第20話 夏祭り

 空に星が見え始める。

 時刻は午後六時。

 普段の平日ならガラガラの神社には浴衣を着たカップルや家族が集まり、賑わっている。

 皆、一年一回開催される夏祭りを楽しむために。


 もちろん俺もその一人で今は壁にもたれかかってスマホをいじっている。

 集合時間より30分も早く来てしまったので暇をしている所。

 ポロシャツにジーンズと如何にも普通な格好で待っていると、なになら周りがざわつき出すのに気がついた。

 なんだと思い少し近づいてみると……。

 

 「おっ!光圀君早いね!」


 「まぁ……それよりも随分とご人気で」


 説明する必要もないと思うが、周りがざわめいている理由とは夜月達のせいだ。

 どんな服を着ていてもキラキラしている彼女達は浴衣姿というチート装備をし、注目の的になっている。

 男性はもちろん、女性の人までも目が離なせないほどだ。

 3人ともお揃いの浴衣姿で髪を団子にしている。


 「おい、俺も忘れんなよ」


 「いたんだ。絆」


 「俺が主催者だぞ!」


 美女3人の端からちょっこっと出てきた、絆は気合いを入れており袴姿であった。

 浴衣三人に袴一人、そして私服一人。

 完全に浮いてしまった。

 家に帰ろうかな……袴?

 

 「じゃあ行こうか」


 「あっ!……待って!」


 服装のことはもういいにして、俺は何が何でも言わなければいけないことを思い出した。

 ここに浴衣姿の女性がいる。

 これから一緒回る。

 前回の反省を生かして!


 「今日もとても似合っているよ皆!」


 「えっ!光圀君!ありがとう」

 

