死者のおくりびと(Demo)

夏虫

本編

 私がウィンドチャイム雪原の寂れた田舎町に住んでいた頃はまだ幼く、長い夜で寝付けない日は母が古びた伝説や寓話を語ってくれたものでした。

 その多くは記憶に残っていませんが、一つ教訓と共に語った話だけは、長く時を経ても脳裏に焼き付いています。

 それは私たちよりも長い時を生きる旅人の話でした。長く歳を重ねた旅人は、長い長い時間の中で数え切れない数の人達と出会いと別れを繰り返していきました。

 それは広大な氷原での邂逅であり、丘陵に佇む塔での遭逢であり、また峡谷の国の中心地での相逢いでした。友人を何度も看取り、一つの歴史の終わりを目に焼き付け、世界の果てで見出した最愛の人に先立たれ、旅人は人と関わるのを避けるようになりました。どんな出会いも別れへの萌芽になるのなら、私は人を嫌いにならなければいけないと。人との別れは旅人にとって辛い出来事でした。夜を巡るたびに涙を枯らし、夜が明ければまた錆びついた体を動かす日々。やがて長命な旅人にも寿命が近づきます。

 誰もやってこない この世界の僻地で旅人は孤独に死んで行きました

 人は生命を終えると、神の名のもとに最後の審判を受け、死者の国に行くのだと言います

 はそこで亡くした人たちと出会いまた涙を流すのです。けれど、悲しみの故に流したのではありませんでした。……そうした 一幕があり 物語は終わりを告げました。

 母がその昔話を語ったのは、ひとえに私の境遇を意識的にか、あるいは無意識的にでも重ねていたからなのでしょう。

 私と母は長命なヒルシア族の最後の末裔で、頭には二本の角があって、耳も長く毛深くて、それから10万もの月日を数える間を生きるといいます。だからか、その人生には人との出会いと別れがつきものだといいます。

 寿命の短い人々との別れはきっと、これから多く経験する。雪原での暮らしはとても心地よいものだけど、ヒルシア族は誰も旅好きで同じ場所に留まるのを良しとしない。父や母は別だったけど、私はやはり血に従い広い世界を見たがった。暖炉の焚火の音を聞き、私はこの先の旅路に想いを馳せ、まだ本当の別れを経験していないなりに、人との別れとは何かを考えていた。

 果たして大人になり、私は旅の中でいつもその物語を思い出すのです。


 ◇


 オンボロの列車が長いトンネルを抜けると、一面の銀景色が辺りに広がりました。沈黙した山中を長い車両が縫っていくのを、私とNさんはどこか遠い目で見ていました。

「バロック雪街に着くのは、」

 列車の中は暖房が効いています。外の風景に合わずここは暖かく、しばらくぶりの出張とあって物置の奥から引っ張り出してきたケープや毛皮のブーツは使いどころを待つばかりになっていました。

「まだまだ時間がかかりそうですか」

 Kの言葉で白昼夢にいたのを起こされて、私は彼を見ました。彼もまた同じく私を見ていました。

「うーん。。。。。。この天気だと、あと一時間はかかるでしょうね。車掌さんも、なんだか忙しそうでしたし。。。。。。何かゲームでもして時間でも潰しましょうか?Kさんには怒られてしまうかもしれませんが」

「やめておきます。あの人は油断がならないから、」

 川のせせらぎや、鳥の鳴き声は雪にかき消されているようであり、静かではないのに音数の少なさが耳につきます。代わりに車内はにわかに沸き立っているように思えました。冬の御霊祭りの時期に雪が降るのは ここ数十年ぶりの出来事だったからでしょうか。

「そういえばあなたは、雪は好きですか?」

「大好きですよ。雪遊びも、少し冷たいのも、みんなで雪像なんか作ったりして……私の故郷も冬には毎年のように降るので懐かしい気持ちです」

Nさんの問いかけに私は答えます。汽車の中は暖かく、窓一枚を隔てた向こうに銀景色があります。なんとなしにずっと昔のすたるじあが追想されたのは、もしかするとそうした理由だったのかもしれませんでした。

