第4話 防衛出動
獣に襲われた宮坂達は懸命に拳銃を発砲して、獣をかく乱する。
正直、熊みたいな獣相手に彼らの持つ拳銃はあまりに火力不足だった。
それでも獣を怯ませる程度には役に立っているようだった。
獣の皮膚は毛で覆われ、拳銃弾が通用するようには見えなかった。その為、彼らは照準を目や鼻、口がある顔に集中させた。獣と言えども、顔は一番の弱点のはずだから。
獣は顔への銃撃を嫌う仕草をしながら、それでも宮坂達を襲うべく、進む。
時折、瓦礫を前脚で器用に掴み、宮坂達に投げて来る。当たりはしないが、その力は半端じゃなく、50キロ近い瓦礫を平然と数十メートル先に投げてくるのだ。
彼方此方から助けを求める声が聞こえるが、宮坂達は自分が助かる事で精一杯で、ただ、瓦礫の山を駆け抜けるだけだった。
練馬駐屯地では防衛出動に向けて、部隊編成が進められる。
「弾薬処からの弾薬輸送の手筈はどうなっている?」
「向こうは師団長のハンコだけじゃダメだと」
「非常事態だ。総理が防衛出動を命じているんだ。書類は後回しにして、弾薬を寄越せと言え。駐屯地の備蓄だけじゃ戦争は出来ないぞ」
事務方との言い争いはあったが、非常事態を理由にある限りの弾薬が吐き出され、隊員に実弾が配布される。
戦車などにも次々と砲弾が補充されていく。だが、それでも足りない。
「一部の部隊を先行させて、威力偵察を行い、敵の全容を把握する」
87式警戒車や装甲車による強行偵察部隊が組織され、駐屯地を後にした。
三島達も自動小銃と実弾が配布された。
「戦争なんですかね?」
部下が怯えたように呟く。
「そのために訓練を続けてきたんだろ?」
三島は笑って答える。
彼らに渡された武器は20式自動小銃とミニミ軽機関銃、カールグスタフ対戦車砲であった。
「カールグスタフなんて、市街地で使うんですかね?」
「無いよりマシだ。建物に潜んでいる敵も吹っ飛ばせる」
「ヤバいっすよ。民間資産の破壊は・・・」
「戦争だ。俺らは東京を救うんだよ」
三島はそう言うと、小隊長の命令下、部隊を出動させた。
警視庁は新宿の凄惨な状況を受けて、即座に機動隊、SATの投入を決めた。
MP5短機関銃や狙撃銃を手にした隊員達が居並ぶ。
それでも相手が未知の相手だけにどこまで通用するか誰もが不安だった。
多くの機動隊員は回転式拳銃のみ。ジュラルミンの盾が最大の武器である。
相手が火力を有するなら、ジュラルミンの盾を重ねて、防弾性能を上げる。
それしか方法が無いのだ。
彼らを乗せたバスはゆっくりと新宿へと向かった。
彼らに与えられた任務は武装勢力の制圧と救護者の救助。
熊だと聞いているが、詳細な事は何も解らない。
相手が熊だとして、我々の武器は有用なのか?
一番、威力があるのは狙撃手が持つライフル銃だ。
ライフル銃なら熊を相手にする事は出来る。それでも市街地でどこまでやれるか。
不安だけが機動隊員の間に広まる。
機動隊員達は新宿に到着した。すぐにバスから降車して、彼らは整然と並んだ。
新宿にあるのは巨大な構造物だけ。
瓦礫の山に鎮座するそれを見上げる機動隊員達。
「陣形を乱すな。攻撃はSATと銃対が行う。他の者は救護者の捜索と救出に集中しろ。敵が接近したら、作業を止めて、退避だ。いいな」
普段、集団警備の際には機動隊隊員は拳銃を所持しないが、今回は全員が拳銃を携帯している。だが、予備弾があるわけじゃないので、たった5発の銃弾が彼らの武装と言える。
残骸の彼方此方からも助けを求める声や呻き声などが聞こえる。
多分、多くの人々がこの残骸の下に残されているだろう。
一人でも多く、助ける事が彼らの使命であった。
機動隊員達はすぐに手作業で残骸の撤去を始め、救助を開始した。
その間にSATと銃対は彼らを守る為に前に出て行く。
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