 「まさか!自分で言えるようになるとは……成長ですね」


 「嬉しい……ありがとう」


 「いやー流石親友。照れるぜ」


 あれ、俺は3人に向かっていったはずが、4人が照れている。

 まぁ確かに全員似合ってるが……いやここは絆も褒めたことにしとこう。うん傷つけないために。


 言いたいことは終わり、ようやく鳥居をくぐる。

 りんご飴に唐揚げ、くじ引きなどバラエティー豊富に出店が出ている。

 どれも美味しそうで速く何かを買いたい気持ちもあるが、今は先に花火を見る所を確保しないといけないらしい。


 この神社はとても広い。

 実際に祭りで使われているのは半分程度らしい。

 だから奥に行けば行くほど人気もなくなり最悪そこで見ればいいものの、そこでは不気味だから嫌だという理由から少しだけ人が少なく所を探す。


 「我慢しなよ。光圀もう少しだから」


 「分かっているよ」


 俺はそう言いながらも、努力の末手に入れたお金を出そうとしている。

 出店が俺を呼んでいる。そう感じたのだ。

 今並んでない焼きそば屋さんに行ってすぐ戻ろうと決めて、列から少し離れる。


 「ちょい、手、手閉まって」


 「ばれたか」


 夢奈は監視をしており、素早く俺の手を叩いた。

 とても頑固なお方のようで抜け駆けは許さない。

 一番厄介な人に目をつけられたなと思い、素直に財布を鞄にしまう。


 「光圀、そう言えば今日玖瑠実も来ているんですよ……。見つけたら話してあげてください……夏休みで最近会えてませんでしたから……」


 「そうなんだ。分かった、絶対に見つける」


 玖瑠実ちゃん達とは鈴美の妹のこと。

 鈴美にうりそっくりな小学生1年生で元気が良い子。

 学校があった日には駅前の図書館で定期的に遊んでおり、いつも癒しをもらっていた。

 しかし、今は夏休みに入り中々遊べていない。

 俺もそろそろ玖瑠実ちゃんの笑顔が恋しくなってきた時期だから、絶対に会いたいと心に誓う。



 「着いた。ここにしよ」


 人盛りから少し離れたところに良いスペースが発見。

 木が一本生えている程度でそれ以外は芝生。高校生5人には丁度いいぐらいのスペースであり、そこに夜月が持ってきたレジャーシートを敷く。

 皆、人盛りの中を歩いてきたので一度腰をかけて一休み。


 「じゃあ。誰が買い出しに行く?」


 「光圀は確定で」


 「おい!いらんこというな夢奈」


 もう皆、花火の時間まで立ちたくないらしい。

 ここは風通しも良く、人もほぼいない。

 だからこのレジャーシートに一度でも座ってしまうと、動きたくない感覚になるのは分かるが、俺は確定ってひどくないか。

 でも拒否権はないだろうな前みたいに。


 「じゃあ……もう一人私が行きます……」


 俺が一人で行け空気が漂う中、救世主現る。

 なんと前は見捨てたはずの、鈴美が自ら立候補してくれた。

 これには目から涙が零れそうになるぐらい嬉しい。


 「じゃあ行こうか。鈴美」


 「はい!」


 俺と鈴美は立ち上がり、出店のある方角に体を向けて歩き出す。

 出店には人が多く見え、二人で買って来るのに時間はかかる。しかも注文された商品は結構多い。

 明らかに大食いな人がいるとしか思えないが、あえて聞かないことにしよう。

 なぜなら男子組は小食人間だから。


 「ちょっと待ちなさい君達!」


 追加注文か思い振り返ると、さっきまで座っていた夢奈と夜月が立っていた。

 脱いでいたはずの、草履も履いてカバンも持って。

 トイレにでも行くのだろうか。


 「君達二人ではだめしょう!ここは私も」


 「じゃあ私もです」


 「えっ君達が行かせたのに?」


 矛盾発生。

 俺も鈴美も決して行きたかったわけではない。むしろおりたいぐらいだ。

 それなのにもかかわらず俺には拒否権がなく、それを見捨てまいと鈴美が立候補して行くことにダメな理由なんてあるはずがない。

 頼りがいはないというのなら分かる気もするが、いっても出店で商品を買って来るだけだ。

 小学生でもできることを止めようとするなんて俺達への信頼はそれ以下なのか。


 「じゃあ夢奈達に任せるよ」


 「そ、そういうことではない!」


 「……意味が分からない。じゃあどういうことだよ?」


 「それは…………そうだ!二人ずつに分かれて買った方が早いんじゃないかなっと思って!」


 ほう夢奈にしてはいい案ではないか。

 勉強はできないが、こういう時はよく回るんだな、頭。


 もちろんその案に否定する必要もない。むしろこちらは負担軽減になるのでありがたい話。

 乗らない手があるはずもない。

 でもそれなら最初からそうすれば良かったじゃんと思うけどね。


 「じゃあグッパで決めましょう」


 「分かった。せーのっ!グッパで分かれましょ!」

 

 


 「結局……意味なかったね……グッパ」


 「そうだな」

 

 グッパの結果、最初から何も変わらず、俺と鈴美、夢奈と夜月ぼ二つに別れて買い物することになった。

 夢奈達はその結果を見て、この世の終わりを見たかのようになっていたけど。

 しっかりと出店に並んでいた。


 「後は唐揚げですね……夢奈達がいなければもっと大変でしたよ……」


 「そうだな。でもか、唐揚げ屋さん、すごい行列だけど」


 「ぐぬぬ……仕方ありませんね……」


 唐揚げは出店の中でも群を抜いて人気があり、長蛇の列ができている。

 占い部の長蛇の列も凄かったが、これは比べ物にならないぐらい人が多い。

 花火までに帰れるだろうか心配だ。


 それでも列に並び待っていると、中には諦めて列から抜ける人も多く短くなっていく。しかも一回揚げ終わるだけで、結構の人の分を作ることができスムーズに。

 この調子なら余裕で花火に間に合うだろうと思い、少しづつ心配が消えていく。


 「花火間に合いそうですね……」


 「あー良かった」


 「あっ!お姉ちゃんいた!」


 後5人ぐらいの所で、鈴美とうりそっくりな子がこちらに向かって走ってくる。

 汗も沢山かいており、元気のない表情を浮かべていた。


 「どうしたの!玖瑠実!そんな汗かいて!」


 「助けて!啓介君が!」


 「落ち着いて、一体何があったの玖瑠実ちゃん?」


 玖瑠実ちゃんは深呼吸をしてから口を開く。

 

 玖瑠実ちゃんによると、図書館で遊ぶ子達と一緒にこの神社に来ていた。

 俺らよりも早く来ており、出店の物食べてから神社の奥に行くことに。

 場所も確保しても花火まで時間があったため、鬼ごっこすることになった玖瑠実ちゃん達はそこで走り回っている。すると、一緒いた啓介が転びケガをしたらしい。

 そこで捻挫もしたのか立てなくなり助けを呼びに来たとのこと。


 「行こうか鈴美」


 「でも夜月達に言わないと……」


 「今はそれよりも助けに行こうよ」


 「……分かった……」

 