 寒空の下で同年代の子どもたちと雪遊びをした日々。夕刻になって家に帰ってくると全身が雪まみれになっているものだから母に呆れられ、体を温めようと暖炉の前で熱いココアを飲んだものでした。それも。もう何十年も昔の事です。

「ヒルシア族の人間でも、雪は好きですか」

「私は故郷がウィンドチャイムの方だったので。Nさんは……雪はあまり好きではなさそうですね」

「雪どころか、寒いところはいつだって苦手ですよ。私みたいなのは冬の季節は 暖房の近くでまるまるのが一番いいんです」

Kさんは元は温暖な地域に暮らしていた民族であり、いつもより元気も少ないようです。

「まあ、しかし、こういう景色が好きだという気持ちはわかります。冬の季節でなければーーこういう仕事も歓迎できるのですが」



Nさんは昔から旅が好きだった。


 もし今後、北部に仕事に行く機会があれば合間に観光の案内をするくらいはできますよ

「時間があれば是非お願いします。きっと後悔はさせませんから」


 ◇


 果たして街に着いたのは黄昏時になる。

 列車は雪のためにしばらくバロック雪街に停車する予定であるそうでした。私とNさんは駅舎に着くなり、別れの挨拶を告げてそれぞれの道へ行きました。次に出会うのは帰りの時か、仕事の合間で偶然鉢合わせるかのどちらかになるでしょう。少しの名残惜しさを胸にして、私はKさんとの約束の場所へ向かいました。

 約束の場所とはつまり、街の中心付近に立つ図書館の事です。古い伝承や文献が数多く残り、これからの仕事に役に立つ事を調べている、と。

 夜の頃合いに一度そこで話そうと言われたが、既に曇り空はいよいよ紺色に近づいていた。私は早々に向かうと決めた。

 バロック雪街は旧い様式のレンガ造りの建物が立ち並ぶ古風な街であり、ある種現代とかけ離れた浮世のような空気を有する。しかも今日のような冬の御霊祭りの夜になると更に面妖さは度合いを増すという。

 日暮れが近づいた往来を闊歩するのは白布を頭から被った子供であり、おどろおどろしい悪魔の面を身につけた男性であり、フィリア族を模した長いつけ耳の(あるいは本当のフィリア族だったのかもしれませんが)老婆だった。

 物の怪の街、というのは冬の御霊祭の時期に来た旅人が口を揃えて言うことだった。今の時代にこうした風習が残り人々の間に根差しているのは少し奇妙な事のように思えたが、それ故か私のようなヒルシアの民が角を隠さずにいても奇異の目を向けられずに済むのはありがたかった。普段ならば目深にフードを被って人の視線を遮るものを、今宵だけは人と人との境が失せて、どこにでもありふれている普通の人間のように振舞える。しかしきっとそうした日には、こちら側とあちら側の境界があやふやになるに違いなかった。急がずに済む余裕はあれど、注意だけは怠らないようにしておきたかった。

 街の広場にはこの日限り開かれる露店の市場があり、きらびやかな電飾で飾り付けられて誰もが楽しそうにしている。放蕩する人もあれば親子で愉快に祭りを楽しむ姿もあり、年に一度のお祭りを人それぞれにそれぞれの形を以て謳歌しているように見えた。私は屋台で割高な価格の焼き菓子を買って、それから広場の中央の噴水に腰かけて人の姿を見ていた。

 私はまだ楽しげな未来を思い浮かべられるのか。ふいに思うときがある。あの日から世界は生まれ変わって、なんでもない出来事や日常が大事に思えるようになった。顔を忘れた旅人の笑顔や、食事の間のくだらない冗談や、取り戻せない寂れた思い出が、今になって大切だと気付かされた。成長したのだ、と言われればそうだし、歳を重ねたのだと言われれば、それもまた真実であるように思う。楽しげな未来は生きている合間に減っていって、後には静けさと閑で満たされていき、ただ、当たり前の日常がこの上ない幸せだったと実感できるようになっていく。


