魔法を撃つ事はできないのである。先ほどマロンからもらった目的地二点の書かれた地図をもう一度見る。
「最低でも二日はかかる……」
地図上での直線距離を測り大体の距離を割り出し、かかる時間を計測してみる。瞬間移動を使えば道のりなどは気にしないでいいのでその点は楽だ。
「けど、ローズたちが来るからもう少し遅くなるわね」
フィオナやノア、マロンの三人がローズたちと一緒に瞬間移動をする事も考えた。けどそれだと、フィオナたちへの負担が一番大きくなってしまう。故に出発当日にやってくる二人には急遽、一日で瞬間移動をマスターしてもらう事になる。
「無理は承知だけど、やらなきゃ仕方がないわよね」
いよいよ明日にセツシートを出て、兄さんをやっと探しに行ける。兄さんのいるはずの場所はもう突き止められるいる。あとはその場所まで行くだけ。
「今日はゆっくり寝れそう……」
そう考えると今まで自分の中に積み重なってきた重い気持ちが降ろされた気になった。兄さんのベッドを見て今日も一人でこう呟く。
「おやすみなさい、兄さん」
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