 俺達は玖瑠実ちゃんに着いていき、神社の奥に進む。

 途中でこれまで買っていた荷物を絆に預けてきた。

 絆は何が起こっているのかもわからない顔をしていたが、説明をしている暇はなかった。


 人気のない道を走ること5分。

 さっきまで一歩道だったのが大きく開けた。

 周りには狛犬の像が二つに大きな寺院があり、夜になっているので不気味な空間。

 

 そこからまた少し進むと、何人か子供が密集していた。

 子供達の中心にいたのは啓介君だ。

 両膝も擦り剝み、その他にも傷が多い。不幸中の幸いか大きなけがではないのが分かる。目は泣いていたと思われ、真っ赤に染まり服も濡れていた。


 「大丈夫?啓介君」


 「痛くて立てない」


 「分かった。なら少し治療するからしみるけど我慢してね」


 俺は祭りの中にある医療所で貰ってきた消毒と絆創膏を貼っていく。

 また歩けない原因であろう足首を見せてもらうと、そこは健康な肌色から血の色に染まり腫れていた。

 すぐさま包帯を巻いてあげ、担いでいくことにした。


 「光圀、大丈夫?」


 「これぐらいならいける」


 筋肉があるわけでもなく、力持ちでなくても小学生一年生は簡単に担げる。

 俺は持っていた救急用具だけを鈴美に持ってもらい、歩き始めた。


 それにしても明るく賑やかな所から少し離れただけで、こんなにも暗く不気味な所になるとは思いもしなかった。

 周りには一本道以外森林しかなく、生ぬるい風が吹く音しか聞こえてこない。

 ここで花火を見るのは、怖がりではない俺にしても気が引けてしまう。


 「ありがとうございます。妹を助けて下さって……」


 「あんなカワイ子ちゃんに頼まれたら断れないよ」


 「それは……そうですね!」


 なぜだろう。少しだけ声が高くなった。

 怒ってる?いやそれはないな。

 少し沈黙が続くと、鈴美はスマホを鞄から取り出して何かを確認し出す。

 

 「もう花火始まりますね。結局皆とは見れなさそうですね」


 「だな」


 次の瞬間、真っ暗な空に大きな花火が打ちあがる。

 そして何発も何発も。

 

 「綺麗ですね……」


 「あーー綺麗だ」


 俺達も足を止めて、空を見るのに釘付け状態。

 今だけは俺の周りも明るくて、さっきの不気味さも感じない。

 花火は15分と予定されていたが、そんなにあったとは思えないほど速く終わった。最後の花火は大きなチューリップみたいで、綺麗な終わり方を迎えた。


 「良かったですね花火」


 「そうだな」




 「お兄ちゃんとお姉ちゃん助けてくれてありがとう。大好き!」


 花火を見終えると啓介君を医療所に預ける。

 どうやら親御さんに連絡して来てもらえるらしい。


 玖瑠実ちゃん達はもう少しだけ遊んでから帰るため、満面の笑みを浮かべて俺らのもとから去っていく。

 玖瑠実ちゃんの笑顔はやはり癒される。


 「いた!」


 俺らも元に戻ろうとしたが、その必要はなかったらしい。


 「ちょっとどこに行ってたの?」


 ここまでのことを夜月達に話しいく。

 これには納得の表情を浮かべて、偉いと二人の頭をなでてきた。


 「お腹減ったんですけど……何か残ってませんか?」


 安心すると鈴美の言う通り、お腹が減ってきた。

 結局のところ何も食べておらず、花火と同時に出店もしまり出したのでもう買えない。

 唐揚げ以外を抜いたとしても結構な量だったため何か残っているはず。


 「ごめん。もう夢奈が全部食べちゃった」


 「う、そ、だ、ろ⁉」


 俺と鈴美はその場に膝まづいて、この世の絶望を感じる。

 詳しくは覚えてないけど、焼きそば三つにフランクフルト四つ、りんご飴も五つ、かき氷も3つにカステラに大を二袋その他もうちょっとあってだぞ!


 小食男子一人に女子二人でなんで完食できるんだよ。


 「まぁ。コンビニで奢ってやるからな親友」


 「鈴美も私が好きなだけ奢るわ」


 「なんでだよーーーーーー!」



 


 


 


 


 


 


 

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