 私が焼き菓子を食べ終えた頃にもう一度人の流れを見ると、露店の市場に一人の少年が立っていた。

 暖かそうな毛皮のコートを着ており、肩に大人用の鞄を掛けている。平時ならむしろ目立たない風だが、何の仮装もしていないというのが今宵ばかりは目立っている。しかしそれでも、誰にも気づかれる様子はない。人混みの中で小さなメモ書きを頼りにどこかへ向かおうとしているようだが、右往左往しているのを見るにそもそもの目的地を見失っているようだった。

 傍目にはちょこまかと動いているのがおもちろおかしく見えるのだが、しかしどうにも少年はかれこれ10分ほど堂々巡りをしていた。

 ただの親切心ではなかったが、その少年に声をかけてみようと思った。

 私が重たい腰を上げた時、僅かに少年の体幹が揺らいだ。。。。。。かのように見えた。

 気のせいではなかった。あっと言う間もなく、その少年は雪に足を取られた。私はすかさず手を伸ばした。この調子ではきっと支えきれないとわかっていながら、その手は少年に触れた。

 想像していた重さはなかった。それは体躯が小さいから、という至極当然な理由ではなく、ただひたすらに存在感が希薄だったのだ。ふと気づけば消えてしまいそうであり、すべて起きたまま眺めている夢の中のようだった。二人共ども雪で転んでしまうような事態は起こらず、両の手に少年が収まっただけに終わった。

 振り向いた少年と目が合った。

 青い瞳が私を覗き込んでいた。

 慌てて少年は離れた。恥ずかしさがあったのか それとも人に触れられるのが嫌だったのかは判然とせぬままでした。

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。……。ありがと」

 私が子供だった頃そうであったように、その少年もやはり素直ではなかった。きっと、嫌だったからではないのだろう

「僕、用事があるので」

「ちょっと待って これ忘れてますよ」

 私が足元に落ちていた小さなメモ書きを拾い上げた。少年はすぐにその手からひったくった。小さな紙の切れ端だった。

「見た」

「なーんにも見てません」

「嘘つき。……。ねぇ、パン屋が向かいにあって、五階建ての建物が傍に立っている家。。。。。。知らない」

「あいにくこの街に来るのは初めてなので、すみません」

「ちぇっ、つまんないの。。。。。。。ああ、だからか。その角、全然似合ってない。外した方がいいよ」

「取れんのですよ、この角は」

 側頭部に生えた角に触れてどうしてもこれは取れないのだと主張すると、少年もようやく観念したようで、バツが悪そうに、「これ、読める?」

 紙を渡してきた。あまり 上質ではない ボロボロの紙に読めない字で何か書いてある。この大陸では用いられない言語のようだったが、一つ一つの文字を確かめてみると見慣れた文字との共通点が浮かび上がってくる。どうやら、ただ文字が稚拙なだけのようだった。しかし読めないのは依然変わらない。

 メモ書きには、走り書きの文字に加えてちょっとした地図も描かれているようであったが、やはりこれも場所を特定するには至らない。

「解読には時間がかかりそうです」

「だったら待つから、少し、お菓子だけ買ってくる」

しばらくして

、少年は宣言通りに氷菓子を買って帰ってきた。

「こんな時期に食べたら風邪を引いてしまいますよ?」

「こんな時期しか食べられないからだろ」

少年は氷菓子を食べた後に頭を押さえていた。無理をしていた。噴水の縁に座って、少年はまた話し始める。

「ずっと遠くに住んでて……でもお母さんに会いたくて一人で帰ってきたんだ。でも、帰る場所を忘れちゃった。お姉ちゃん、一緒に探してくれない?」

 私は、今の時間を確認しようとした。ポケットにしまい込んでいた懐中時計は、Kさんとの約束と程遠い時刻を指し示していた。少年の頼みに付き合う余裕は十分にある。しかし。

