第8話 俺の貞操はいかに?!

そのあと、俺たちを乗せたバスは空港へ向かった。俺は初めての飛行機という乗り物にのるので、テンションがあがった。子供みたいに、空港へついたとき、でけ~!とかあれに本当に乗るのか?!と大声ではしゃいだ。

 飛行機に乗るまで、クラス内はざわざわとしていた。

 みんなの楽しそうな欲望が耳に届く。

 飛行機にいざのってみると、離陸する瞬間浮き上がっている感覚がおそってくる。隣に座っていた西島は震えていたので、俺は大丈夫だよと興奮さめずに励ました。ジェットコースターで落ちるときのあの浮遊感。

 外を見れば、いつの間にか雲が下に見えた。

 天気がいいので、澄み渡るような青色の空が窓の外には広がっていた。

 瞬間、クラスで拍手が巻き起こる。どきどき、どきどき、みんなの興奮は空を飛びたい、なんてロマンチックなものが増えてきた。俺は無事飛行機があがったことにほっとしつつ、隣で息を吐き出している西島の背中をなでた。

 キーン、と耳鳴りがする。それは急に高度に上昇したせいであろう。

 角川が唾をのむとなおるといったので、俺はそれになおった。何度かやったら治った。

 …飛行機は無事に目的地の空港へ着陸する。何時間乗っているのだろう…?

 すっかり西島と話していたら時間が過ぎていた。

 目的のホテルまでまたバスへのって、俺たちはバスに揺られていた。

「…別に、計画なんてないけどな」

 ぼそりと、俺が言うと、隣で座って飲料水を飲んでいた西島は目を丸くした。

「……いや、でも確実に何か計画してるよ。内容まではわからないけど…」

「マジかよ」

 俺は、思わず項垂れた。今まで特に角川と栗須は、変な行動はしてない。栗須はいつも通りたまに俺の眠気を覚ますような妄想してくる以外には、特に目立ったことはしてない。

「でも、なんで内容まではわからないの?」

 俺が後ろに座っている二人にばれないように小声で言うと、西島もトーンをさらに落とした。

「さっきからそれっぽい単語いって、連想させようとするんだけど、最後はよく分からないピンクのイメージがわきあがって見えないんだ」

「なんだそれ」

 ピンクのイメージって、俺が前に見たやつの似てる。

「なんか、気味悪いよ。…誰かが、俺の能力を邪魔してるみたい」

 ぞっとするよ、と西島はつづけた。西島の能力を邪魔する能力…―――。

「そのイメージをつかって?」

「うん、そう。まさか、これが角川くんの能力かな…」

 俺は西島の言葉を聞いて、心底底冷えした。だとしたら、角川の心が読めないことだって説明がつく。でも、と俺は一つの疑問をあげた。

「えぇ…。でも、そうだとしたら、俺たちが勘づいてるって気づいてるはずだよな…」

「そうだよね…」

 西島は、可愛い顔を曇らせた。

 二人はいったい何を『計画』しているのだろうか。それは『俺』に関するものだという。栗須が得する『俺』への計画…――――。

「マジわかんねぇ…」

 俺ははぁ~と息をつく。外は森林が広がっていて、絶好のもみじ日和だっていうのに、なんでこんなにモヤモヤとしなくてはならないのだろう。俺はモヤモヤした気分で窓を見つめた。そんな俺を一瞥し、西島はおずおずといった。

「…でも、ひとつだけ言えるのは、夜とか二人っきりになっちゃダメだってことだと思うよ」

 妙に神妙にいうので、俺はごくりと喉を鳴らす。

「…なんで?」

「……ヤられちゃうよ」

 耳元でささやかれて、俺は思わずのけ反った。

「な!」

 思わず大声をあげてしまい、俺は慌てて声を抑えた。

「な、なんで…んな、」

 頭が真っ白になって、呂律がまわってない。西島がそんなはっきりしたことをいうのかと驚いたし、何より想像してしまった。

「だって…、毎日毎日あんなん妄想ずっとしてたらそうとしか考えられない…」

 西島が言うと、信用性があって怖い。だって、西島は毎日普段から、栗須の心の声が聞こえてくるのだ。そんな能力を持つ人からこうも言われてしまうと、小さくうなだれてしまう。俺はため息交じりにいう。

「……まぁ、俺も、一瞬そうかなって思ったけど」 

 俺たちの小声での話は一つの答えへ着地しようとしていた。でも、それは俺にとってはとても不本意な答えで―――。

 俺も実は、考えていたのだ。それが最悪の『計画』だからこそ、考えないようにはしていた。でもその『最悪』が、一番ありえる計画なのだ。

 どうやって自分を守ればいいのかと思ったが、栗須は背も高いしタッパもある。暴力で勝とうとはしてはいけないだろう。まず自分が友達に殴るとかできるはずがない。俺はいってはなんだが、小心者なのだ。

「大丈夫、俺が増栄くんの貞操は守ってみせるよ」

 ぐっとこぶしを握って西島が小声で宣言したが、むしろ俺が西島を守ってやるべきだろ…なんて思ってしまったのだった。



 俺たちの乗ったバスは初めの旅館へ到着した。みんなバスを降りるとき、のびをしてこりを取っていた。この後はホテルでいったん入って、荷物を置いて、夕食をとりお風呂に入っていくことになっている。長時間の移動で、すっかり夕日があたりを覆っていた。

 来たことがない土地には、山や森があたりに広がっていた。空気が澄んでいて、俺は息を大きく吸い込む。

 ホテルでいろいろと生徒会が催しをやったり、レクなどをするらしい。

 テンションが高くなっているのかよく分からない栗須と、角川が俺たちのそばによってきた。

「部屋何番だっけ?」

 角川は、少しウキウキした様子で聞いてくる。隣の栗須は、いつも通りの仏頂面だ。

「709」

 俺はたぶん、といって答えた。

「お! はじっこかぁ、いいところ当たったな」

 西島は、少し不安げな表情をした。どうしたのだろう?

「枕投げとかしよーぜ」

「顔に似合ないことはやめろよ」

 角川の言葉に、栗須は無表情のまま言った。だが、そのとき、声が聞こえてくる。

『増栄と一緒に枕投げしたい』

 お前も顔に似合わないこと言ってんじゃねえよ!

 俺は思わず、届かないだろうけど、つい突っ込んでしまった。


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