第9話 大浴場は危険がいっぱい

 旅館の自分たちの部屋にいくと、荷物が置かれていた。

「今日はここなんだ」

「結構広い」

 そう言ったのは、早めに来ていた二人のクラスメイトだ。二人ともおとなしめで、黒髪がよく似合っているクラスメイトだ。どちらもあまり話したことはないし、能力も知らない。だが、地味な私服や穏やかな雰囲気はたしかに西島がこっそりと選んでいたあって素朴な印象を与える。

 これなら、なんとか過ごせそうだ。

「あ、増栄くんたちも来てたんだ。ここ、結構広いよね」

 話しかけてきたのは、襟足をきっちりそろってきってあり清潔な印象を与える虹田(にじた)だった。彼は俺より小さくて、ちょっとだけほっとした。角川、栗須と歩いていると自分がちっちゃく思ってしまうのだ。

 たしかに、言う通り周りを見渡すと、6人部屋だからかかなり広かった。

 旅館なので、畳が引き詰められ、障子があり、木材がふんだんに使われている。THE和室って感じだ。

「うん。京都感ある」

 そう続けたのは、同じく素朴な印象の伏矢(ふしや)だった。彼は短髪で、子犬のような雰囲気がどこか感じられた。だが、身長は俺よりも高かった。ちょっと抜けたような声で、不思議な雰囲気があった。

「この和室が?」

 突っ込んだのは、興味津々に和室を見渡していた角川だった。

「うん。なんかいい」

「なんかいいって、すげえおおざっぱだな」

 くすくすと、愉しそうに角川は笑う。

 伏矢は不思議そうに、角川を見ていた。

「まあ、これからよろしく~」

 角川は笑い終わった後、伏矢と虹田に握手を求めていた。二人はとまどいながらも、しっかりと彼の手を握った。俺は少しだけ、不安だった気持ちが向上した気がした。

 この二人なら、大丈夫だろう。

 そもそも、心の声が聴ける西島が決めた二人なので心配はあまりしてなかったが。

 だが、その考えはのちに覆されることに、俺たちは気づいていなかった。



 そのあとは、班のみんなで和食の夕食を食べて、大満足だった。けっこう本格的だったな、と角川は言った。その言葉に、栗須は頷いている。俺も、その言葉に同意しつつ、部屋に戻る。

 しおりを見てみると、

「お風呂か」

「……うん」

 西島はぶるっと震えた。

 なんとなく西島の考えていることがわかるので、俺も同じように震えてしまった。しおりをバックにしまいつつ、そのままお風呂のためのタオルなどがはいっている袋を取り出す。部屋には6人全員が集まっていて、みんなで行くかという話になった。

「今混んでいるかなぁ」

 伏矢は、独り言のように言った。

「ま、大丈夫だよ。クラスごとに時間決まってるし」

「そうだよね」 

 虹田が答えて、俺はふと考える。

 このまま、栗須とお風呂に入りにいったら、かなりまずいんじゃないだろうか…。

 風呂というものは、いろいろと開放的なる。栗須は絶対…と思ってしまうのもどうかと思うが、俺の裸を見て妄想するに違いない。それは困る。洋服を着てたらごまかせるが、風呂場であそこが反応してしまうとマズイ。

 ……風呂場で勃起したら、一発で変態確定だ。

 栗須と風呂を共にするのはマズイ!

「俺、先行ってくるわ。一気に行くと、マズいからみんなはのんびりしてて」

 部屋に響き渡る声で宣言して、俺はお風呂セットをもって部屋をでた。普通に逃げた。

 走って、男の大浴場へ駆け込む。

 …そこまでしたら、やばいか?

 今のは不自然だっただろうか?――――俺はそこまで考えて、首を振る。

 のれんをくぐると、俺以外は友達ときている人が大半だった。「お風呂にはいりたい」「隣、女子の裸見れたりしないかな~」だとか、まったく青少年にとって正常な願望が聞こえてくる。

 俺は、洋服を入れる籠(かご)を確保して、急いで服を脱いだ。周りは男のむさくるしい熱気であふれている。

 まわりを見渡すと幸い、そこまでは混んでなかったので、ほっと息をつく。栗須がいないだけでも、こんなに服が脱ぎやすいとは思わなかった。裸になるのは一瞬で、タオルをもって足元に気をつけながら大浴場へ足を踏み入れた。

 大浴場は思ってたより大きくて、清潔感にあふれていた。だが、男ばかりなので、それはちょっと半減だ。大きな浴槽には、ちょろちょろと温泉が入られている。外は露天風呂になっていて、そっちに人が集中していた。サウナもあったが、数人しかいなかった。

 裸の同級生を見て、コイツ筋肉やべえ…なんて思った。

 俺はまず身体を洗うために、開いている場所を確保して、シャワーで身体を濡らした。

 汗をかいていたので、すっきりとする。

 しばらく身体を洗っていたが、後ろから怒気を含んだ声が聞こえた。

「増栄く~ん…」

「西島っ?」

 胸元をタオルで隠している裸の西島が立っていて、俺は思わずのけ反った。

『肌、しっろ…! 西島ちゃんだったら、俺犯したいなぁ』

『かわいい~、えっちなことしたいな』

 様々な願望が入ってきて、俺は頭が痛くなった。当の本人も不愉快そうに、身体を隠している。それほどに、西島の裸は綺麗なものだった。女の子のような顔に、白い華奢な身体。同じ男とは思えない。

 思わずじろじろと見ていると、西島は俺の背中を叩く。

「なんで、増栄くんも見てんの! あと、俺をなんでおいてっちゃったの~アホ~」

 ぐすぐすと泣きそうになっている西島を見て、俺は慌てた。俺たちの会話は、大浴場にいたみんなに注目されていた。あらぬ誤解を受けたら、俺は死ぬ。

「お、おいてったわけじゃないけど…。ほ、ほら、隣空いてるよ! 身体、洗おうよ」

「…うん…」

 西島は俺の隣の椅子に座って、シャワーで顔を洗っていた。ちらりと後ろを見ると、みんなが西島の裸を見ていた。きっと西島には、みんなの心の声も聞こえているのだろう。西島は俺に目を合わせると、鬱鬱とした顔で言った。

「…今、3人ぐらい増栄くん殺されてるよ」

 小声で、西島が言った。その言葉を聞いて、ぞっと悪寒がした。

 ふふっと笑いながら言っているので、きっと俺が西島をおいて一人で来たことに相当腹を立たせているみたいだ。

 俺は、ごめん…と謝るしかなかった。

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俺で妄想するのはやめてくれ! 元森 @moru2060

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