「どこから来たんです?」

「遠い場所だったはずだけど……うまく思い出せない……」

「列車を使ってきたんですか?」

「違う。歩いてきたんだ」

「お母さんは本当にこの街にいるんですか?」

「当たり前だろ! いるはずなんだ……」

 少年は断言するたびに自信をなくしていくようでした。

 少年の言う目的地というのは 私には分かりません 少年にもきっとわからないでしょう 行く場所もわからなければ帰る場所もないそんな彼に何をしてあげられるのか。

 Kさんであればどうしたか。親身になって接したかもしれない。

「さっきからずっと鐘の音がなってないか」

 何も聞こえません

 そんなはずはない だってずっと向こうから鳴ってるのに」

カリヨンもなければ時計塔の影もない。雪に覆い隠されているのかもしれなかった。

ちょっと待ってください。はぐれると危ないですよ!

 どこかへ一人去っていった。紙もほったらかしにして。けれど、その少年が行った場所はなんとなくわかるように思われた。


 鞄から取り出したカンテラに灯を燈すと、一人先だった少年の足跡がはっきりと見えた。

 温かな火の光は、見る人の心を落ち着かせる明るい色だ。私はこのカンテラが好きだった。ずっと昔、ある老人から生前譲り受けた代物だが、今では私の旅道具になっている。

 老人は古物の収集家でもあり、古ぼけた道具を好んでいた。

 時代の過ぎた今では、もっと性能の高い品も買えないわけではなかったが、ただ老人にとっての思い出だからと私はそれを使っている。

 私の旅道具のほとんどはいわば、実態の伴わない過去の出会いで構成されている。

 さる戦死者から受け継いだ軍のコートや、ある誕生日に貰った機械仕掛けの時計や、あるいは名前を並べるだけでも億劫になる裁縫道具や工房道具の数々。そうした道具も、今では手足の延長線として役に立っている。思い出がある以上は、そこに実用性以外の意味合いがある。私には、それを『魂』と呼ぶのだと信じている。

 カンテラは夜道を照らして、行く先を示していた。一つ続く足跡は街の中心部から全くの反対に向かっていて、街を外れるにしたがって辺りのガス灯の本数は減っていった。騒がしいながらも賑やかな人の声は次第に途絶えて、冷たい風の音だけが鳴るようになった。それから、降り止まない雪の白と、カンテラの照らす橙色と、暗闇の黒ばかりが目立つようになる。

 やがて一面の銀景色が見えた。寂れた家々やぎこちなく回り続ける風車が遠くに見え、四角い石盤が標のように無数に立ち並んでいた。

 ここに人の影はない。殆どなく、代わりに、雪を被った丘に小さい足跡が一つ、てっぺんの方へと伸びていた。私はその足跡に沿って登っていった。

 丘の上には枯れた木がぽつんと立っていた。少年はその木に寄りかかって遠くを見ている。生気を感じさせない青白い肌。冬毛の皮のコート。まだ成人を遠くに控えた小さな背丈。私と少年の他に人はいない。御霊祭りの時期にここへと立ち入る者はせいぜい送人か墓守くらいのもので、普通の人は気味悪がって夜の間には近づこうとしない。

 息は白く凍えた。気温だけではなく、どこか悪寒を感じさせる土地だった。

 静謐なここは、失意の底で浮かばれずに亡くなっていった人々の残滓や、家族に見守られながら死んでいた者を弔う墓地だった。雪の層を隔てた下には無数の死人が眠っており、きっとこれから誰にも顧みられない場所。

