第10話 プラットフォーム

 グレイたちは真ん中にあるエレベーターに乗って最下層へと進んだ。


「すごい場所ですね」


 エレベーターのついた最下層は施設全体をコントロールするようなモニターがついていた。そのまま奥の扉へ進もうとした瞬間。


「っ!!」


 右側から黒い触手が壁を壊して突き破って来た。ギリギリの場所でグレイはメジロさんに肩を引っ張られその触手を避けることができた。


「メジロさん、ありがとうございます」


「いえ、さっきは何も出来なかったから。お互い助け合わないといけないし」


「それにしてもいきなりこれは何だったんてましょう?」


 触手はうねる動きをしてながらまた壁の中へと戻っていった。壁の中を恐る恐る見てみるが穴が空いているだけで他には何もない。


「特に何かあるわけではないですね」


 それを確認するとグレイたちは施設から脱出するために奥の扉を進んだ。その先は脱出用プラットフォームのレールが敷かれている場所だった。


「あそこがプラットフォーム……」


 グレイが指差すとメジロさんも一緒に場所を確認した。


「二人とも仲良く揃っていたようで良かったわ」


 黒髪のロングヘアで長く純白のワンピースを着ている少女がそう言ってきた。見た目からは想像できないほどの溢れる殺気を感じ取ったグレイたちはすぐに銃を取り出す。


「誰だ!」


「あら怖いわね、私は鈴木ほのか。まあ名前なんてどうでもいいけどね。あなたたちは私のこの施設をめちゃくちゃにしたのよ」


 名前は日本人。でもなぜか同じ日本人として納得する事は出来なかった。一歩一歩、グレイたちに近づいてくるにつれてその容姿は変わっていった。背中からは何本もの触手が生えて、右手には炎を纏っている。鈴木ほのかはある程度、グレイたちに近づくと右手を大きく振り上げた。


「なっ……!」


 地面に右手の動きの通りに火がついた。すぐに横に避けるように転がり、鈴木ほのかに対してグレイは銃を撃ち込む。だが人間とは思えない反射速度で銃弾は避けられてしまった。瞬きをする間もなく目の前に鈴木ほのかが現れる。


「まあ、所詮人間はこんな物ね」


 耳元でそう囁かれ気づいた時には腹を思い切り殴られ、壁に激突していた。あまりの動きの速さにグレイは声を出すことも出来なかった。鈴木ほのかはさらなる追撃をしようとこちら側へと歩いてくる。

バン!

そんな時、鈴木ほのかの後ろ側からメジロさんが銃を一発撃ち込んだ。メジロさんが空港で怪物を倒した時に持っていた銃。それを鈴木ほのかに対して撃ったのだ。


「っ⁉︎」


 ほんの僅かな間だけ、鈴木ほのかは少しよろけたように見えたがすぐに体勢を立ち直した。よく見ると地面には赤い血が落ちている。ということは多少なりとも鈴木ほのか本人にダメージは入っているということだろう。


「そんな物で私を倒せると思ったか!」


 怒りに満ちた表情を浮かべた鈴木ほのかは無数に体から生えている触手をメジロさんの方へと飛ばした。しかしメジロさんは触手の当たる直前に横に避ける。勢いを止めることなく彼女は走ってグレイの方へと来て体を起こす手伝いをする。


「私があいつを惹きつけるからあなたはここに隠れてて」


 メジロさんはグレイの前に立った。グレイはその間、メジロさんに指示された場所に身を隠す。


「自分から当たりに行くとはバカだな」


 鈴木ほのかはメジロさんの思い通り、狙いを定めて触手を放った。けれどもメジロさんは鈴木ほのかが放って来た触手の上に軽々しく乗った。メジロさんは忍者のように触手を渡っていき鈴木ほのかの目の前までたどり着いた。


「バカはあなたよ」


 衝撃の大きい銃を両手で持って残り弾薬を使い切る勢いで鈴木ほのかに撃つ。体に銃弾が当たるたびに鈴木ほのかの体は後ろへよろける。やがて柵にぶつかったが、メジロさんは銃で更に追撃していく。鈴木ほのかは柵にもたれかかるも、体勢を崩しプラットフォームの下に広がる漆黒の闇へと落ちそうになる。それでも鈴木ほのかは両手でプラットフォームの端を掴みしがみついていた。


「こんな所で私は……」


「さよなら」


 無慈悲な表情で床に手でぶら下がっていた鈴木ほのかの顔面にメジロさんは容赦なく銃弾を撃ち込んだ。鈴木ほのかはその衝撃で手を離して落ちてしまったようだったがまだ諦める事はしていなかった。触手を伸ばして何とか上に戻ろうとしていたのだ。


「何度も無駄よ」


 今度は最初にもらった銃に持ち替え、プラットフォームを掴む触手に銃弾を外すことなく撃った。一方、グレイは体の痛みが引いた所でメジロさんのいる柵の近くへと行く。


「もう二度と会いたくないわね。さ、早くこんなところから脱出しましょ」


「そうですね」


「ところで何でこんな物が設置されてるんでしょうね」


 プラットフォームの上にはなぜかは分からないが鉄で出来た大きな箱が設置されていた。それは何本もの電極が差し込まれており、よほど電力を使うと感じられるものだった。その鉄の箱の近くには『電力使用方法』と書かれた紙が貼ってある。


『電力砲使用についての注意


 この電力砲は一発で厚み五メートルの鉄板を貫通するほどの威力である。

電力砲自体はこのプラットフォームを動かした時に出てくる。


 使用方法:電力砲を装置から引き出し対象に対して引き金を引く。


 注意:プラットフォームのレール上に遮蔽物があった時のみ使用すること』


というように誰でも分かるように書かれていた。


「鉄板五メートルってかなりの威力ですよね」


「そうね。こんな物誰かに奪われでもしたら大惨事になるわ」


 グレイと一緒に電力砲の紙を見ていたメジロさんは深刻な表情で言う。


「これを引いたら良いんですよね」


 プラットフォームの中央にあった動作用のレバーを引くとゆっくりと上に上がっていった。電力砲があるのが乗り場から真反対、レバーを天井に見て左側にある。プラットフォームが動き出すと電力砲の入っている鉄の箱が真ん中から左右に開いた。


「こんな感じのものなんですね」


 電力砲は一言でまとめるとレールガンだ。左右に磁場を生み出すための磁石があり、真ん中には砲身レールがある。


「まさしく最強の兵器って感じね」


 それを見たメジロさんはまじまじと見つめながら電力砲の感想を言う。

ガンッ!!

電力砲に見惚れていると、プラットフォームに大きな揺れが起こりグレイたちは前のめりに転びそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る