第11話 電力砲
「なんだっ!?」
「まだ生きていたのね」
メジロさんが見ている後ろを振り返るとそこには巨大な何か気持ちの悪いものが落ちていた。その気持ちの悪いものというのは横幅は十メートルほどあるプラットフォームを埋め尽くすほどで高さは五メートルほどだ。不意に耳元で不快な羽音がしたかと思うとどこからか大量の虫が湧いてきた。
「うあっ……」
止まる事なくどんどんと湧いてくる虫を手で払うもののそんな事でどうにかなる虫の量では無かった。虫はプラットフォームに落ちてきた物体へと集まっていく。
そして。
「ブアァァァ‼︎」
中から怪物、先ほどグレイたちが倒したはずの鈴木ほのかが変わり果てた姿で出てきた。
「やはり死んでいなかったわね」
グレイは鈴木ほのかに銃を向けて撃つが先ほどとは違い銃弾を弾き、何倍も硬くなっていた。その理由はやはり体を守るように作られた殻だろう。くそっ、そう心の中で呟き他に役立つようなものを探す。
「あれを使えば……」
ふと目に写ったのは鈴木ほのかの反対側にある電力砲だ。鉄板五メートルを貫通するほどの威力を誇る電力砲であれば鈴木ほのかを守る殻も貫通するはず。
「メジロさん、鈴木ほのかの気を引いておいてくれませんか?」
「ええ、でもそこまで長くは無理よ」
そう聞くとグレイは急いで電力砲の方へと走る。
『電力砲の使用を確認、対象物に対して引き金を引いてください』
電力砲を機械から取るとそんなアナウンスが流れる。グレイはそれの通りに鈴木ほのかを標的にして引き金を引く。
「グアアアッッッ!!!」
白い光が電力砲の銃身から放たれた。鈴木ほのかを覆っていた殻が真っ二つに割れてガタンと大きなと音ともに地面に落ちる。
「もう一発」
鈴木ほのかに対してもう一回電力砲を撃とうとグレイは引き金をひく。が、引き金を引いても一向に先ほどのように白い光は出なかった。
『冷却が終了するまでお待ちください』
「冷却!?」
機械から放たれたその言葉にグレイは度肝を抜かれた。すぐに電力砲を機械に戻して殻の取れた鈴木ほのかの方へと近寄る。
「くっ……」
鈴木ほのかは俺が自分の射程内に入ったのを知ったのか体の下から生える触手を伸ばして攻撃をしてきた。
「メジロさん、倒せそうですか」
前の方で銃を使って鈴木ほのかに攻撃をしているメジロさんに聞く。
「グレイが殻を壊してくれたおかげで倒せそうよ」
メジロさんは触手の攻撃を避け、隙があれば銃を撃ち込むということしながら答えた。グレイもメジロさんの真似をして少しずつ前に進みながら触手をしゃがみ、ジャンプをして避けていく。触手の攻撃後に鈴木ほのかに銃で攻撃を仕掛けながらどんどんとダメージを与えていった。
「こいつどんだけ……」
もうメジロさんと二人で銃を何十発も撃っているにも関わらず鈴木ほのかは倒れない。
そのことにグレイは驚きと恐怖を覚えつつあった。俺の銃の弾はもうあと何発か撃ってしまえば無くなる。
「まずいな……」
どうしたら、そうグレイは思った刹那。
『電力砲、冷却処理が終了しました』
グレイの後ろから電力砲のアナウンス、この状況を打開するだった一つの方法を暗示する声が聞こえてきた。アナウンスの声が聞こえるとグレイは一目散にそちらへ走っていく。
「これで終わりだ!」
しっかりと鈴木ほのかに対象を合わせ、引き金を引く。ほとんど音もなく真っ直ぐに銃身から放たれた白い光は彼女に直撃した。
「っ!!!!!」
最後に鈴木ほのかは何かを言いたそうにしていたが体の内側から大爆発を起こした。後に残ったのはプラットフォームに落ちてきた彼女の死体のみだった。
「ようやく終わったわね」
「そうですね」
これだけ粉々に爆発すればもう起き上がる心配はないだろう。