 寒空の下は凍える。風は遮られず、雪は吹き付け、カンテラの灯は鈍った。

 翳った雲の切れ間に、僅かに月明かりが差し込んだ。

「帰る場所、見つけたよ」

 少年は遠くに眼差しを向けている。

 凛然と輝く街の明かりは徐々に衰え、やがて雪も止んでくる。バロック雪街にも、眠る時間がやってくる。

「ずっと聞こえる。鐘の音が、ずっと」

 虚ろにうわごとを繰り返す。意識のもうろうとした病人と相対しているようで、不意に壊れてしまいそうだった。

少年の顔を覗き込み、じっと瞳を見た。白い息と、寒さで赤くなった顔をずっと近づけた。額と額がくっつくまで近づけて、

「大丈夫です。大丈夫ですから」

と言いました。

次第に呼吸は落ち着きを取り戻し、










「迷わずに行けるかな」

「もし迷ったら、その時はまた戻ってこればいいんです。そうしたら、私がちゃんと道案内しますから」

「だったら、信じてみるよ。ありがと」

 少年は笑みを浮かべた。

 これから先の不安はない。

 少年は少年の道を私は私の道を進むだけで、今日はたまたま 2つの道が交わっただけだ。けれど その一度きりの出会いが少年にとって良い経験であれば良いと思う。

 そうして私にとって、きっとかけがえのない思い出になれば嬉しいと思う。

 少年が去った頃は 雪もすっかり止んで夜の静けさを取り戻した。

おや、と少年の歩いていくほうを見た。

少年が聞いた鐘の音はただの幻聴だと信じていた。けれど確かにその時、私は鐘の音を聞いたのだ。この仕事に就くようになってからというもの奇怪な現象には幾度となく見舞われ、遍く事象に心が揺り動かなくなった私でも、その音色には意識が冴えた。私があの日、死者の国に迷いこんだ時に聞いた音。


 ざく、と雪を踏む音がした。振り向くとそこにはKさんがいた。頭からすっぽりと雪をかぶっていて、雪原で生活する民族のような様相を呈していた。

「Kさん。久しぶりです。こんなところで奇遇で…」

「約束の時間になっても来ないどころか、こんなけったいな場所まで来るとは、」





 まじまじと眺めると、



 Kさんとの別れは今から十年前にまで遡ります。離れた年の数だけシワの数も増え、老練しているように見受けられた。

「お前、他に誰かといたのか?」

「さあて、どうでしょう」

 はぁ、とKさんは大きくため息をついた。Kさんはそれ以上深く聞かなかった。三つ続く足跡を背後に数え、Kさんがわざとはぐらかして聞いているのだと知った。

「しかし、お前は変わったな」

 不思議がってKさんを見た。

「どうした。今言った事がおかしかったか」

「意外でした。昔会った人には、大して変わっていないと言われるので」

 そいつらはなーんにもわかっちゃいない、と言うようにKさんは鼻で笑って小馬鹿にするのです。

「お前はよく笑うようになった。ほらみろ、変わっただろう」

 右手が頬に触れる。自分自身で意識していない間に、私は笑っていた。ずっと昔のことを思い出しました。Kさんと出会った当初は、自他ともに認める仏頂面の人間だった。会う人と来る人は一目で付き合いの悪い人間だと確信し、実際に中身もそうだったのだから始末に負えない。なるほど確かに変わっていたのかもしれない。

「もしかすると、そうかもしれません」

「頑なでいるのは変わらんな」




「年を取るのは良くないさ。得る物が減って失う物が増える。未来より過去を思い描く方が幸せになる。成長はいつしか老衰へと変わる。そいつが老いってものだ。あんたもいずれそうなる」

「でも、悪いことばかりじゃありません。きっと、大切な思い出が残っていますから」

 風に吹かれて火が揺れる。暗闇に包まれた世界の中で、私はほのかに笑みを浮かべていた。私がKさんと別れた10年前のあの日、彼がそうしていたように。

 Kさんは敵わないなと苦笑して、踵を返して歩いていく。私もそれに倣って、冷たい大地を踏みしめていった。

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死者のおくりびと(Demo) 夏虫 @neromea

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