『炎の延焼を確認。防衛最終フェーズに移行します。職員は直ちにこの島より脱出して下さい』
大きな揺れと共に耳に聞こえてきたのはそんなアナウンスだった。施設全体に響くアナウンスを聞いた二人は現在の状況に危機感を持つ。
「この島よりって……」
「私たちもマズいわね」
メジロさんがグレイに向けた深刻な表情を見てグレイも全てを悟った。つまり、この島ごと爆破するつもりなのだろう。
「あそこでこのプラットフォームも終わりです!」
ちょうど、あと少しの所に長い線路の終わりが見え、そこをグレイは指差した。すぐにグレイたちはプラットフォームから降りるとその先に広がる道をとにかく走った。
「あれなんかどうですか」
ようやく飛行機の置いてある倉庫に出てそこにある小さめの飛行機をグレイは見ながらメジロさんに言う。コクリと頷いた彼女はハシゴを使い、飛行機の中へと入っていく。グレイも遅れて中に入りコックピットへと座る。
「よし、メジロさんもう飛べます!」
「なら早く出して」
メジロさんが座席のシートベルトを閉めたのを確認するとグレイはすぐに機体を走らせた。ふわりと体が重量に逆らいながら上空に飛んでいくのが分かる。そんな時に上昇が止まった。
「っな!」
「どこまでもしつこいわね」
大きな揺れが起こったためグレイたちは窓の外を見た。飛行機の側面には先ほどまで俺たちがいた島から真っ直ぐに伸びる鈴木ほのかの黒い触手が機体を掴んでいた。
「メジロさん、俺が今度こそ蹴りをつけてきます」
そう言ってグレイは操縦をメジロさんに託すと後ろへと行く。
「待って。なら、これを使って」
ポイと投げられた銀色に光る銃はグレイたちの持っている中で最大火力を誇る銃だった。その銃を見た俺はメジロさんもこれで終わりにしたいという思いが伝わってきた。
「一番後ろのハッチを開けたわ。そこに行って」
彼女に言われてすぐに走って後ろの席の乗車スペースを通り越してその奥にある扉を開く。
「あれか……」
壁全体が開いたハッチは今の状況をまじまじと示していた。黒い触手は飛行機の体部分を掴み、どこにも飛んで行かないように捕まえている。
「残念だけど俺たちお前の巻き添えにはならない」
飛行機のハッチギリギリの場所にグレイは立つ。黒い触手の伸びている元の場所。そこに鈴木ほのか本人がいるのだろう。だが、先の戦いで電力砲を二発も受けているためかなりのダメージが蓄積されているはず。それでも動くのは執念が強いと褒められるほどだろう。
「もう終わりだ。鈴木ほのか」
息を吐きながら遠くて姿が見えない鈴木ほのかに対してが心眼を働かせ、グレイはトリガーを引いた。
ダン!
静かな飛行機と上空に銃の撃つ音が響く。すると飛行機を捕まえていた触手はスルスルと力が抜けていき、落ちていった。
「あんたより俺の方が上手なんだ」
近くのボタンでハッチを閉めてすぐに操縦席へ戻る。
「メジロさん。手伝います」
「ありがとう」
急いでこの近くから逃げなければ。そう思った刹那。
ドンッッッッッ!!!!
心臓に響くような大きな音があたりに響き、ものすごい風が起こる。その爆風を受けて飛行機は操縦機能を失い上空から一気に地面に落ちてしまいそうになる。
「マズいマズい!」
すぐにグレイは操作盤を上げて機体の高さをどうにか持ち直した。
「これでなんとか行けましたね」
「そうね……」
グレイの言葉に答えようとしたメジロさんはその場に倒れるように寝てしまった。地面に倒れた彼女のことを心配して声をかけようとした時。
「メジロさん……?」
グレイにも急激な眠気が襲ってきて十秒も経たない内に気を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます